抜き打ちの微笑み(2)
翌朝。
寮のリビングで、四人はいつものように簡単な朝食をとっていた。
食パンの香ばしい匂いと、コーヒーの湯気。
一見すれば穏やかな時間——だが、次の瞬間、壁の通信端末が鋭い警告音を鳴らした。
『——緊急通達。第七部隊、昨夜の任務中に甚大な被害を受けた』
映し出された広報官の表情は固く、声には張り詰めた緊張が宿っている。
ナヅキは食パンを咥えたまま、動きを止めた。
『詳細は伏せられるが……内部から部隊の位置情報および契約者データが堕天側に筒抜けになっていた。裏切り者の存在が確認された可能性が高い』
その一言で、空気が凍りつく。
ネツレイは眉をひそめ、握った拳を膝に押し付けた。
「やっぱり……内部から漏れてたか」
キサラギは無言で画面を凝視する。瞳の奥に光るのは、ただの驚きではなく冷徹な警戒心だった。
一方、ニシナの手は震え、スープのスプーンが小さく音を立てて揺れる。
「な、なんで……仲間なのに……」
震え混じりの声は、聞いているだけで胸を締めつけた。
その瞬間、ナヅキが椅子を蹴って立ち上がった。
金属の脚が床をきしませ、怒声がリビングを揺るがす。
「ふざけんなよ……! 仲間殺してまで、何が欲しいんだよ!!」
怒りの熱が空間を圧迫する。
誰もすぐには言葉を返せなかった。
やがて、沈黙を切り裂くようにキサラギが低く呟いた。
「……昨夜のチェリーさんの抜き打ち。やっぱり、あれは裏切り者を探してたんだ」
ネツレイが眼鏡を押し上げ、険しい目で仲間たちを見渡す。
「庁はもう確信して動いてる。……次に狙われるのは、俺たちかもしれない」
重苦しい沈黙。
それを破ったのは、か細くも確かな声だった。
「……それでも……私、みんなと一緒に戦いたい」
ニシナだった。
震える手をぎゅっと胸に当て、紫の瞳をまっすぐ仲間に向ける。
ナヅキの荒い息が落ち着きを取り戻す。
キサラギの瞳に、一瞬だけ柔らかな光が宿る。
ネツレイは深く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
不安と疑念に揺らいでいた空気が、ほんの少しだが固まった。
それは、嵐の前に差す一筋の光のようだった。




