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第5章 修復者ナユタ

 [時間城] その中心部――”時の軸室”と呼ばれる場所では、数百を超える歯車とリングが天井から吊るされ、空間そのものが緩やかに脈動していた。そこは、すべての時間領域に接続された観測と調律の要だった。


 ナユタはその中央、浮かぶ歯車の上に立っていた。


 銀色の髪は肩先まで伸び、額をかすめる前髪は無造作に流れている。琥珀色の瞳は静かに周囲を見渡し、その奥は時間そのものを見透かすように静かだった。


 濃紺を基調にしたマントの下には黒い戦闘服。肩や胸には軽量の鎧板がはめ込まれている。無数のベルトやポケットには小道具や工具が収められ、必要な時には瞬時に取り出すことができる。その身に纏う装備は、まるで時間の歯車を背負うかのように光を反射し、戦場でも静かに存在感を放っていた。


 そして手にはルビーの懐中時計。その懐中時計がフォログラム画像を映し出す。


 (錆びた都市の一角――探偵バルとその助手アメリアの姿が揺らいでいる。無秩序で、非効率で、しかしどこか正しい)


「……またか」


 背後から響いたのは、彼の上官の声だった。金と白の制服、冷たい水銀の瞳。監察者と呼ばれる存在だ。


「修復者ナユタ。勝手な干渉は再三警告したはずだ。君は修復の観測のみを許されている」


 ナユタは振り返らなかった。ただ、静かに問いを返す。


「では訊こう。“破損された時間”を作ったのは、誰だ?」


 監察者の目がわずかに細められた。


「それは……我々ではない。過去に起きた分岐の結果だ。修復者が“感情”で行動するのは、最も危険な兆候だと理解しているはずだ」


「理解している。だが、それでも……」


「時の音が、今、別の軌道に入り始めている。放っておけば、再び“崩壊”する。……君たちには聴こえない。だが、私には聴こえる」


「ナユタ――おまえは今、時間城の秩序から逸れようとしている」


 暫しの沈黙…そして。


「なら、逸れるさ」


 ——言い終えるより早く、ナユタの姿は時間領域の狭間に滑り落ちた。空気の震えとともに、彼の存在はこの場所から“削除”された。


 都市の片隅、探偵事務所の遠く背後にある、朽ちた鐘楼の上に姿を現したナユタは、静かに空を見上げた。


 雲母の粒子が降り注ぐ空。


 若返りの幻想に踊らされる都市。


 “クロノドロップ”が撒かれたこの時間領域は、時の流れすら歪めていた。


「バル……今度こそ、君が正しい方へ導いてくれ。私は……その選択の分岐を支えるだけだ」


 彼は懐から、ルビーの懐中時計を取り出す。そこに“第0歌”の旋律の一部、”歌唱者”クオンの歌の一節が記録されていた。”プロトクオン”だ


 そのとき、探偵事務所から爆破音鳴り響いた。


 ナユタは跳躍した。


 時間の歪みに乗り、次の一歩を“壊れかけた現在”へと踏み出すしていく。

キーワード


監察者

修復者ナユタ

歌唱者クオン

第0歌

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