≪15≫
「派手にやってるね~」
今までどこに行っていたのか、トールが再びガキの姿で現われた。
目の前ではアグーとサリューが蒼瑠とドンパチ始めている。赤い炎やら巨大な氷やら吹きすさぶ突風やら…結界の中に居る俺には被害は欠片も無いが、その外は大変なことになっている。
誰が元に戻すんだ?
「祭りって思うには派手すぎだよな~」
「陛下は恐いって思わないの?」
「まぁ、俺に実害がありそうなら恐いとも思っただろうけど…」
透明な壁を一つ隔てた向こう側の世界の出来事だ。
恐いというのなら親父と母親との夫婦喧嘩のほうが何倍も恐かった。あの二人は周囲のことなどお構いなく、自分たちが精魂尽き果てるまでやり合っていた。
その時点で、今考えれば普通ではない二人だったんだろう。気づけよ、俺。
暇なので自分で突っ込んでみる。
「頼もしいね、陛下」
「ばーか。で、お前は何なの?」
「陛下が魚が恋しいって泣くから」
「泣いてねぇよ」
「地上から魚を捕獲して湖に放しておいたよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の目は輝いていたことだろう。
ガキは嫌いだなんて言って悪かった!お前はいい奴だ!!
しかし、その後暫く湖に行き…共食いやら環境が合わないやらで大量に死滅した魚たちにトールに任せるんじゃなかったと後悔することになるのだが。
「ところであいつら何しているの?」
「うーん、不毛な戦い。竜族の馬鹿が俺を巫女とやらにしたいらしい。それにキレたアグーと調子に乗ったサリュー、という図式」
「ふーん、陛下を巫女にねぇ・・・馬鹿な竜族の考えそうなことだね」
竜族って馬鹿なのか?かなり偉そうに人間見下したようなしゃべり方だったぞ。
「自分たちだって魔獣の一種にしか過ぎないくせに、天と繋がりがあるってことで勘違いしてるんだよ。騙されてるだけなのに、本当馬鹿だよね~」
騙されてるだけって・・・そうなのか?
「天なんてあてにしたって馬鹿みるだけ。だいたい本当に下の世界を気にしている連中なら僕たち魔族のことを見逃すと思う?」
ごもっとも。
「そんなことより、ここで眺めてるだけなら遊びに行こうよ。陛下が治めることになる魔界を見せてあげる」
治める気は全く無いが、観光気分でみてまわるのも良いかもしれない。せっかくの機会だし、地上に戻れば二度と戻ってくることも無いだろうし。
よしとことん遊び尽くそう!
「・・・で。どこ?」
「僕のお城」
「・・・帰る」
俺でもわかる。今、俺は非常にヤバイシチュエーションに居る!!間違いない!
俺の馬鹿!何でこんな奴の言葉を信じたんだ!
「待って待って、ここもちゃんと観光名所だから」
こっちに来てよと腕を引かれて連れて行かれたのは、ぐるりと螺旋を描いた階段の先。細長く切り取られた出口から明かりが漏れる。
「ちょっと目を瞑って」
「おう」
そして、もう三歩。
「いいよ。目を開けても」
恐る恐る目を開けた俺は、おおっと口には出さず感動した。
眼下に広がる緑なす平野、そして家々。輝く湖。こうして上から眺めるなんてことは初体験だ。
すげー。
「僕の城は高台にあるからね。眺望は抜群なんだ」
「ほぅ~」
「陛下が気に入ったらいつでも遊びに来ていいよ。もちろん住んでくれても良いけど」
謹んでお断り申し上げます。
「あの湖って、例の地底湖?」
「そう。陛下の城からはちょっと見えないけど、僕の城からならこの通り」
何やら自慢そうなので、よしよしと頭を撫でてやった。
「陛下…」
褒めてやったのに不満そうな顔で見上げてくる。何故。
「あのね、僕見た目通りの子供じゃ無いんだけど」
「そうだっけ」
だがやってることは、かなりお子様だぞ。お前。
何だか調子狂っちゃうなぁ、とトールお坊ちゃまは呟いている。
「ふふ、陛下は本当に性格はルビリクラッサによく似てる」
「る、ルビ・・?」
「君のお父さん」
そうか親父の本名はそんな長ったらしい名前だったのか。周囲の人間や母さんには『リク』と呼ばれていたが、大幅に省略されていたらしい。
「時代の魔王様ってことで周囲が大夫甘やかしちゃったからね、家出しちゃった時にも僕たちはすぐに帰ってくるもんだと思っていたんだよ。それが」
二度と帰って来ない、なんてね…と外を眺めるトールの横顔が妙に寂しげだった。
結構、親父は可愛がられていたのか。可愛がられている親父なんて、気持ち悪すぎて想像すらしたくないが。
「帰ってきたら百年ぐらいぐるぐる巻きで閉じ込めてお仕置きしようと思ってたのに」
おい。
「やっぱり夜這いしたのが良く無かったのかな」
間違いなくそうだろうな。