≪4≫
気が付くと、オレはだだっ広い部屋に立っていた。
どこだよ、ここ。
「これからカリ様が生活される魔王城です」
決定事項なのか、それは。
オレの意志はまるっきり無視?……さすが魔族だな。
「アグー、あのな…」
「何でしょう?」
「おう、アグドメゼド。帰ったのか…つーことはそっちの兄ちゃんが次の魔王陛下か」
背後からの声に振り向くと男が立っていた。
アグーとはタイプは違うが、ワイルド系の美形だ。
「サリユヴィシェヌ」
「は?」
今の呪文は何だ?魔族の挨拶か?
「サリユヴィシェヌ。陛下に対して無礼だぞ」
「はいはい。あ、オレ。サリユヴィシェヌ、よろしくな」
名前かよ!
「えーと、オレはカリ。…サリューて呼んでいいか?」
男はおやっという風に笑って軽く頷いた。
「早速愛称を賜るなど恐悦至極、身に余る光栄にございます」
いや、ただ単に呼びにくいからだけなんだけどな。
それよりも。
「アグー。オレ、ここで暮らすつもり無いんだけど」
「何かお気に召さないことが?…やはり新しく建て直すべきでしたでしょうか?」
いやいやいやいや。
そういうことじゃなくてだな……一般常識を知らない魔族ってのは厄介だな。
「そうじゃなくて。オレは魔王になるつもり無いから。だから元の家に戻せ」
「そのような訳には参りません!カリ様は我々をお見捨てになるのですか!?」
何故そうなる。
「あのさ…人間があれこれ手出ししなけりゃ、普通に平和的に暮らしてたわけだろ?」
魔族としてそれはどうなんだかとは思うが。
「だったら今まで通り暮らせばいいじゃん。魔王なんていらねーだろ」
「しかし、勇者が…」
「その勇者も、オレが断ればおしまいしさ」
「それだけではございません!」
他に何があるんだよ。
「魔王様には、一族の者を生み出すという重要な役目がございます」
「…………は?」
理解不能な発言に首を傾げた。
「我々魔族には、生殖能力がございません。魔王様だけが新たな魔族を生み出すことができるのです」
「へ、へぇ……」
魔族の隠された生態に迫る!…みたいだな。
でもちょっと待てよ。
「だったら、えーとあんたらも…魔王の子供ってことになるんじゃ…」
アグーとサリューが頷いた。
おお!それなら別に俺が魔王にならなくても良いんじゃね?
「確かに大雑把に捉えればそうなるでしょう。しかし、真に魔王様の御子となられるのは、真紅の卵から孵った者のみ」
た、卵…そうか、魔族は卵から生まれるのか………卵生か。
魚と同じだな。うん。
「ん?でもちょっと待てよ。魔王にしか生殖能力が無いんだったら…誰がその卵生むんだ?」
「もちろん陛下ご自身です」
「は!?」
「もちろん、オレたちも手伝うけどな」
「………どうやって?」
恐る恐る尋ねた俺に、サリューがにやりと笑った。
「我々の気と陛下の気を混ぜるのです」
「………具体的には?」
「交接」
「は?」
「平たく言えば、セックスだな」
「…………」
オレ、父さんが魔王が嫌で逃げ出した訳がすげー理解できたぜ。