≪29≫
目覚め時に感じた気配はひっそりしていた。
まぁ、どれだけ部屋数があるのかわからない魔王の城だ。人…いや魔の気配が感じられなくても不思議ではない。…たぶん。
さてと。どうするかな。
目覚めは、ばっちりくっきり、はっきりすぎる。
力を使いすぎたという俺に遠慮してなのか、周囲には誰も居無い。これぞ絶好の機会。
よし。
カリは決意した。
§ § § § §
大気は力に満ち溢れている。
魔族はその力を己が身に取り入れて糧とする。食物を摂取するのは補助でしか無い。
ああ、だから魔族は人間界や天界では長く生きていくことが出来ない。
悲しい。哀しい。憐れな生き物だ。
「もうあそこには戻れない」
父が居て、母が居て。普通の人の生活があった。
さぁ、どうしようか。魔族が嫌いなわけじゃない。だって我が子も同然。
ただ縛られるのが嫌なのだ。
俺は気紛れで気分屋で、我が儘だ。自分のことしか考えない。
「優しくなんてねぇんだよ。俺は傲慢なんだ」
魔力も補充されたし、当分は平和に暮らせるだろ。その当分の間は『人』を満喫しよう。
漁師だ。漁師!
記憶も魔力も消してまた一からやり直しだ。
うんうん。前回は魔族を『親』にしちゃったから悪かったんだよな。普通の人間にしよ。
魔族と俺と神族と。永遠に続く追いかけっこだ。
「じゃあな」
長い生を生きる者同士。また会うこともあるだろう。かなりの確立で。
俺に執着する魔族たち。そして弟。諸々の人外ども。
それでいい。
俺の糧はその執着。その強い想いが俺の存在意義となる。
愛してるさ。お前たち。
だから。また会おう。
短いですが区切りました。
次からの第二部は三人称でお送りいたします。