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サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


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2/21

堕ちた夜の契約者(1)

  ——街の夜が、裂けた。

 ネオンの明滅に覆われた繁華街の裏路地に、黒い(ひび)が走るように穴が開く。

 そこから這い出したのは、粘液にまみれた黒毛の獣。牙を剥き、湿った臭気を撒き散らしながら、異界の気配を辺りに染み込ませていく。


「……またかよ。掃除してねぇ排水溝みてぇなヌメり方しやがって」


 ぼさぼさの青髪をかきあげ、フードを脱ぎ捨てながら、少年は路地に足を踏み入れた。

 その手に握られているのは、白と緑が混じる刀身を持った長ネギのような剣。刃が風を裂くたびに、鋭い音を夜へ刻む。


 少年の名は——ナヅキ。

 規律違反常習者と噂される契約者だ。


「よぉし、野菜不足の化けモンに栄養補給してやんぜ」


 軽口に合わせるように、耳元で透き通った声が響いた。

 ナヅキと契約した“サラダの天使”。声には厳しさと、不思議なほどの親密さが混ざっている。


『また単独行動か。君の魂は私が育てるんだ、勝手に削るな』


「はいはい。うるせえおかんだな。見てろよ、俺ひとりで片付けるから」


 魔物が咆哮を上げる。粘液を撒き散らしながら跳びかかる巨体。

 ナヅキは一歩踏み込み、長葱剣を振り抜いた。

 緑光の軌跡が夜を裂き、魔物の腕をまとめて吹き飛ばす。


『深追いはやめろ! 援軍を待て!』


「待ってりゃ街が食われんだろ」


 さらに二体、路地の奥から姿を現す。

 だがナヅキは口角を上げ、残像のように駆け抜けた。

 閃光とともに首を跳ね、返す刃で胴を裂く。

 血も瘴気も纏わず、着地した足元のアスファルトだけが砕け散った。


「……楽勝すぎ。俺を縛る意味あんのかよ」


 その時、耳元の通信機がノイズを走らせる。

 冷え冷えとした声が、容赦なく響いた。


『ナヅキ……また独断専行か』


「いやぁ、すぐ終わったし。逐一報告なんて時間の無駄っすよ」


『帰還後、詳しく話を聞く。覚悟しておけ』


 通信が切れる。

 ナヅキは舌打ちし、空を仰いだ。


「チッ……どうせまたお説教タイムだろ。めんどくせぇ」


 路地に転がる魔物の死骸は瘴気とともにゆっくりと消えていく。

 ナヅキは長葱剣を肩に担ぎ、街灯の下へ歩き出した。


 その背へ、冷たくも厳かな声が降る。


『ナヅキ。君の魂は、君だけのものじゃない。忘れるな』


 答えずに歩く背中を、街灯の光が淡く照らす。

 投げやりで、けれどどこまでも孤独な影だけが、夜の街に長く伸びていた。



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