≪26≫
魔王は元神様だったのか。知ったらみんな驚くことだろう。しかも魔王になった理由が兄弟喧嘩が原因とくる。俺なら色々馬鹿らしくなってくる。
『兄上様。私と共に帰りましょう』
その先が地上だって言うんなら迷わず手を取ったんだけどなぁ。
そう言おうとした俺の目の前でミカが真っ二つになった・・・ておい!?
驚いた俺の前に…真っ二つになったミカの間から新顔が現われた。
おいおい。何だこの超無表情なくせに色気ぷんぷん撒き散らした奴は。歩く公衆猥褻か!?
「デゥキュリエド。戻ったか」
「遅くなりました。殺戮卿」
手に持っているのは真っ赤に染まった大剣で…刀身が赤いってどんな金属だ?
「陛下。これに在るはデゥキュリエド。魔騎士筆頭にございます。見知りおき下さい」
デゥ…デュークは俺の前に歩み寄ると膝をついて頭を下げた。
おお。こっちにきてからこんな礼儀正しい奴って始めてじゃないか?
「デゥキュリエドにござます。御身をお守りする第一の剣。どうぞ見知りおき下さい。命をかけて陛下をお守り致します」
あー・・・うん。女だったら一発で落ちたんだろうが生憎俺は男で。男に色気振り回されても暑苦しいだけだ。
「…よろしく。デューク」
守ってくれるって言うんだったら、頭は下げておくけどな。
いや俺も男だからただ守られるだけってのは癪に触るけど…ドラゴンに素手で勝てないからって悔しがったりするのは、何か違うだろ?それと同じだと思えば。
「ところでミカは?」
真っ二つになって消えたけど何処にいったんだ?
「本体では無く幻影です。デゥキュリエドによって退散させましたが、猶予はなりません。陛下。どうぞお力をお貸し下さい」
「は?」
魔族に力貸せって言われても何も持ってません。
「御手を」
「へ」
差し出されたアグーの手に、俺は反射的に自分の手をのせた。
後々、トールに警戒心の欠片も無いよねとせせら笑われるが…仕方ないだろ!
突然ぐにゃりと歪んだ視界に慌ててアグーの手を強く握る。
眩暈か!?地震か!?
「大丈夫ですか?カリ様」
ぱちぱちと目を瞬くと、また違う部屋に居た。
瞬間移動は楽で良いが、するならするって言ってくれ。
「ここどこ?」
「魔界の心臓部。豊かな恵みの全てはここから始まります」
ほの白い光に照らされた部屋の中央に光の塊が浮いている。白い光がきらきらと輝いているが、目を射るような光では無い。包み込むような穏やかな明るさだ。
「あれは魔王様の力の欠片です」
「へ!?」
「いつも定期的に力を注がれていました」
「へ~」
俺がやったことは無いから、前の魔王の力がそのまま残ってるってわけか。
長持ちだなぁ。
「カリ様にもしていただきたいのです」
「俺が!?ムリムリ!」
慌てて首を振った。だって俺は何の力も無い。
やれって言われたって無理だ。
「カリ様。この魔界魔族は初代魔王によって創造され、その力によって維持されています。…一年前はもっと大きな光でした。それが少しずつ小さくなり、いずれは消えるでしょう」
「…消えたら?」
「魔界は消滅します」
大事じゃん!?
「しょ、消滅って…どうするんだ?」
「そうなれば、我々魔族は地上を棲家としなければならなくなるでしょう」
「地上を…」
「人と魔の共存は難しい。我々は対立せざるおえなくなるでしょう…今よりも更に。勇者のお遊びの相手をする余裕も無く」
反射的に俺はアグーを見上げた。
魔族と人間の対立?
人間なんて目じゃないほどの力を持ってるのに、こいつらでも魔界の維持は出来ないのか。
魔王でなくては。
「カリ様。どうかお力を…我々に」
白球が俺の目の前に降りてくる。
俺はどうしたらいいんだ?