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サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


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20/21

道標(1)

 秋の夜。

 寮のキッチンでは、ぐつぐつと湯気を上げる大きな鍋が食卓の真ん中を占めていた。


「んー……やっぱ鍋は正義だな」

 キサラギが箸を伸ばし、ほくほくの白菜を頬張る。


「美味しい……!味付けも完璧。さすがネツレイさんだね」

 ニシナが嬉しそうに微笑む。


「……別に当たり前だ。誰かさんみたいに“ネギ出して終わり”とかはしないからな」

 ネツレイが冷ややかな視線をナヅキに向ける。


「おい、それ俺のことだろ。便利に使えんだからいいだろ。なっ、サラダ〜」

 ナヅキが肩をすくめ、豊穣の天使が不満げにぷいと顔をそらした。


 和気あいあいと鍋を平らげ、片付けのためにニシナとネツレイが流しに立つ。

 そのとき、キサラギの端末が震えた。


「……リヅ先輩?」

 画面に映る名を見て、キサラギは電話を取った。


「もしもし。……え? 大きい買い物の荷物持ち? ……またですか」

 ため息をつきかけて、ふと笑みを浮かべる。

「……いいですよ。ただし条件つき。リヅ先輩がタバコ辞めるなら、付き合ってあげてもいいです」


 電話の向こうからくぐもった笑い声が聞こえた。

 キサラギは苦笑しながら応じる。

「いや、本気ですよ。体に悪いんですから」


 そのやり取りに、隣でごろりと寝転んでいたナヅキが顔を上げる。

「ねぇ、今の女の子から? 可愛い子?」


「馬鹿」

 キサラギが即座に切り返す。

 その軽いやり取りにニシナの手が止まり、流しの前で小さく唇を尖らせた。


 ——チクリと胸が痛む。


 思わずキサラギの服の裾をそっと引っ張る。

「……キサラギさん」


「ん?」

 振り返る彼の横顔に、ニシナは頬を膨らませたまま視線を逸らした。


「……なんでもないです」


 ほんの小さな嫉妬の仕草。

 けれど、それに気づいたナヅキとネツレイが、にやりと笑みを浮かべていた。


---


 その夜。

 秋も深まり、寮の窓から入り込む風はひやりと冷たかった。

 寮の部屋にはベッドが並んでいるが、暖房は抑えられていて、掛け布団だけでは心許ない。


「……さみぃ」

 ナヅキは寝返りを打ちながらぼやいた。

 視線を横にやると、一番近いベッドにネツレイが静かに眠っている。


「……仕方ねぇな」

 呟くや否や、ナヅキは毛布を引きずりながら、ずるりとネツレイの布団に潜り込んだ。


「……っ!? な、何してる!」

 飛び起きたネツレイが慌てて声を上げる。


「寒ぃんだよ。お前の布団が一番近かった」

 ナヅキは当然のように寝返りを打ち、肩口まで布団を被った。


「近いからって勝手に入るな! 出ろ! 俺で暖をとるな!」

 ネツレイが布団を引っ張ろうとするが、ナヅキは頑として動かない。


「うるせぇな……俺だって好きでこんなことしてんじゃねぇ……寒いんだよ」

 寝ぼけ混じりの声に、ネツレイの手が止まった。

 苛立ちと同時に、ほんのわずかな同情が胸をかすめる。


「……っ、仕方ないな……! 今日だけだぞ!」

 そう言って背を向けるネツレイ。

 だが布団の中から伝わるぬくもりに、心なしか顔が熱くなっていた。



---


 翌朝。


「……うわっ!? 俺の布団に……よだれ垂らすなぁぁぁぁ!」

 寝起きのネツレイの叫び声が、寮中に響き渡った。


「ん……? ああ……悪ぃ……なんか寝心地よくて」

 まだ寝ぼけているナヅキが頬を拭き、平然と布団にしがみつく。


「平然とするな! 洗濯係はお前に決定だ!」

「へいへい……」

 だるそうに返すナヅキに、ネツレイは顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


 だが、どこか——ほんの少しだけ、昨夜より心が近づいているようにも思えた。


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