雪のあと(2)
休日の昼下がり。
街のカフェの窓際席。
外は雪解け水がきらめき、温かなストーブの熱が柔らかく漂っている。
リヅは赤いマフラーを外し、カップに手を添えて腰を下ろした。
向かいにはキサラギ、そして当然のように付いて来たナヅキ。
「……なんでお前まで来てんだよ」
キサラギが眉をひそめると、ナヅキはケーキを突きながら当然の顔をした。
「甘いもん食えるって聞いたら来るに決まってんだろ」
「……はぁ。食いもん目当てかよ」
呆れ混じりのため息。だがその空気は、以前より柔らかい。
リヅは二人のやり取りを見て小さく笑い、端末をテーブルに置いた。
「——今日は少し、真面目な話をするよ」
画面には三枚の瞳のアップ。
血のように赤い瞳。深海を思わせる蒼い瞳。黄金に輝く異様な瞳。
「調査班の報告だよ。上位の堕天使は三名。それぞれ瞳の色が特徴だと言われてる。
赤は力と暴走、青は幻惑と支配……そして黄はまだ不明」
ナヅキはケーキを頬張りながら覗き込み、口の端にクリームをつけたまま呟く。
「絶対やな予感しかしねぇ」
「食いながら言うな。……ほら、使え」
キサラギがハンカチを差し出す。ナヅキは渋々受け取った。
リヅはその様子を微笑ましく眺め、真剣な声で言った。
「君たちは想像以上に期待されてる。この時代を切り拓く“新しい力”として」
キサラギは黙って頷き、ナヅキは「俺らが世界救うってことでオッケー?」と軽口を叩く。
リヅはふっと笑って「うん、期待してる」と返した。
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雪景色が窓の外で輝く中、リヅはマグを両手で包み、ふとナヅキへ視線を向ける。
「ねぇ、ナヅキ。森で迷った赤ずきんのように……君が無くしたら困る“道標”は何?」
唐突な問いにナヅキは固まり、「は?」と声を漏らす。
隣のキサラギも、無言で視線を向けた。
ナヅキは頭をかき、しばらく考え込む。
「なんだよ突然……そういうの、考えたことねぇけど」
目を泳がせ、ぽつりと吐き出した。
「強いて言うなら……仲間、かな。負けたくねぇし、置いてかれんのもごめんだし。……隣にいる奴らが道標ってことでいいだろ」
不器用で投げやりな言い方。だがその奥には、真っ直ぐな思いがあった。
キサラギはわずかに目を見開き、リヅは静かに微笑んだ。
「いい答えだよ。誰かが隣にいる限り、君は迷わない」
ナヅキはむず痒そうに顔を逸らし、空になった皿をコツンと置いた。
「……大層なもんじゃねぇって」
けれど、ほんのり赤く染まった耳を見て、キサラギは小さく笑みを浮かべた。




