重圧の黄金(2)
瓦礫に叩きつけられた黄堕天使の身体は、石化の紋様に覆われていく。
動きは鈍り、勝負は決したかに見えた。
だが、黄金の瞳が最後にぎらりと光った。
『……まだだ。まだ……私は潰せる……! この場に残るすべてを、重みで押し潰してやるッ!』
次の瞬間、凄まじい重力が炸裂した。
大地が悲鳴を上げ、建物が崩れ、空気そのものが重みを帯びる。
キサラギとニシナの身体も地に縫い付けられるように沈み、骨が軋んだ。
「くっ……こいつ……暴走してやがる……!」
キサラギは歯を食いしばりながら必死に立ち上がるが、全身が鉛のように動かない。
「キサラギさん……!」
隣のニシナも同じく押し潰され、呼吸すら困難になる。だが彼女は震える瞳で前を向いた。
「……絶対に……諦めない……! 一緒に勝ちたいから……!」
髪が蛇のように逆立ち、瞳が再び輝いた。
メデューサの天使の声が胸の奥で囁く。
『恐れを超えろ。お前の視線は“護り”だ』
「キサラギさん……全て残らず石にする……! だから——!」
その言葉に、キサラギは力強く頷いた。
「任せろ。お前の視線に合わせて、俺の光を撃ち込む!」
二人の呼吸が合わさる。
次の瞬間、ニシナの瞳が黄堕天使を正面から捉えた。石化の力が暴走する重力の波を覆い、動きを縛る。
『ぐっ……この私が……人間ごときに……! だが……ふふ……魔王様が目覚めれば……お前たちなど、塵に……!』
その声をかき消すように、キサラギは腕を突き出した。
胸の奥で、強く念じる。
(……見ててください、リヅ先輩。俺はもう揺るがない。あなたの背を、今度は俺が継ぐ……!)
「これで終わりだァッ!!」
夜空に大輪の花火が咲き乱れる。
爆炎と閃光が石化の紋様を走らせ、重力を打ち砕いた。
轟音が響き渡り、黄堕天使の身体は砕け散り、黄金の光が霧のように消えていく。
静寂が訪れる。
荒い呼吸の中、キサラギは横に倒れ込みそうになりながらも、隣のニシナの手を握った。
「……よくやったな、ニシナ」
「……はい……!」
涙で視界を滲ませながら、ニシナは小さく笑った。
キサラギは少しだけ視線を伏せ、ふっと息を吐く。
「……帰ったら、この前の本。貸してやるよ。きっとお前、好きそうだから」
何気なく言い残したその一言に、ニシナの胸が熱くなる。
思わず「……ありがとうございます」と呟きながら、そっとキサラギの肩に身を寄せた。
その温もりに応えるように、彼の掌がほんのわずか力強く握り返す。
その夜空に残ったのは、リヅ先輩への鎮魂と、新たに結ばれた二人の絆、そしてそれでもまだ消しきれぬ不穏な影だった。




