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第8章 懐中時計に選ばれしもの

 記録回廊の最深部蒸気に包まれた静寂の空間。そこはかつてのクロノドミヌス学園—通称”クロノアカデミア”の中庭があった場所。


 無機質な装置が並ぶその中心で、姿なき謎の女性”シエル”は一つの装置のスイッチを押した。


「……再生する。“ クロノドミトス学園、第七期”特殊生徒記録、映像コード“NSBQ-07”」


 歪んだ光が空間を裂き、記憶の映像が浮かび上がる。


 それはまだ廃墟になる前の”クロノアカデミア”


ガラスの屋根とプラチナの柱で出来た植物園の温室が太陽の光を受けて輝く、白銀の中庭の光景。


—————


 ▪️過去 クロノアカデミア


 制服に身を包んだ四人の学生たちが、それぞれの懐中時計を手にして談笑していた。


「……バル=ゼン、観測型懐中時計。重力と遅延の計測機構付き。やれやれ、また重そうなやつに選ばれたわね。


 少しからかう様に彼女は言った。


「俺の場合選ばれたというか、クオン。これは……俺の“父さん”の形見だ。探偵稼業の始まりの記録だ」


 バルの時計は、錆びた真鍮の盤面。文字盤の上に、銀色の歯車が重なり、盤面は黒く「監察者」の紋章がある。


「あなたってほんと、ひねくれてるよねー。私のは“声”に反応するの。ほら、見て!」


 クオンには懐中時計はない。だか歌うようにささやくと、途端に、時計の針が空中に影針を投影した。私は「歌唱者」滅多に選ばれないレアものよ。


 シエルは黙って、その光景をみていた。


「……私は記録ではなく、制御に興味があるわ」


 彼女の時計は、白銀の盤面。針は存在せず、内側に埋め込まれた時間ベクトルの粒子が、未来予測演算を行っていた。


「デザインというのは、形に“境界”を与えることよ」


「……それは、時の命も例外じゃないのか?」


 ナユタの声は低く、どこか遠くを見つめていた。


 彼の懐中時計は、赤い盤面、開くと中にはクリスタル状の球体に複数の小針が立体的に回転している。


 それは“修復”のための、過去と現在の断層を補完するための機構。


「時計が告げるのは、時間の“形”ではなく、“継ぎ目”なんだ。壊れた世界には……その修理がいる」


「おまえ、そういうの、よく言えるな……」


 バルが呆れたように笑い、クオンがくすっと笑う。

 しかし、その笑顔の裏に、誰も気づかなかった“終わり”の旋律が潜んでいた。


 それをただ一人、気づいていた者がいた――


 校庭の影から一人の男が四人の背を見守っていた。


 顔は光の反射でよく見えない。


彼は当時、すでに研究主任として彼らの講義をまかされていた上級生だった。


 ベストのなかで黒い懐中時計を握りしめている。


「君たちは、やがて世界の中枢に触れる。だが、それは……」


 と険しい顔でつぶやいた。


遠くから声がする。自分を呼ぶ声


「マスター”ヨアヒム”」


クオンの屈托のない声が響く。


「すみません、写真を撮ってもらっていいですか?」


時の円環—時間の歯車が動き始めた…


————


 ▪️現在 回廊最深部


 記録映像が消えると、沈黙が落ちた。


「……あの頃、誰も気づいていなかった。いや、気づいていたのに、誰も言わなかった」


 バルが言うと、アメリアが彼の懐中時計をちらりと見る。


 あの幻影をみてだ後でも、彼女は決してバルの出自を尋ねることはない。それがお互いのルールだからだ。


「ねぇ、じゃあ……この記憶核にある“断片”、その設計も……」


「おそらく、誰かが残した最後のデザインだ」


「……時間城の部隊が追ってくる、、、」


 シエルが、言った。


「じゃあシューターが本来繋がっていた場所へ戻してくれ」


 バルは答えた。


 シエルは何もせず、何も言わなかった。変わりに立ち込めた蒸気が黒くかわり、バルとアメリアは闇に吸い込まれた。


キーワード


懐中時計(監察者、設計者、修復者、歌唱者)

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