≪9≫
「だって、アグーより若いじゃん」
長兄だと説明された少年…そうどう見ても『少年』は彼等の一番上に兄であるらしい。
年齢逆転か?それとも人間と違って一番年下が『長兄』と呼ばれるのか?
「若作りなんです」
「違うよ。それだけ魔力が強いってこと」
へーへーへー。(何だか懐かしい響きだ)
「全く、戻ってきたと思えば無礼にも陛下の部屋に転移するとは」
「お前もやったじゃん」
「つーか、二人とも扉があるんだからそこから入って来い」
「ごめんね」
「申し訳ございません」
アグーはともかくトールは全然反省してやがらねぇな。
「ねぇねぇ、ランチしよう♪」
ほらみろ。
「嫌だ。俺、ガキ嫌いだから」
向こうは何故かこちらにまとわりついてくるが、俺はガキが嫌いだ。兄弟が居ないせいかと母は首を傾げていたが。
「えー差別だ!」
どの口がそんなことを言う。
「この姿のほうが人間が油断するのに」
油断させて何するつもりだ。
「…少し聞くが。お前ら魔族の食事って・・・人と一緒?」
「はい。基本的に人といっ」
「普通の食事しなくても、人から精気貰ったほうが手っ取り早いね」
「・・・・・・」
暴露をありがとう。
だんだんアグーから聞いていた『魔族の生活』が怪しくなってきたな。
まぁいいけど。俺は真っ当に人間らしい食事がしたい。
「カリ様。お食事をご用意しておりますから、ご案内致します」
「人間の食えるもの?」
「もちろんです」
自信たっぷりな言い方が不安を覚える。
+++++++++++
不安だったランチは平穏無事に終わった。
牧歌的な暮らしをしているとの言葉通り、人間の世界と同じような野菜もあれば果物もある。
肉だって…たぶん、味は問題なかった。
問題は。
「魚が無い!!」
これに尽きる。
何で魚が無い!魚は食卓には必要不可欠なメインディッシュだ。
海が無くたって、地底湖とやらがあるならそこに居るだろ!?淡水魚が泳いでるだろ!
「残念ながら、泳いでおりません」
「何故!?」
「昔から幾度か挑戦する者もおりましたが、すぐに死んでしまうのです」
何てこったい。
俺は打ちひしがれた。毎朝の週間である芳しい焦げ目の魚たちが俺にさよならをしながら遠ざかってく。おお、魚たちよ・・・。
「こんなところで暮らせるか!!」
「大げさだなぁ、陛下。魚ぐらいで」
一緒にランチに参加していたサリューの発言に俺は目を剥いた。
「魚に笑う者は魚に泣く!!」
びしぃっ!と指差し糾弾する。
魚こそは食の源。魚が無くて食卓が囲めるか!!!
「肉のほうが食べやすくて良いと思うけどなぁ。魚とか小骨が多くて食べにくいじゃん」
「何おぅっ!そんなもの噛み砕いて身と一緒に食べてこそ本物だ!」
俺の言い分に何故かがアグーとサリューが視線を逸らした。
「食べられれば何でも良いんじゃない?僕は精気が良いけど」
「トールは黙ってろ」
ガキと一緒に食事はしないと宣言した俺に、トールは一瞬で少年から青年に姿を変えた。
詐欺だろ。それ。
「と・に・か・く!俺の食卓には魚が必要不可欠なの!」
それが用意出来ないのならば、魔界になんて用は無い。魔王なんてもっての他。
実家に帰らせていただきます!だ。
…何でこんなに魚について熱く語っているのか…(遠い目)