≪13≫
この向けられる冷たい視線ときたら。俺は本当のことしか言って無いっつーの!
「いや、話に聞いたことがある」
あ、俺に頭をしばかれた男だ。
無駄にいい筋肉つけやがって。…俺なんか幾ら励んでもつかないのに。
いやいや、まだまだこれからこれから!発展途中なんだ。
「その時は馬鹿げた話だと思っていたが…」
「何のことだ?」
魔法使いが訝しげに剣士に尋ねる。
「陛下の妹姫が魔族に浚われた話は知っているだろう?」
「ああ」
「美しく優しい姫…その姫を助け出すために勇者殿は魔王を倒すために剣を取った」
恐らく俺の母親のことを話しているのだろう。
しかし、勇者が魔王と戦うために剣を取った理由が俺の母親?…マジで?
報われないにもほどがあるだろ、それ。
「だが、一つ妙な噂もあったのだ。姫は浚われたのではなく、魔王に魅され自らその手を取ったと」
魔王じゃなくて、魔王の息子だけどな。
「では、そいつは魔王の息子だと?」
正しくは魔王の息子の息子、らしい。当人たちにはっきり話を聞いた訳では無いのでこっちだって未だに半信半疑。はぁ・・・ホントに、俺は魔王の息子の息子なのか?
竜族が徐に立ち上がり、縛っていたものをぶっちぎった。おお。
「貴様、仮にも勇者の裔でありながら、魔族に組致すか」
「俺にとって魔族も勇者もどうでもいい。だって漁師だからな」
「「・・・・。・・・・」」
何だ、何だ。その困った子を見るような視線は!!
アグーとサリュー、背後でこっそり溜息つくな!
「ま、ともかくだな!ここには囚われの姫なんてのは居無いから!」
強制拉致された漁師は居るけどな。
「大人しく地上に帰ったほうが良いと思うぞ。アグー一人に三人だって敵わないんだから、無傷で返してやろうって好意を無碍にするもんじゃないと思うよ」
心優しき俺は、三人に穏やかに言い聞かせる。これぞ大人の対応。
あわよくば、どさくさに紛れて俺も返してもらえないかなぁなんて考えてみたりもする。当然。
「その話が本当ならば・・・」
子供(竜族)が俺に歩み寄る。
「カリ様!」
え、何。
「それこそ、我はただでは帰れぬな」
一瞬の閃光。
ぶわっと体全体を何かに覆われる感触がして、瞬間瞑った目を開けるとさらさらと銀の雨が目の前に降り注いだ。…いや、雨じゃない。糸?・・・いや。
俺はその糸を辿り・・・・誰?
また規格外な美形に行き当たった。…本当にな。美形率高すぎるだろ。
だが幾ら美形でも男に用は無い。潤いも無い。
しかも何で俺が抱きしめられてるんだ。人質?
「あんた、誰?」
「蒼瑠。天が竜の一族。」
その紹介は俺には全く意味不明だが…想像するに、先ほどの子供だった竜族なのだろう。
何で突然に大人?
「魔王の息子であると言うのであれば、当然に姫の子でもあろう?」
まぁ。そういうことにもなる。
「陛下より離れろ。悪食なる竜めが」
アグーの言葉と共に頬の横を何かが通りすぎる感触がし、竜族が俺から離れた。
そこをすかさず、サリューにキャッチされる。
・・・・キャッチ&リリース、そして再キャッチ。されるがままの俺・・・。
「油断しちゃ駄目だぜ。竜族なんて碌なもんじゃねぇからな」
魔族に碌なものじゃない評定される竜族って。
え。そうなの?人間側についてるから魔族に嫌われているのか?
「人にとっても碌なもんじゃないな。竜族が人に力を貸すのは、見返りがあるからだぜ」
「見返り?」
「そ。竜族はな、人間から巫女という名の贄を受け取るのさ」
うーん。俺は額に指を当て、考えた。
ギブアンドテイク、てことだよな。それ。無償奉仕よりわかりやすくって良いんじゃね?
ま、その巫女が同意してたらだけど。
「我の巫女は、そなたの母であった人だ」
うわー。そういう繋がりですか。
でも俺の母親は、素直に贄なんてしそうな性格じゃない。
ん?つまり・・・それで親父と逃げた…のか?そういうことなのか!?
親父もお袋もお互いに死活問題だったんだなぁ…ああ、想像できる。酒場で出会ってお互いの事情を語り合い、意気投合。
『丁度良いからこのまま逃げないか?』
『そうね。それも面白いかしら?』
フフ。ククク。
絶対そうだ。間違いない。子供の俺が言うんだから!