≪14≫
だが、俺が巫女予定だった母親の子供だからってどんな関係があるんだ?
「逃げた巫女については恨んだことだが、お前という存在を残したことについては褒めても良い」
そんなものは1Gの足しにもなら無いから要らないと母なら言っただろう。
「カリ様、出んなよ」
「うぃっす」
意味はわからないが、あの竜族はヤバイ気がする。
うねうねと足元まで届いている水色の髪は、美形でなければむさ苦しいと評しただろう…それがマントのように広がっている。ホラーだろ。
子供のままのほうがまだ可愛かったぞ。
「巫女の裏切りを子で贖わせてやろうと言うのだ。我は心が広い」
自分で言うな。
「そっちが勝手に決めたことで俺は知らん。巻き込むな」
「そうはいかぬ。これは我ら竜族と人との契約。守られねばならぬ」
「俺はそんなものした覚えねぇもん」
しっしっ。お呼びじゃねぇよ!
アグーとサリューの背中に隠れながら俺は強気で言い放つ。
だいたい巫女って何だ?
「カリ様、巫女と呼ばれる者は生贄。竜の餌となる者」
「…それは文字通りの意味で?」
アグーは頷いた。・・・それは母親も逃げ出すな。
「何も知らぬ魔族が口を出すな。我らにとって巫女とは花嫁。我らが子を残す者だ」
またそのパターンか。
でもそれってやっぱり女じゃないと駄目じゃん?
俺、男。セーフ!!
そんな俺の内心の言葉が聞こえたように竜族の…えーと蒼瑠だっけか…は、にやりと笑った。
「人であったならば、男になど用は無い」
うん、だろ。だからやっぱり俺は・・・
「だが、魔族であるならば別だ。魔族は我らと同じ卵生、お前が魔王というのならば益々重畳。我が子を産ますに問題は無かろう」
ありまくりです。
「断固として拒否する!俺は人間で男で、無理!!」
何が悲しくて魔族だけじゃなく、竜族にまで狙われなければならないんだ。
今更だが、俺って相当不幸じゃないか?
「カリ様は我らが魔王陛下。竜族如きが陛下に近寄ることさえ厭わしい!」
いいぞ!もっと言ってやれ!!…魔王になるなんて言って無いけどな!
「幼体であらばこそ不覚をとったが、この姿ならば戦うに吝かで無い。…我が唯一の花嫁を迎えるためとあらば、天の誓約も許されるというものよ」
ばちばちばちぃぃっ!とアグーと蒼瑠の間で紫電が閃いた。
睨みあっただけでそれって、闘いだしたらどうなるんだ?…避難したほうがよくないか?
「サリュー」
逃げようぜ、と提案しようとした俺は…滅茶苦茶好戦的な表情を浮かべているサリューに口を閉じた。明らかにやる気だな、お前。
「カリ様。結界張るからそこから出ないようにな」
おう。俺は自ら危険に飛び込むような馬鹿な真似はしない。人生、安全穏やかなのが一番。
今ならしみじみそう思うぜ。
「ところであっちの二人は?」
人間二人は竜族と魔族のやりとりの間、放置プレイだ。そのままで良いのか?
「勝手に逃げるなり地上に戻るなりするだろ。ここに要れば魔力に巻き込まれるだろうし、魔界に居ればどのみち魔の気に蝕まれて人では無くなるからな」
進退窮まってるな。可哀相に、本当か嘘かもわからない『姫』を探しにきて竜族の魔族の戦いに巻き込まれようとは。相当幸薄いんだろうな。
俺も他人のこと言えなくて悲しいけどな!