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パラフィン紙

「おい、そこを右だ、左は駄目だ!」

 隣国からやって来た食品や酒を積んだ商隊の馬車はノートンの街へと伸びる曲がり角で停車した。

 「ノートンを通った方が近道だぜ」

 「駄目だ、今あの街は(マラリア)の巣窟だ、入ったら全員感染して出られなくなる」

 「ここもかよ!手前の街もそうだった、また遠回りだ」

 男たちは悪態をついて恨めしそうに森の向こうにあるノートンの方角を睨んだ。

 首都へ荷を届けるにはノートンの街は宿場町の一つ、他にルートが無いわけではないがソーン・シティの近くを通らなければならなくなる、病気の巣窟も怖いが犯罪組織の巣窟も怖い、二つを避けると更に遠回りなうえに道が悪い、山道が続き未整備で凸凹だ、車輪や車軸を折っても交換は利くが馬の替えはない。

 「瘧は冬になれば収まる、今回だけだ」

 「俺たちの荷は重い、山道は無理だ、ソーンの街でファミリーに金を払って警護してもらう、それが最善だ」

 「そうだな、ソーン・シティのファミリーの方がまだ話が出来る、シティの外にいる連中の方がヤバイからな」

 「ああ、特にあれだ、チェバン・マフィアはヤバイぜ、奴らの民族主義は異常だ」

 「仲間以外に容赦ねぇにしても程度ってもんがあるだろ、敵となればその一族全員、女子供まで皆殺し、その上首を刎ねてカラス共の餌にする、人間のすることじゃない、悪魔だ」

 「関わりたくはねぇな」

 商隊は別れ道を右へと舵を切っていった。


 「パラフィン紙?」

 一人だけ生き残った使用人が証言した。

 「そのようです、ファミリー同士の抗争じゃないのか」

 「麻薬じゃありません」

 パラフィン紙とは厚紙に溶かした蜜蝋を塗り乾燥させたもので乾燥防止、防水、防錆の効果がある、それほど需要があるわけではないが最近は金属商品を包むのに定期的に売れる。

 襲われた貴族の屋敷に保管されていたのは紙、ただし屋敷は燃え尽きて数本の柱だけが空しく建っている、焦げ臭さに混じり肉の焼ける嫌な臭いに警部たちはハンカチで口を覆わずにはいられなかった。

 目に映るのは凄惨な光景。

周辺に転がっている死体は警護を請け負ったザイオン・ファミリーだ、十人以上はいるだろう、酷く殴られた上にナイフで執拗に刺されて殺されている。

さらに領主と思われる恰幅いい男がバスローブのまま枝から首を吊る形でぶら下げられている、身体中の刺し傷は死因が窒息ではない事を示している。

 「この殺し方は……」

 警務団第一係班長は眉を顰めた。

 「はい、きっと奴です、チェバン・ボルツ(狼の悪魔)に違いありません」

 「四肢の関節を拳で砕き動けなくしてナイフで刻む、残忍な殺し方だ」

 「何故そんな大物がパラフィン紙如きを奪うために出てくるのだ?」

 「さあ、白い粉のお菓子でも包むんじゃないですかね」

 「白い粉か、新しい合成麻薬、奴等は海外に持ち出す販路を見つけた?そんな器用な真似が出来る連中か」

 「チェバンも新たな国を建ててシノギも変えたのでは」

 部下は被りを振って見せた。

 「あり得る、この国特産のイエローアンバー(黄色の琥珀石)、狂人の粉を精製すると合成麻薬になるのは裏の人間なら誰でも知っている、世界中探しても同じものはない、海外で売れれば大きなシノギになるだろうな」

 「チェバンは海外のファミリーと手を握ったのでしょうか?」

「しかし奴らが他の組織と友好的な関係を築けるとは思えん、民族弾圧で徹底的に苛め抜かれてきた歴史が極端に閉鎖的な思想を生んでいる」

「独立戦争で負けたうえで民族の半数を殺されて影に下った連中の怨念は我々では想像できん、ボルツはチェバンの悪魔だ」

「僕たちはそんな奴を相手にするのですか!?」

「馬鹿言え!!この事件はファミリー同士の抗争だ、勝手にやらせておけばいい」

班長は内ポケットからタバコを取り出すと乱暴に咥えて火を点け大きく吸い込む。

吐き出した煙は世界を僅かに曇らせて消えた。


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