揺れる組織(3)
夕暮れの街。
天啓庁の契約者たちは定期巡回の任務で市街地を歩いていた。
ナヅキ、ネツレイ、キサラギ、ニシナ——四人が揃って歩くのは、もう日常の光景になりつつある。
「ふぁあ……今日は静かだな」
キサラギが周囲を見回しながら呟く。
「こういう時に限って油断すると、堕天使に不意を突かれる。気を抜くなよ」
ネツレイは眼鏡を押し上げ、冷静に答える。
「でも……なんか平和なのはいいことですね」
ニシナがほっとしたように微笑んだ。
——その時。
「……あれ?」
振り返ったニシナが小首を傾げる。
「ナヅキさんがいないです。どこですか?」
「……は?」
キサラギが慌てて後ろを見やるが、さっきまで隣にいたはずのナヅキの姿は、跡形もなく消えていた。
「あいつ……また勝手な真似を……」
ネツレイが小さくため息をつき、ポケットから小型端末を取り出した。
画面に光点がひとつ、ぴこぴこと点滅する。
「えっ……それって……?」
ニシナが目を丸くする。
「念のためだ。あいつのポケットに探知機を仕込んでおいた」
ネツレイの声音は淡々としていたが、その表情には僅かな苦笑が滲んでいた。
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一方その頃。
「ん〜〜、やっぱサボって食うクレープは最高だな!」
ナヅキは路地裏のベンチに腰かけ、嬉々としてチョコバナナクレープを頬張っていた。
パリパリの生地にとろけるチョコとクリーム。
巡回中であることなど、完全に頭から抜け落ちている。
「これ食ったらすぐ戻ればバレねぇだろ……」
そう呟いた瞬間、背後から低い声が落ちた。
「バレるに決まってるだろが」
「っ!?」
ナヅキが飛び上がるように振り向くと、そこには腕を組んだネツレイの姿があった。
眼鏡の奥の視線は冷え冷えとしている。
「な、なんで居場所が……」
「俺を誰だと思ってる。……ポケットを確認してみろ」
訝しげに手を突っ込んだナヅキは、小さな金属片をつまみ出した。
「……なにこれ」
「探知機」
ネツレイはきっぱりと答えた。
「どうせ途中で消えると思ったからな。先に対策しておいた」
「お前……性格悪ぃだろ!」
ナヅキが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「俺の性格が悪いんじゃない。お前が自由すぎるだけだ」
ネツレイが冷静に返す。
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その時、通りの向こうからキサラギとニシナが駆け寄ってきた。
「やっぱりここだったのか……」
キサラギが肩で息をしながら、呆れ半分に言う。
「ナヅキさん……急にいなくなるから、心配したんですよ!」
ニシナは少し涙目になっていた。
「……わ、悪ぃ……」
気まずそうに頭をかくナヅキ。
手に持ったクレープの紙だけが、やけに目立っていた。
「……それ、なんですか?」
ニシナが問いかけると、ナヅキは一瞬ためらった末に、残りを差し出した。
「……食うか?」
驚いたように見つめた後、ニシナは小さく笑って受け取った。
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その光景を眺めて、ネツレイは再び小さくため息をついた。
「……まったく、手のかかる奴だ」
けれどその口調には、ほんのわずかな安堵が混じっていた。
結局、チームはチームである限り——誰ひとり欠けてはならないのだから。




