≪28≫
「私に任せて。天にも昇る心地にしてあげよう」
「頼んでも無いっ!!」
口調まで変わったトールを何とか押しのけようとジタバタしてみるが効果なし。
誰か!誰か!こういう時こそ助けろよっ!!
「凶王子」
「デゥキュリエド」
「デューク!」
第三者の登場にも関わらず、体に触れるトールの手の動きは止まらない。
止めろよっ!
「陛下の意思に背く行いは制裁に値する」
「カリ様は嫌がっていない。照れているだけさ」
「全力で嫌がってるよっ…ひっ」
こらーっどこ触ってんだっ!!
「顔を赤くして…愛らしい」
ひぃっ!鳥肌立つようなことを言うんじゃない!
「ロープ!ロープ!デュークっ!助けを求む!!」
必死で伸ばした手をデュークは掴み・・・・力の限り引っ張りやがった。
手、抜けるからっ!!加減を知れ!…いや、助けて貰って文句言うのもなんだけどな。
「…邪魔するなら、お前も始末するよ?」
おいおい物騒な。
「私は陛下の騎士として、陛下をあらゆる災難からお守りするのが務め」
「あー頭固いなぁ。さすがアグドメゼドが選んだだけある」
ベッドから身を起こしたトールは胡坐をかいて、デュークの背中から威嚇している俺を面白そうに見つめた。
「カリ様。これは僕の優しさだよ。これが最後の機会だったのに」
そうだな。是非とも最後にして欲しい。
「僕に抱かれていれば良かったのにって後悔するよ」
「それは無い」
女を抱き損ねて後悔することはあっても、自分が抱かれなくて後悔するなんて訳わからんことは絶対に無い!
「陛下」
うう、何か眩暈がするぜ。
支えてくれてありがとな、デューク。
「まだ本調子では無いんだから、無理しちゃ駄目だよ」
「誰がさせたと思ってんだよっ!」
怒鳴ってますますくらくらしてくるぜ。ホントにコイツは・・・
あー力が入らん。
「ちょっとそこ退け、トール」
目の前にすぐに横になれるベッドがあるのだ。これを逃さずしてどうする。
「そしてお前はどっか行け」
「酷い」
酷いのお前だ。
「俺は寝る。今度こそ邪魔するなよ」
しっしっとトールをベッドの上から追い払い、俺は安眠を確保する。
「カリ様」
「優し過ぎるというのも時には残酷だよ」
§ § § § § § §
「あまりに似ていて惚れずにいられなかった」
「馬鹿ね。普通の女だったらそこで殴ってるわよ」
「普通の女は魔族を殴らないだろう?」
「ええ。だから私は普通じゃないから遠慮なく殴るわね?」
容赦なく女は男を殴った。その破壊力たるや、相手を10メートル先まで吹っ飛ばしたほどだ。
「…この程度で済んでよしとするか」
「その通りよ」
特にダメージを受けた風でもなく男はしっかりと立ち上がる。
「ほら、喜んでるわ。この子」
「…全くつれないな」
「赤ちゃんにつれないも何も無いでしょ。ホントに馬鹿なんだから」
女は男を貶しながらも、抱く赤ん坊に慈しむ視線を向けた。
「可愛い子。貴方は私とリクの子供よ」
愛しい。愛しい。
「愛してる。愛しているよ」
愛さずにはいられない。
我らが父よ。