表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

マテラの特訓(1)

 翌日。

 天啓庁の訓練場は、まだ朝の冷たい空気を張り詰めさせていた。

 呼び出されたナヅキたち四人は、どこか緊張した面持ちで並んでいた。


「先日の堕天使、強かったわね。このままじゃ負けちゃうかもしれない……。そこで、君たちには堕天使対策の特訓を受けてもらうわ」

 チェリーの声が響き、その隣にひとりの老人が姿を現した。


 背筋はやや曲がり、髪も真っ白。

 だが、眼光は鋭く、ただ立っているだけで周囲の空気を支配する迫力があった。


「……紹介するわ。元・前線部隊所属、今は庁の指導役を務める《マテラ》よ」


「じじいじゃん」

 ナヅキが真っ先に口を開き、即座にネツレイが肘で小突いた。

「お前な……!」


 マテラの眉がぴくりと跳ねる。

「じ、じじいではない! マテラと呼べ!」


「でも……おじいちゃんですよね?」

 ニシナが素直に言ってしまい、マテラは一転して目を細め、柔らかな笑みを浮かべた。

「ふふ……おじいちゃん、か。悪くない呼び方だな」


「……ちょろ」

 キサラギがぼそっと呟いた瞬間、彼のポケットが軽くなった。


「あっ!? 俺のどら焼きがねぇ!」

「む。甘いものは命の源だ。返すつもりはない」

 マテラはどら焼きをむしゃむしゃと頬張り、咳払いひとつで空気を切り替えた。


「さて……余興はここまでだ。今日から貴様らには、“生き残るための戦い”を叩き込む」


 その背後で、雷光が弾けた。

 白銀の翼を持つ雷の天使が顕現し、訓練場全体を眩い閃光で満たす。


『……また力を使うのか。お前の体力では長くは保たんぞ』

 低い声が響き、雷鳴が床を震わせる。


「構わん。若い芽を育てることこそ、今の使命だ」

 マテラが拳を握ると、稲光が空気を裂き、砂煙を散らした。


「さぁ、来い! 堕天使に怯えている暇があるなら、この俺を倒してみせろ!」


 挑発と同時に、稲妻が奔る。

 轟音が壁を揺らし、床に焦げ目を刻む。


「じじい、やべぇ……本気じゃん……!」

「だからじじいじゃない!」


 雷撃を紙一重で避けたナヅキが舌打ちし、長ネギの剣を振り払った。

 剣が稲妻を受け流した瞬間、火花が散り、腕に痺れが走る。

「っ……効くな……!」


「ナヅキ、無茶すんな!」

 ネツレイがすかさず滑り込み、スティレットを地面に突き立てる。

 刃先から広がった毒煙が、雷の流れをわずかに遮断した。


「ナイスだ、ネツレイ!」

 キサラギがその隙を逃さず光球を放ち、閃光でマテラの視界を奪う。

 ニシナが髪を伸ばし、仲間たちを絡めて一気に退避させた。


「みんな、こっち!」


 背後で雷撃が炸裂。

 寸前で退いた四人の頭上を稲妻がかすめ、髪が逆立つ。


「……おおっ、なんかいい感じじゃん。今の、ちょっと息合ったんじゃね?」

 ナヅキが肩で息をしながら笑う。


「調子に乗るな。次は合わせられなければ感電死だ」

 ネツレイが眼鏡を押し上げ、冷ややかに言い放つ。


『……お前たち、今のは悪くないぞ』

 雷の天使が静かに言葉を落とした。

『だが、この老いぼれに一撃でも届かねば、堕天使には到底及ばぬ』


「老いぼれ言うな!」

 マテラが雷を纏った拳を構える。

「さあ、次は全員でかかってこい! 俺を倒せるまで、訓練は終わらん!」


 雷鳴が轟き、訓練場が白一色に塗り潰される。

 四人は互いに視線を交わし、自然と背を合わせていた。


「……よし、行くぞ!」

「おう!」

「はい!」

「了解だ!」


 その声が重なった瞬間、雷光の下で初めて彼らの鼓動がひとつに重なった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ