紅蓮の双牙(3)
赤堕天使の炎が消え去り、夜空には静寂が戻った。
レタスの翼をはためかせていたナヅキは、勝利を見届けた途端に全身から力が抜け、ふらりと傾き、そのまま重力に引かれて落下していく。
「おい……っ!」
地上で待ち構えていたネツレイが駆け寄り、全身を悲鳴させながらもその身体を抱きとめた。衝撃で足が沈み込み、肺に焼けるような痛みが走る。それでも、ナヅキを地面に叩きつけることだけは避けた。
腕の中で、ナヅキがかすかに笑った。
「ははっ……今の、ちゃんと見てた? 俺の勝ちだな!」
ネツレイは思わず目を細め、ため息をひとつついた。
「呆れた。お前の戦い方……相当変わってるぞ」
ナヅキはどこか得意げに唇を広げ、腕の中で力なく拳を握る。
「だろ? 俺は型にはハマらねぇんだよ」
ネツレイはその笑顔に視線を落とし、小さく息を呑む。胸の奥から、思わず本音が漏れた。
「……無事でよかった」
「ん? なんか言った?」
ナヅキが首を傾げ、耳を澄ます。
ネツレイは一瞬だけ動揺し、咳払いをして視線を逸らした。
「……ただ、調子に乗るなって言っただけだ」
「なにそれ、ツンデレ? もう1回言って!」
「うるさい!」
「じゃ、約束通り、夕飯はカレーよろしくな!」
「……お前ッ……馬鹿だろ……今それどころじゃねぇよ」
ネツレイは額を押さえ、割れた眼鏡を外して夜空にかざした。亀裂の入ったレンズ越しに月明かりが滲む。
「あーあ……この眼鏡、特注品だったのに……」
ナヅキはしばらく唖然と彼を見つめ——そして腹を抱えて笑い出した。
「ぷっ……ははっ! お前だって、死にかけてんのに眼鏡の心配してんじゃねぇか!」
ネツレイはむっと眉を寄せ、だが心なしか口元が緩んでいた。
「……笑ってられるなら、まだ大丈夫そうだな」
ふたりのやり取りが響く戦場に、やがて夜風が吹き抜けた。炎の匂いと血の熱気の中、確かに残ったのは——互いの存在を確かめ合う温もりだった。




