≪12≫
周囲は火口に近いせいで、むあっとした空気に包まれている。
まだそれほど近づいていないのに感じられるのだから、とてもでは無いがマグマを通りぬけてこの地下まで下りてこようなんて考える酔狂さは無い。…と俺は思うのだが。
「そろそろ放せ」
「良いけど落ちるぜ?」
アグーの後を追って、サリューと共に来たのはいいが…宙に浮いたまま抱えられている。
「下ろせ」
「足元から火つくぜ。地表も半端なく高温だからな」
「……」
俺は口を閉じた。どうしようもないって奴だ。
「…それで、人間ってのはやっぱり『姫』救出が目的なのか?」
「さぁ。会ってみないことにはな」
それもそうだ。だが、それ以外の目的でこの魔界にやってくる理由が無い。
「お、今回の奴はなかなかやるな」
俺を抱えたまま火口の様子を眺めていたサリューが口笛を吹いた。
「え?」
何が。そう思った俺の目の前でどろどろと蠢いていたマグマがその動きを止め…凍っていった。
うおーすげー・・・。
でも凍らされたらまずく無いか?
「どうせそうもちゃしねぇよ。ほら底を見てみろ」
指し示されれば、灰色の氷の根元が僅かに赤みを帯び始めている。熱が氷を溶かそうとしているのか。
自然の力って偉大だな~。
ところで先行していたアグーはどこに行ったんだ?
「何をカリ様を連れてきている」
いい加減、唐突に現われるのに慣れてきたな。
「人間たちご一行は?」
「そちらに纏めてございます」
確かに纏めて縛られていた。黒いローブを着ているのがやはり魔法使いだろうか?あとは筋肉質の見るからに戦士っぽい奴と・・・子供!?
「おいおい子供が居るぞ」
「違う違う。あれは竜族だって。見たことない?」
あるわけ無いだろ。うーん、魔族とか人間だけじゃなくて色々なやつが居るんだな。
しかし、いくら竜族と言ったて見るからにガキを魔界に連れてくるか?
「竜族は神界との契約に縛られてるから地上に降りる時には幼体にならざるをえないんだよ」
へぇ~、と言ってもやはりよくわからんが。
神界?…魔界があるからには、反対もあるってことか?
「アグー、あいつらどうすんの?」
ぴくりともしないところを見ると気を失ってるみたいだが。
「今のうちに地上に送り返します」
良かった。殺すとか言われたらどうしようかと思った。
「その前に力の封印を致します」
「封印?そんなことも出来るんだ。サリュー、もう大丈夫だろ。放せ」
「はいはい」
はいは一回!
俺はサリューから離れ、人間たちに近づく。
「封印って、力を使えなくするってこと?」
「そうです。力だけでなく記憶についても封印します。再びここに舞い戻って来られては二度手間ですから。では、少し離れていらして下さい」
「う・・・んっ!?」
素直に離れようとした俺は、転びそうになった。
「カリ様!」
いや、誰かが…俺の足首を掴んでいる。
「ひ、姫…」
「誰が姫だボケ!!」
あ、ヤベ。
古傷を抉られた俺は、ついついその人物の頭を殴りつけてしまった。
いやいや、俺は平和主義者。平和主義者だから。
たまたま、それが俺が言われて大嫌いな言葉ワースト3に入っていたのが運のつき。うん。
俺は悪く無い!
「目が覚めていたか」
うな垂れていた人間たち一行(竜族含む)が顔を上げる。
「…私たちをどうするつもりだ、魔族めが」
おお。初っ端から喧嘩腰だな。
「力を封印して地上へ強制送還する。それとも殺して欲しいか?」
アグーも悪役のノリだ。
…これじゃ友好的になる訳が無い。
「ちょっと、ストップ!!」
「カリ様」
「何だ貴様」
俺を貴様呼ばわりしてくれたのは、フードを被った魔法使いだ。
「ごほん。俺は漁師だ」
「『りょうし』・・・?」
「いや、ほら、魚獲ったりする…まぁ、一市民だ」
一行三人の疑わしい視線が一斉に向けられた。何故に。本当のこと言っただけだぞ。
「魔族が、訳のわからんことを!」
「いやいや!だから俺は魔族じゃなくて普通の人間だから!」
ほんの数時間前までは、海に仕掛けを確認しようとしていたような普通の漁師だった。
・・・過去形なのが涙出そう。
「普通の人間だと。馬鹿な。騙すのならばもっとマシな嘘をつくが良い」
これは竜族。口調がやけに偉そうなのに外見は思いっきり小さな子供だから違和感ありまくりだな。
「本当だって!ほら、アグーも何とか言ってやれよ!」
「そうです。カリ様は立派な我らが魔王陛下です」
「・・・・・。・・・・・」
フォローどころか、どん底に突き落とされた気分です。