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プロローグ 

 ▪️過去— 研究所


 時間大戦末期。街の大聖堂の地下深く、クロノケミカル研究所の巨大ドームの一角。


 暗闇の中から声が微かに聞こえてくる。その声はけたたましく鳴り響くサイレンと激しく鉄がぶつかる音に瞬くまにかき消されていく。


「潜入がバレた。」

「ケースは?」

「無事だ。だが持って逃げ切れそうにない。

「どうする」

「子どもに持たせる。偽装して荷物に見せる」

「いいのね。わかった。なら、私が側であの子を守るわ」


 グォーン!!!!!!


 街の大きな鐘楼の鐘が、地下深くまで響き渡った。


 その時、頭上の巨大タンクがひび割れた。


「恐らく我々は負ける。だが、希望の種だけは残す」


「急ごう!ここはもう持たない」


 3人の男女は小さな子どもと共に、スチームトレーラーに乗り込み、すぐに発進させた。


 間も無くして背後で爆発があり、銀色の液体がドーム全体に飛び散った。



 ▪️現在—[時間城]


 ……ここは時間大戦で敗北し、滅びの時を待つ時間軸。


 深い闇の奥底。天空に [時間城] が浮かび上がっていた。


 先の大戦で勝利した(時間貴族)そのエリート集団、(設計者)と(修復者)が住む場所。そして秩序の番人(監察者)たちの本拠地。


 都市の最深部、誰の地図にも描かれない“空白の時空”に存在する、構造が固定されぬ“不確定建築”。


 霧の層を貫くようにそびえ立つ、七重螺旋塔構造の超高層建築。

 その全貌は常に霧に覆われており、見る者の“記憶”によって微妙に形が異なる。


 構造物そのものが時間に応じて変化するため、一日たりとも同じ姿を保たない。


 歯車の城壁は巨大な回転歯車が防壁の一部として機能し、空間を常に“閉じている”状態に保つ。

 •蒸気動力の門扉:開閉のたびに蒸気が噴き上がり、時の振動音クロノノイズが辺りに響く。


 浮遊型通路は宙に浮かぶガラスの回廊は、特定の“時刻”にしかつながらない。

 時間修復者でない者が踏み込めば、自分自身の過去に落ちるとされる。


 最上層は「永刻の間」

 巨大懐中時計型の天蓋が城の頂に埋め込まれており、

 その時計針は**現実世界の時間ではなく、“修復された時間を指し示す。内部には、時間塔(響きの塔)から転送された音響共鳴機構が備えられており、結界の役割を果たしている。


 城の表面は、白金と黒鉄を交互に編み込んだ“時間合金”で作られ、

 夜は星のように微かに輝くが、昼間は影のように溶け込む。建材には、かつてアーカインが研究していた“記憶を蓄える鉱石”が使われており、

 壁に触れると、過去の断片が幻のように浮かび上がることもある。


 時間城の周囲は“不明地帯-ゼロエリア-”と呼ばれ、

 時計も羅針盤も狂い、あらゆる方向感覚を失う。

 •空は灰色の霧に包まれ、時折、巨大な砂時計のような影が、遠くにぼんやりと見える。

 •地表は崩れた歯車、音叉、時計片などが散乱し、かつてここが“何かを崩壊させた跡地”であることを物語っている。


 [時間城]への正規の出入りは、「記憶座標による転移装置」を使うか、“修復者”としての認証刻印が必要。

 そのため、“外部者”が踏み込むには、特定の時の裂け目からの侵入が必須となる。


 ———-


(ねえ、ナユタ。もし、時間が壊れたら、私の声はどこに届くのかな?)


 その声は、霧の中に消えたままもう戻ってこない


 砂のように崩れゆく鐘楼。ひび割れた音叉が、虚空に“音”を失っていく。そこにいたはずの少女は、確かに歌っていた。


「……!」


 彼女の名を呼ぼうとしたとき、時間が崩落した。


 記憶の底に沈んだ歌。


 誰も聞いたことのない第0歌 (プロト・クオン)


 ナユタは、惜別の思いで、時間断層(テンペスタ・ストラタ眺めた。



 ▪️事件


 その頃、都市では“若返る薬”が流行り、誰もが老いを忘れようとしていた。そして――それと引き換えに、“何か”が確かに失われていく。


 雲母の粒子が降っていた。


 雲母は、時間断層テンペスタ・ストラタから降る白く透き通った鉱石で、時間と空間が交差する特異点から時折零れ落ちる。雲母の粒子が降る日は、世界が少しだけ時間を忘れる。


 眼下に広がるのは蒸気都市”ルミナ=エテルネ”

 巨大なな工場群と都市や教会が入り組みながら構成された工場都市。冷徹な機械文明の心臓部であり、同時に古き宗教的な祈りが機械音に飲み込まれた、矛盾と調和の入り混じる蒸気都市。


 スチームの噴き出す鉄管が、街路を白く包んでいた。遠くで機械鳥の泣き声が響いていた。


鈍く灯るガス灯の下、男がひとり、広場をふらつきながら歩いている。


 彼は若かった――いや、若く見えた。

 皮膚には艶があり、体つきもしっかりしている。 だが、その目は違った。


 それは老人の目だ。遠い記憶を引きずり、何かに怯えている。


「まだ……まだ足りなかったのか……。おれは……若返ったんじゃなかったのか……?」


 男がそう呟いた瞬間、激しい震えが彼の身体を襲う。骨がきしみ、皮膚が波打ち、次の瞬間――彼の肉体は、まるで風船が破れるように崩れ落ちた。


 若さがはがれ、しわと老斑に覆われた本来の姿がむき出しになる。


 そう、彼は若返ったのではない。一時的に“見かけ”を若返らせていただけだったのだ。その偽りの仮面が剥がれたとき、遠くから歌が流れたきた。彼の老いは一気に押し寄せ命を奪った。


 その場には、もう誰もいなかった…ように見えた。しかし、霧の彼方から、その様子を静かに見つめる黒いマントの影があった。


 彼の名前は、まだ語られない。

 だが、すでに“時の歯車”は回り始めていた。


キーワード


蒸気都市(ルミナ=エテルネ) 時間断層(テンペ•ストラダ)

雲母の粒子、時間城、時間大戦、時間貴族、設計者、修復者、監察者

ナユタ、シエル、老いる男




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