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VSOP

 産まれたばかりの瘟鬼は飢えていた、病を生み出し人に災いを齎すのが本来の瘟鬼。

 初心な瘟鬼が何故私に憑いたのか、何故私を選んだのか。

 覚えはある、幼い頃の自分は病の百貨店だったからだ。

瘟鬼は病に憑いた、その時から私は魔女になった。


 娼婦たちの最後を考えるとブランデーが苦い、いくら飲んでも酔うこが出来ない、アルコールを瘟鬼に喰われていからだ。

 XOのボトルが空になっている、ローペンの分まで飲んでしまった、今から嫌味の速射砲が聞こえる。

 「飲み過ぎたぜ、キリア嬢」

 店の中にはマルコスが一人だけ、スツールに座る姿は昨日と一緒だ。

 「瘟鬼が毒を喰った後はどうしようもなく飲みたくなるのよ」

 おまけに酔えない。

 「すまない、余計な事に巻き込んじまった」

 「いいさね、これも何かの運命、神様のお導き、いや魔女様のお導きってやつさ」

 「霧の魔女はお前だろ」

 「あっ、そうだった、魔女はあたしか」

 「くっく、自覚がないのも魅力の一つだが油断は禁物だ、特にこの街ではな」

 「毒の事だけれど何か心当たりはない?」

 「彼女たちが恨みを買っていなかったかということか」

 「限らないわ、モンテ・ファミリー、はっきりいえば貴方である可能性が一番高いのじゃなくて?」

 「むうっ」

 マルコスが渋面を作る、心当たりが有り過ぎるようだ。

 「俺に恨みがあったとして彼女たちを殺して何になる?嫌がらせ位にしかならん」

 「そうね、でも単純に考えないで、犯罪のプロなら人を追い込む手段に絡め手は常套でしょ」

 「俺なら質面倒くさいことはしない、捻じ伏せるだけだ」

 そうだろう、マルコスは策士ではない、マフィアらしくなく実直だ。

 簡単に言えばバカ正直、まあ、そこが好きで付き合っている。

 「こう考えられませんか」

 ギィ 裏口から入ってくるのは合鍵をもっているローペンしかいない。

 「ローペン」

 軽く手を上げてマルコスに会釈するとスツールに腰を降ろした。

 彼に見えないようにXOではなく格下のVSOPをグラスに注いでテーブルに置いた。

 一目見てローペンは(ああーんっ?)という顔でキリアを見ると渋々グラスを口に運び話し始めた。

 「娼婦殺しを魔女の仕業に仕立てる、そのために付き合いのあったマルコスさんが利用された……つまり的はキリア様、貴方の方」

 「むうっ」

 「嫌な事言うじゃない、それじゃ魔女狩りって事?」

 「それはないだろう、聖教会こそ回りくどい事はしない、確証なくとも拷問して火炙りにしちまう」

 「確かに、聖教会の線はありませんね」

 「火炙りは勘弁してほしいわ」

 「そんなことはさせん、いつか思い知らせてやる!」

 マルコスは聖教会に遺恨がある。

 「やはり話の肝は毒ね……あれが何だったのか分かれば良いのだけど」

 「喰っても分からないものなのか」

 「初見だったわ、それに味は覚えていても名前やデータは分からない、分かったうえで喰ってみるしかないわ」

 「それらしいのを片っ端から喰ってみるしかないわね」

 「キリア様、貴方の瘟鬼、シックファージはあくまで病を喰う能力、身体の中に入った物でなければ発動しないはず、一体誰が毒を口に入れるのですか」

 その通りだ、瘟鬼は人間の病にしか発動しない、毒だからと言って金属や植物では喰わない、誰かの身体に入れる必要がある。

 「勿論私が食べるわよ」

 「駄目です、論外です!死なずとも障害が残ったらどうするのですか、貴方は身体を治せるわけではないのですよ、分かってます!?」

 「そうなったらローペンが面倒みてくれていいわよ、行き遅れのオバサンでも貰ってくれるかしら?」

 「怖いもの知らずで男らしいのはいいが、お嬢がやることじゃない、実験台が必要なら俺がやる」

 「フェミニストが多くて助かるわ、でも男らしいは余計だわさ!」

 「まったく!マルコスさんの脳筋はわかりますが、キリア様が脳筋なのは全く似合いません、何故そのミステリアスな外観とそぐわない行動をなさるのか私には理解しかねる、少しは魔女らしくして頂きたい」

 「悪かったわね」

 「仕方ありません、キリア様とマルコスさんはもう一度自身の身辺をご確認ください、可能性がある事案は思い出せる限り文字に起こして検証する、いいですね!」

 「毒の方はどうするのさ」

 「それは私が請け負います、娼婦たちの症状から同じような効果があるものを調べてピックアップしておきます」

 「なにか伝があるの?」

 「医者仲間に詳しそうな奴がいますから当たってみます」

 「おおっ!さすがローペン、顔が広い」

 「二人ともいいですか、何かあっても一人では行動を起こさないでください、絡んだ糸は引けばより固く締まってしまうものです」

 医師と言ってもローペンは整体師、普段は腰痛や膝痛なんかの患者を相手にしている、その腕前はすこぶる良いと言える、ギックリ腰や五十肩などは一回で治してしまう、しかし小言が多く患者からは煙たがられているようだ。

 「いいのか、貴様には関係ない話だ、巻き込むことになるかもしれんぞ」

 「仕方ありません、自称保護者としての責任がありますから」

 「それにしても変よね、どうして二人同時だったの、多少でも日をずらせば怪しまれなかったのに、自殺に見せようとした?」

 「自殺は俺も考えた、だがもう直ぐ年季明けだった二人、自由と金が待っていた、死にたがる理由は見つからない、自殺ではないと思う」

 「梅毒の症状が出てから死亡するまで何日だったかしら?」

 「九日だ」

 「九……奇遇ね、ナイン、私は九秒殺し、九日殺し、ほんとに私と同じような魔女がいるのかしら」

 「二人が発症する直前の客って分かりますか?」

 「どうだろう、家は客単価を下げて数を取らせる売り方をしないが、娼婦の数は多い、余程特徴がなければ客引きや集金人は覚えていないだろう」

 「駄目元で聞いてみてくれ、潜伏期間がどうか分からないが十日前後だろう」

 「うむ、承知した」

 マルコスはXOのストレートを水のようにあおりスツールを降りた。

 「あっ、そうだ、私明日予約あったんだ、午前中出かけるわね」

 「聞いていませんよ、どちらの顧客ですか」

 「ゴドー商会、仕入れた奴隷に具合の悪いのがいるって、感染症だと一部屋全部損失になるからね」

 「スケベ爺のところか、奴は悪食だからな、気負付けろよ」

 バタンッ マルコスがコートの襟を立てて出て行った。

 「悪食ってどういう……」

 悪気がないと分かっているだけに傷は二倍だ。

 「さてキリア様、私のグラスが何故XOではないか教えていただけますか?」

 

 いつものお説教タイムが始まった。


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