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アレッ(Allez!)

 「ここから北へ十キロほどに行ったノーベルの街で怪異現象が報告されています、早速ですがジャッカルと共に街まで出向き調査を行って貰えませんか」

 「怪異現象!?それは魔女と関連があるのですか?」

 「それはまだ分かりません、そのための調査です、なんでも住民の間に奇病に蔓延しているそうです」

 「奇病?今年は国内で疫病の発生はなかったはずですが……」

 「まあ、噂程度の情報です、然したる危険は無いと思いますが、万が一の時はジャッカルに任せて逃げてください、おっと、あくまで報告の為です」

 「分かりました、ノーベルの街には土地勘があります、何事もなければ明日昼までには本隊に復帰します」

 「助かります、アリス二尉、ではお気をつけて」

 「……」

 終始膝を付いたままのジャッカルが立ち上がり背を伸ばした、日影がアリスをすっぽりと包み込む。

 「馬を用意してまいります……二尉、それとも様?とお呼びすれば」

 照れたように視線を外した、外見に似合わず純情なのかもしれない。

 「様はいらないわ、ただのアリスよ、よろしくね、ジャッカルさん」

 「さん!?いけません、聖騎士様が殉教者に敬称など付けては!尊厳にかかわります」

 「何故?私たちはバディになる訳でしょう、なら礼節を保つのは当然、ここは譲らないわ」

 「うっ、では私はせめてアリス様とお呼びいたします、どうかお許しを」

 「仕方ありません、ジャッカルさんにご迷惑を掛けたくはありませんから、承知しましたわ」

 「ありがとうございます、アリス様」

 変わった娘だ、異個人の殉教者に礼節だと?聞いたことがない、何か裏があるのか。

 見た目は二十歳そこそこ、名前のドゥ・ラは爵位持ちの令嬢、こんな現場で鎧を装備しているなど如何な理由があるのか・・・・・・知りたくはないが興味はある。

 きっと青臭い理由だろう、自分には関係ない世界の話だ。

 目の前にいる清純で曇りのない女性、着任早々の単独任務にも嫌な顔を見せない、むしろ喜々としている、その屈託のない笑顔に嘘はなさそうだ。


 休みも取らずノーベルの街へと二人は向かった。

 馬にも乗り慣れている、遊びレベルではない、戦闘を前提にした本格的な訓練を積んでいる、若いのに大したものだ。

 森を抜ける街道、見晴らしの良い広場に差し掛かる。

 最近、強盗が出ると噂の場所だ。

 ジャッカルは周囲に警戒の気配を飛ばす、いやな感じがする、ジャッカルの名前は伊達じゃない、鼻と感には自信がある。

 スラッ 後ろを走るアリスが先に剣を抜いた!

 見晴らし台の崖から数人の若者が道を塞ぐように出てくる、強盗というより半グレの不良だ、本職のプロには見えない。

 驚いた!自分より早く強盗の存在に気付いていた。

 「止まれーっ!!」

 安物の剣を振りかざして道を塞ぐ、後ろに弓を持った奴がいる、駆け抜けて背中を見せるのは得策じゃない、距離を置いて馬を止めた。

 「何者だ、我々を聖教会騎士団と知っての事か!?」

 「そんなの見りゃ分かるに決まってんだろ、ここは俺達が仕切っているんだ、この道を通りたきゃ通行料を置いていきな!」

 「後ろの騎士様はイキッて剣なんぞ抜いていると怪我するぜ、俺たちは女だからって容赦しねぇからな!」

 肩に抜き身の剣を担いでふんぞり返った若者たちはやはり素人、街で子供や老人相手にカツアゲをしているようなチンケな連中、少し脅してやれば身の程を知るだろう、ジャッカルは馬から降りようと鐙を外した。

 ザシャ またもアリスが先に馬を降りる。

 「!」「アリス様!」

 アリスの剣は細く円錐、突くだけに特化している。

 スッ 片手半身、剣先を天に向ける。

 「アン、ガルト!」(構え) 剣を水平に降ろすとピタリとリーダー格と思われる男に切っ先を向ける。

 「ああーん、なんだってぇ?」舐め切った男は剣で肩をトントンと叩いている。

 「エト・ヴ・プレ?」(準備はいいか) グンッと腰が下がる。

 「うんっ!?」この時になって彼女の本気をチンピラたち、そしてジャッカルも理解した。

 「アッレッ(Allez !)」(始め) カッ 彼女の目が見開かれ、神速の突きが放たれた。

 それはフェンシング、貴族のスポーツではない戦技として発達した剣技。

 シュバッ プリンにフォークを刺したようになんの抵抗もなく切先が固い図骨を刺し貫く。

 「え゛っ……」

 「!!」

 立ったままリーダー格は死の痙攣を始める、剣が引き抜かれると糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 殺した、なんの躊躇いもなく、痙攣する様を見下ろすアリスは何かに魅了されたように艶めかしい、そこに快活で精錬な少女はいない。

 チロリとピンクの舌が唇を舐める、ゾクリとするほど色っぽい。

 「ひいっ」狩る獲物を間違った、狩られるのは自分たちだった事にチンピラたちは気付いたが既に遅い。

 ダンッ ダンッ バッ フェンシング・ピストの上をアリスの残像が飛ぶ!

 実体化した姿が停止すると二人目が痙攣を始めていた、死のダンス。

 「くそっ、殺しやがった!」

 弓を持った男がアタフタと矢を番えて反撃しようと弓を引く。

 ヒュン ドスッ 「げっ」 

 ジャッカルの短刀が弓兵の胸から生えた。

 「どうも!」小首を傾げての微笑。

 残った二人は小便を垂れ流し、腰を抜かして立てないでいる。

いきがっていた態度は消え失せていた。

 「あなたたち、どうする?」

 唐突の質問。

 「はひっ!?」

 「この後の人生を聖教会に帰依して魂の浄化に生きるか、それとも」

 ヒュンッ レイピアの切先から血が飛び散る。

 「今この生を終わりにして次の転生に向かうか、どちらにします?」

 

 冷徹な悪魔が天使の微笑みを見せた。


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