≪17≫
「残念だったね、陛下」
くそ、こいつわかってやがったな。
でも俺は負けない。諦めないからな!!
「僕としては陛下はこのまま力に目覚めなくても良いかなって思わないでも無いんだけど…」
「目覚めるも何もそんなものは無い」
「流されやすそうなのに頑固だね。ここまできたらいい加減諦めたら良いのに」
冗談!ここまで諦められないから諦めないのだ。
「でも、ホントにここままだと危ないよ」
「何が」
どう危ないってのか。先ほどの人間その他ご一行との遭遇以外に特に危険な目にはあっていない。
想像していたような恐ろしい魔獣なんてのも見ていないし、極悪非道だと世間で評判らしい魔族も強引さにはムカつくが、酷いことをされたわけじゃない。
何が危ないのか俺には全くわからない。
「身が」
「は?」
「身の危険。例えばカリ様が一人で外をふらふら歩いてたとしよう」
両親も亡くなり、奥さんも居無いから基本一人でふらふらしてるな。
「10分後…いや、五分後には攫われて喰われてるよ」
「・・・誰に」
「もちろん、僕の兄弟たちに」
無邪気そうな顔で笑いながら言うんじゃねぇっ!!
「兄弟って…アグーたちだけじゃ無いのか?」
「カリ様、前魔王の年は知ってる?」
「…1万は超えてるって聞いた気がする」
「そう。それだけ永く生きてるわけ。そして人間みたいに老いるって概念は魔族には無いんだよ」
どっかの貴族が喜びそうな話だな。
「いつだって子供を産める。その状態でそれだけ永く生きてて子供が僕たちだけな訳ある?」
「・・・無い、デスネ」
人間だって百年も生きないくせに、産もうと思えば十人は産める。俺の近所でも評判のおばさんの家は十五人兄弟だ。…まさかそこまで頻繁に子供を作るとは思えないが、一年に一人でも…一万人。ありえん。在り得なさ過ぎる!!!
「お前ら兄弟、実際何人居るの!?」
俺の傍にそいつらが寄って集って…想像しただけで寒気がするぜ・・・
「んー。五百年ぐらい前に大きな兄弟喧嘩があって減ったから…」
ちょっと待て。何だその兄弟喧嘩で数が減るってのは・・・・
「百人居るか居無いか、てところかな」
それでも十分多いがな。…何故兄弟が減ったのかは詳しく聞きたくない。絶対に。
「普通なら選ぶのは魔王陛下だけど、今のカリ様だったら好き放題ヤり放題。何しろ抵抗する力が無いんだから。美味しい餌が何の罠も仕掛けも無い場所にさぁ食べろって置いてあって手を出さない馬鹿が居る?僕だったら見つけた瞬間に食べるね」
嫌だーーーっ!!
俺は予想以上に酷い俺の立場に頭を抱えた。何だそれ。嫌過ぎる。
「何で今そうされないかって言うと、アグドメゼドや僕が傍に居るからだよ」
「…何でお前らが傍に居ると襲われないんだ」
「ちょっと考えればわかるでしょ?兄弟の中でも1,2を争う力持ちだから牽制してるんだよ、カリ様は僕たちが唾つけてますよ~って」
感謝してくれて良いよ、と朗らかに笑うトールに疲労感が襲う。
感謝するどころかこの想像を絶する不幸な立場に問答無用で据えられたことに憤りさえ感じる。
何だそれ。何だそれ!
「俺は魔王じゃない!カリだ!ただの人間の漁師だから!!」
「駄々こねない」
「駄々じゃねぇよ!」
見るからにガキに何故駄々と言われなければならない。
「駄々だよ。判ってるくせに。カリ様。『カリ』はホントの名前じゃ無いでしょ?」
「嘘じゃない」
「でも全部じゃない」
「・・・・・」
「ルビリクラッサがそんな短い名を子につけるわけない」
「知るか」
俺は『カリ』だ。それ以外の何でも無い。
「トューリュクェーサ。やりすぎると嫌われるぞ」
「ヴァミリュウム」
紅の美女はテラスで艶やかに不敵に笑っていた。