表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

堕ちた翼(1)

 夜の廃ビル街。

 砕け散ったガラス片が風に舞い、紫の瘴気が低く渦を巻いていた。


「まさか偵察でこれとはな……」

 ナヅキが剣を肩に担ぎ、不満そうに吐き捨てる。


「観測班のデータは正確だ。瘴気濃度の急上昇——間違いなく“異常”だ」

 ネツレイは端末を見つめ、声を低くした。


 その時、轟音。

 ビルが爆ぜ、炎が夜を裂く。赤黒い炎の向こうに“それ”は立っていた。


 漆黒ではなく、蒼。

 濁りひとつない青の光を宿した翼は裂け、冷たい氷片のような羽根がひらひらと降り落ちる。

 頭上の光輪は折れ曲がり、青白い火花を散らしていた。


 そして、あどけない笑顔を浮かべた男が、無数の魔物を糸で操る人形のように従えていた。


『きゃははっ! いいねぇ……いい音、いい匂い! 人間って壊れると、まるで氷が割れるみたいに綺麗だ!』


 指先が軽く弾かれるたび、魔物が襲いかかる。悲鳴、血飛沫。契約者の命は青い夜に溶けるように散っていく。


『ほら見て! パリンッて割れた! ねぇ、楽しいでしょ?』


「それ以上はやめろォォォッ!」

 怒声を上げ、ナヅキが飛び込む。長ネギの剣が閃き、魔物を斬り裂く。


『おや……元気なのが一匹。ふふ、いい顔だ』

 青の堕天使は首をかしげ、子どものように笑う。

『ねぇ君、怒ってる? 仲間を守りたいんだね。すごく……澄んだ目をしてるよ』


「てめぇみたいに命を弄ぶ奴、絶対に許さねぇ!」

 ナヅキが叫び、剣を振るう。だが堕天使は楽しげに手を叩いた。


『へぇ……でもね、君が怒っても何も変わらない。見せてあげるよ』

 その声と同時に、別の契約者が魔物に噛み砕かれた。絶叫が青に溶け、血飛沫が夜気に散った。


『ね? 君はただ見てるだけ。氷のように冷たい無力感、味わえてる?』


「黙れッ!」

 怒りで剣筋は荒れ、魔物の群れが次々と取り囲む。


「撤退だ! 全員退け!」

 ネツレイの声が飛ぶ。

「ここで倒れたら全滅する!」


「だが仲間が——!」

「死んだら、守る意味もなくなる!」


 ナヅキは悔しげに歯を食いしばり、仲間と共に後退した。炎と青白い閃光の街を抜けるように、四人は必死に撤退する。


---


 残された戦場に、新たな風が吹いた。


「——やめなさい」


 嵐のような気配がビル群を薙ぎ払う。

 緑の長髪を揺らし、チェリーが現場に降り立った。風が瓦礫を宙に舞い上げ、炎を一瞬で呑み込む。


『あら、新しい遊び相手? ……ううん、これは“大物”だ』

 青の堕天使は子供のように目を輝かせる。


「あなた……青の堕天使ね。天使の名を汚す存在、ここで討つ」


 チェリーの一声と同時に烈風が爆ぜ、魔物の群れが灰と化す。嵐の刃が廃墟を一掃し、風の怒りが夜を裂いた。


 しかし堕天使は笑みを浮かべ、影に身を沈める。

『ふふふ、また遊ぼうね。次はもっと、冷たく壊してあげる……!』


 瘴気ごと姿が掻き消えた。


「……逃げたか」

 風を収めたチェリーは拳を握り、横たわる契約者の亡骸を見下ろす。


「青の堕天使——必ず、私たちで終わらせる」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ