表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/77

特訓と揺らぐ常識(1)

 翌日、寮の敷地内にある訓練所は、乾いた靴音と掛け声で賑わっていた。

 その中心に立つのは、白髪をきっちりとお団子にまとめた少女——マテラの孫、スズナだ。


「ほらほら! 足が止まってる! もっと速く動けなきゃ命なんてすぐ無くなるんだから!」

 鋭い声と同時に、砂塵を巻き上げて彼女の足が一瞬で背後に回り込む。手にした短剣が喉元に突きつけられ、仲間たちは息を呑むしかなかった。


 契約しているのは“星の天使”。その力は流星のような衝撃を生む。華奢な身体からは想像できないほどの速さと打撃で、スズナは皆を翻弄していた。


 ——ただし、ひとりだけ不参加がいた。

「……頭いてぇ……」

 訓練所の隅で布団にくるまっているナヅキ。昨夜の飲み過ぎで、完全に二日酔いだった。


「は? 二日酔いで欠席? ありえないんだけど!」

 スズナはぷるぷる震えながら怒鳴りつけた。

「罰として! 夜にあんたひとりで私のレッスン受けなさい!」


 夕方、仲間たちが部屋で夕飯をとっている間。

 訓練所に呼び出されたナヅキは、頭を抱えながら現れた。


「ちっ……二日酔いくらいでここまでやるかねぇ」

「やるわよ! 甘えたら一瞬で死ぬのが戦場! 覚悟しなさい!」


 スズナが合図すると同時に、星の天使が淡く輝きを放つ。夜の訓練所に無数の光の粒が散り、隕石を模した衝撃が雨のように降り注いだ。


 ナヅキはひたすら受け続けるしかない。木刀で弾き、身をかわし、壁際で転げ回りながらも、スズナの速さと衝撃に押し潰される。


「ぐっ……はぁっ……! 一時間も、こんなの続けんのかよ……!」

「文句言う暇があったら動きなさいっ!」


 星が流れるように煌めき、砂煙が夜空に舞う。

 やがて時計の針が一時間を回った頃、スズナはようやく手を止めた。


「……ふぅ。よく立ってるわね。意外と根性あるじゃない」

「そりゃどうも……。吐き気でそれどころじゃねぇけどな」


 荒い息を吐きながら笑うナヅキ。その姿を見て、スズナは小さく鼻を鳴らした。

「バカみたいにしぶとい……でも、そういうの、嫌いじゃないわ」


「へぇ……褒め言葉として受け取っとくよ」

 ナヅキは口角を上げたが、すぐに空を仰いで黙り込む。


「……なに?」

「いや、ふと思っただけさ」

 月明かりに照らされる中、ナヅキはつぶやくように言った。

「俺ら契約者はさ、死んだら魂を天使に取られる。そういうルールだろ? でもさ……天使だって、俺らが生きてる間に強くならなきゃ意味ねぇんだろ」


 スズナはきょとんとした顔になる。


「だったら……魂を奪うんじゃなくてさ。ずっと一緒に使い続ける方法があってもいいんじゃねぇか?」


 一瞬、夜風が止まったように感じられた。

 スズナは何か言いかけて、口を閉じる。そして、ちらりと彼を横目で見て——頬をわずかに赤くする。


「……はぁ? 何それ。バカなこと言ってんじゃないわよ」

 吐き捨てるように言いながらも、その声色はほんの少し柔らかかった。


 ナヅキは肩を竦め、ふっと笑う。

「バカで結構。……でも俺、こういうこと考えるの得意なんだ」


 夜風に汗を冷やしながら、ナヅキは木刀を杖代わりにして立っていた。

 星の天使の光が消え、訓練所にようやく静けさが戻る。


 スズナは彼を一瞥すると、ぷいっと顔を背けてから、不意にパックの牛乳を差し出した。

「……はい! 頑張ったからこれ、あげるわ」


「へ?」

 差し出されたものを受け取りながら、ナヅキは首を傾げる。

「いや、俺……お前と違って発育困ってないんだけど」


 その瞬間、スズナの顔が真っ赤に染まる。

「なっ……!!! やっぱりあげない!!」

 奪い返そうと手を伸ばしながら、半泣きの声で怒鳴った。

「だ、だれが貧乳よバカ!!!」


「おいおい! なにも“貧乳”とは言ってねぇだろ!!」

 慌てて逃げ回るナヅキ。牛乳パックを持ったまま訓練所の隅に走り、スズナは顔を真っ赤にしたまま追いかける。


「返せっ! この無神経男!!」

「やめろ! 俺、もう一時間走り回ってんだって!!」


ふたりの追いかけっこに、星の天使が呆れたようにぽつりと口を挟む。

『……カルシウムは戦士に必須なのに。スズナは毎日飲んでるぞ』


「ちょ、ちょっと黙っててよ!!」

スズナの顔はさらに真っ赤に染まり、ナヅキは大笑いしながら牛乳パックを頭上に掲げて逃げ回る。


月明かりの下、命懸けの訓練場はいつしか、子どもじみた追いかけっこの舞台に変わっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ