特訓と揺らぐ常識(2)
朝食の湯気がまだ立ち上る寮の部屋。
ネツレイが味噌汁をすくいながら、淡々と声をかける。
「ナヅキ、ちゃんと食え。昨日の訓練でヘロヘロになってんだから、栄養くらい取らねぇと」
「へいへい」
ナヅキは箸を持ちながら、どこか上の空でぼんやりしていた。
キサラギがクッキーの袋を破きつつ、何気なく問いかける。
「で? 昨日の個人レッスン、何を学んできたんだ?」
その言葉に、ナヅキは箸を止めた。少しの沈黙のあと、ゆっくりと口を開く。
「……なぁ。俺たちの“契約”ってさ、死んだら魂を天使に持ってかれるルールだろ?」
ニシナが小さく頷く。
「うん……そうですね」
「でも天使だって、俺らが生きてる間に強くならなきゃ意味ないんだろ? だったら……魂を奪うんじゃなくて、一緒に使い続ける道だってあるんじゃねぇかって、思ったんだ」
その場の空気がぴんと張り詰めた。
ネツレイが真っ先に反応する。
「は? 何言ってんだお前。そんな仕組み、聞いたこともねぇ。契約は契約。死んだら魂を取られる、それが世界のルールだ」
ナヅキは口を尖らせる。
「ルールだからって何でも従うのかよ。俺らはそのルールに縛られてんだぞ?」
「縛られてるからこそ戦えるんだ!」
ネツレイが声を荒げる。眼鏡の奥の瞳が揺れていた。
「魂を差し出す覚悟があるから戦士でいられるんだろうが!」
言葉のぶつかり合いに、ニシナが慌てて割って入った。
「ま、待ってください! ケンカしないで……! ナヅキさんの考えも、間違いじゃないと思います」
その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
キサラギは黙って二人のやり取りを見つめていた。やがて口を開く。
「……ナヅキ。お前が言いたいことはわかった。だが、それを本当に形にできるのか? 今はまだ夢物語にしか聞こえねぇ」
「夢物語でもいい。……俺は信じたいんだよ」
ナヅキは箸を机に置き、真っ直ぐに言い切った。
静かな朝食の部屋に、しばし沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、ネツレイの短い吐息だった。
「……ったく。お前のそういう無鉄砲さ、嫌いじゃないけどな」
視線を逸らしながら呟く。
ナヅキはにかっと笑った。
「だろ? やっぱ俺、天才かもしれねぇ」
「……調子に乗るな」
ネツレイは呆れながらも、心の奥底で小さなざわめきを感じていた。
その朝の会話は、確かな火種となって、彼らの未来を大きく揺さぶることになる。




