≪11≫
さて、どうするべきか。
魚が居ない理由は判明した。こんなに住みやすそうなのに、残念だ。
「カリ様、貴方が望まれますなら地底湖に魚を放流しお育てになれば良いかと。陛下の魚であれば他の者たちも手を出さぬでしょう」
いやいや、俺は漁師であって養殖業者では無い。魚を愛でたい訳でも無い。
「陛下」
「あ?」
ずずっと迫られ、俺は自然と仰け反る。何だ。
「如何様にすれば、カリ様にこの地へ留まっていただけましょうか?」
如何様も何も、そもそも魔王になる気が無い。
「陛下のお望みとあらば、その全てをこのアグドメゼド叶えてみせましょう」
「だったら俺の身を元の家に…」
戻せ。
「却下いたします」
速攻で拒否しやがったな。全てって言ったくせに。
「『陛下』のお望みとあらば、全てを叶えてみせましょう」
そうでなければお呼びでない、と。
「カリ様。我々には貴方が必要なのです」
「繁殖のために?」
「カリ様がどうしても嫌だと仰るならば、無理強いすることが出来る者などおりませぬ」
「………」
何でそんなに・・・。
「アグドメゼド」
突然サリューが空中に現われた。
「人間たちが火口に下りてくる気配があると報告があったぞ」
「面倒な…陛下、しばしお傍を離れます」
膝をつき頭を下げたアグーはそのまま、サリューのように消えた。
「アグーは何しに行ったの?」
仕方ないのでサリューに尋ねる。
「蝿が目の前をぶんぶん飛び回っていたら、陛下ならどうする?」
「とりあえず、追い払う」
「つまり、そういうこと」
なるほど。
「危なくないか?」
「人間が?」
やっぱりそうなのか。危ないのか。
こいつら人間が攻めてくるって聞いた時、全く退く気無さそうだったし。
「出来れば怪我人とか出さず、平和裡に収めて欲しいな。あっちはただの勘違いなんだろうし。実際に浚われた姫なんて居無いんだから」
「陛下。それを人間が信じるかが問題だぜ」
「だよなぁー・・・」
普通、信じないな。魔族の言葉なんて。
あ、そうだ。俺が行けば良いんじゃね?
「なぁ、サリュー。俺もアグーが行ったところに連れてってくれ」
「行ってどうすんの?」
「話し合い。説明して誤解だって…」
「聞いてくれるかねぇ。陛下、カリ様。自分が魔王だって自覚ある?」
あるわけ無い。
「あー…一回ヤッちまえば、自覚するかもよ?」
それこそ、速攻で却下させていただきます。
「なぁ、カリ様。教えとくけど」
「何を」
「陛下の体から出てる真紅の気。それは魔王の証であるけど、俺らにとっては媚香そのものだ。しかもカリ様は自覚が無いもんで、放ちっぱなし。誘われてるとしか思えないんだよな」
思うな思うな。気のせいだ。
「くらくらするぜ」
ぼそりと、耳元で囁かれてぞくりと背筋が粟立った。
断じて、感じたわけでは無い。
気持ち悪かっただけだ。絶対。ここ重要。