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サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


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14/23

夜の訓練場にて(2)

 訓練場に笑い声が響いていた。

 ナヅキとネツレイはまだ「洗濯係」をめぐって取っ組み合い、キサラギは自販機で買ったいちごミルクをニシナに勧めている。

 ほんのひととき、戦場を忘れた穏やかな時間——。


 ——だが。


 地の底から低い唸りが響き、空気がびりびりと震えた。

 訓練場の隅、フェンスの向こうに黒い亀裂が走り、紫の瘴気が噴き出す。

 熱気と冷気が同時に押し寄せ、結界の明かりが不気味に明滅した。


「……異界門ッ!?」

 ネツレイが声を張り上げ、スティレットを抜き放つ。


 裂け目から這い出したのは、煤に覆われた獣型の魔物たち。

 十を超える群れが、訓練場を埋め尽くす勢いで現れる。


「チッ、遊んでる場合じゃねぇ! 真面目にやりますか!」

 ナヅキが木刀を投げ捨て、長ネギの剣を呼び出す。


「ふっ、花火の出番か!」

 キサラギが両手を広げると、ぱちぱちと光の粒が弾け、夜を昼のように照らした。


 ニシナは缶を慌てて置き、震える指を強く握る。

「……わ、わたしも……戦う!」

 髪が蛇のようにうねり、前髪の奥で瞳が強く光を帯びた。


『面白い。突然の戦場こそ、力の試金石よ』

 メデューサの天使が艶やかに囁き、

『おいおい……寝起きの爆発芸なんざ効くかよ。だが派手にやるしかねぇな!』

 花火の天使が眠たげに笑う。


『見ろ。安息の時間など幻にすぎん。血と毒の宴こそ真実だ』

 毒キノコの天使の声に、ネツレイが奥歯を噛みしめた。


「全員、まとめていくぞ!」

 ナヅキが叫ぶ。

「ここで息合わせられなきゃ、寮もクソもねぇ!」


 返事はなかった。

 けれど次の瞬間、四人は自然と背中を合わせ、魔物の群れへ駆け出していた。


 咆哮と瘴気で視界が歪む中、陣を組む。


「来るぞ!」

 ネツレイが紫煙を散らし、突撃を鈍らせる。

「ナヅキ、足を止めた!」

「任せろ!」

 ナヅキが風のように駆け抜け、鈍った脚を斬り裂く。


「花火——点火!」

「はいよっ!」

 キサラギが光の花を夜空に咲かせ、爆音で群れを怯ませる。


 その隙に、ニシナが一歩踏み出す。

「……っ!」

 視線を合わせた魔物が次々と灰色に固まり、髪が蛇のように絡みついて動きを封じる。


「ナイスだ、ニシナ!」

 キサラギが声を飛ばす。


「とどめだ!」

 ネツレイのスティレットが突き刺さり、毒が体内を駆け巡る。

 紫煙と石化が重なり、巨体が音もなく崩れ落ちる。


「——今だ、全員で!」

 ナヅキの号令に合わせ、剣、毒、花火、蛇髪が一斉に襲いかかる。

 轟音と閃光が訓練場を揺らし、残りの魔物を一掃した。


 異界門は音もなく閉じ、夜に静寂が戻る。


 四人は肩で息をしながら、互いの顔を見やった。


「……やっと、終わった……」

 ニシナが安堵の涙を浮かべる。


「まー悪くなかったな」

 ナヅキが剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。


「でしょ? 俺ら、やればできるんだよ」

 キサラギが飴玉を転がし、無邪気に笑う。


「……全員生きてるなら、評価できる」

 ネツレイは疲れをにじませながらも、眼鏡の奥で安堵の色を隠せなかった。


 その夜、四人は初めて——不完全ながらも“仲間として”戦場に立った。

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