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第八話 悪魔召喚

第八話 悪魔召喚


「よくも逃げる気になったわね……」

彼女はレヴィアタン、魔界七つの大罪の一つ・嫉妬の罪、魔界の深淵から来た悪魔だ。

部屋の中に立ち、床に跪く私を見下ろしている。


「あんた……幻獣たちを殺したの?」震える声で尋ねる。彼女の体に付着した羽根や鱗を見て恐怖に顔が引きつる。

「そうよ」冷たく答えると、衣装についた羽根を払い落とす。

私は瞳を震わせ、キャラメルを強く抱きしめた。


「当たり前でしょ?私は悪魔なんだから」

「それに、あの幻獣たちは本当に死んだわけじゃない。幻獣界に戻っただけ」

彼女の声は軽やかで、何でもないことのように聞こえた。

だがそれは、それらの幻獣がしばらく召喚できなくなることを意味していた。人間界の百年を経てようやく成熟し、再び現世に戻れるほどに。

その時には……召喚主はもうこの世にいないだろう。


彼女の視線が私の腕の中のキャラメルに向けられる。

「キャラメルに触るな!」激情に駆られて叫ぶ。

「さもないと……ミカエルを召喚しないぞ!」勇気を振り絞って脅す。

「人間ごときが私に条件を?」鋭い声。その目は刃のように私を貫く。

ようやく最後の羽根を取り除き、衣装を整えた。


「ミカエルを呼び出しなさい」冷然とした口調。

「人間相手にいつまでも付き合ってられないわ」

「もう召喚しないなら、こいつを殺すけどいい?」


―――

魔界――それは弱者の避難所であるはずではなかったのか?臆病者たちの最後の聖域?

聖なる光に満ちた天使たちとは違い、そこは闇と負の感情、追放者たちの領域だ。

(この無力感、虐げられる感覚……)

誰も私を救ってくれない。自分自身さえ救えない。

(結局……私は弱いままだ)


「ミカエル……」両手を合わせ、震える声で呟く。

「助けて……」

祈るような姿勢で、天界に切なる呼びかけを送る。

純白の光が部屋の中央にゆっくりと広がっていく。


白い羽根が風に舞い、星屑のようにきらめく。

「ご召喚にお応えします、大天使ミカエルでございます」

光の中から現れた彼女は、翼を広げた。

私の前に立ち、純白の翼は聖なる輝きを放っていた。


「ミカエル……」その名を呼び、止めどなく涙が溢れる。

「お久しぶりです、緋夜様」優しく微笑む。

「また私を召喚してくださって、ありがとうございます」


「ミカエル、僕……」


「僕は弱すぎた……キャラメルも守れない、自分も守れない……

ずっと頑張ってきたのに、永遠のE級のままで、笑われて、馬鹿にされて……」

「本当に弱くて、助けを求めることさえできなかった……」

膝をつき、声を殺して泣く。涙が床に落ちる。


腕の中のキャラメルが心配そうに私を見上げる。

ミカエルはしゃがみ込み、優しく頭を撫でた。

「大丈夫です、緋夜様。助けを求めてくださったことが、一番の勇気です」

「私は弱き者の力――大天使ミカエル」

「どうか私に守らせてください」

柔らかな声で、優しくも力強い眼差しを向ける。


「うん……ミカエル……」涙声で、言葉が続かない。


ミカエルはゆっくりと立ち上がり、部屋の反対側にいる影に向き直る。

「やあ、久しぶりだね、ミカエル」壁にもたれかかるレヴィアタンは笑みを浮かべている。

ミカエルは聖剣を抜き、冷たい視線を向ける。

「レヴィアタン……なぜここに?」

剣を握りしめ、魔界の悪魔――嫉妬の罪レヴィアタンと対峙する。


「おいおい、ここで戦うつもりかい~?」軽薄な口調。

「ここは人間の家だし、私は戦うつもりもないわ」

両手を広げ、敵意がないことを示す。

「私たちは不死身同士、戦っても意味がない。ただ街を破壊するだけ」


「何の用でここに来た?どうやって人間界に来たの?」

ミカエルは剣を構えたまま、警戒を解かない。

「質問が多いね~、答える必要ある?」挑発的な笑み。


「答えろ!」ミカエルは一瞬で接近し、剣を彼女の首元に当てて地面に押さえつける。

「悪魔がどうやって人間界に来た?」

表情は冷静だが、声にわずかな動揺が混じる。


「君に会いたかったからさ~」

床に寝転がったまま笑う。

「天界は防護結界で塞がれてるし、私は入れないから、遠回りしたの」

「ここなら君に会えるかもって、やっぱり来たじゃない」


「嘘ばかり」冷たい目で睨む。


レヴィアタンは笑顔のまま続ける。

「ここまで来るのに、随分時間かかったわ……」

「魔界から迷宮を抜けて来たの」

「魔界に近い転送門ほど、『魔』の存在は阻止される」

魔物も悪魔も通れない。

通れるのは人間と、人間が変異した屍鬼だけ。

屍鬼が迷宮を出れば、王国は滅びるだろう。


「だから一番遠い門なら、私のような悪魔でも通れるかもって思ったの」

「そして――この面白い人間に出会った」私をちらりと見る。

「彼の体からは膨大な負のエネルギーが発せられてる……それに君の匂い(通路)がする」

「そして君に会えた。これって運命じゃない~?」

ミカエルの顔に触れようとする手を、ぱしりと払いのけられる。


「魔界に帰りなさい、レヴィアタン」

ミカエルは剣を鞘に収める。

「え~、嫌だよ」子供のように抗議する。

「天使は人間界に自由に行き来できるのに、悪魔はダメなんて不公平だわ」

「でも、ミカエルが一緒に魔界に来てくれるなら帰ってもいいけど~」

頬を少し赤らめ、ミカエルを盗み見る。


「魔界に行くわけにはいかない」

きっぱりとした口調で立ち上がる。

「人間の召喚魔法について聞いたわ」レヴィアタンは相変わらず寝転がったまま。

「この魔法、天使や幻獣だけじゃなくて」

「悪魔も召喚できるんだって」


翼をパタパタさせ、空中に浮かぶ。

「決めた」

ミカエルの背後にいる私を指差す。

「あいつに私を召喚させる」


ミカエルはすぐに私の前に立ち、視線を遮る。

「そうすれば、わざわざここまで来なくても済むからね~」


―――

「悪魔を召喚……?」小声で繰り返す。

「緋夜様、彼女の言うことを聞いてはいけません」ミカエルは断固とした口調。


「そんなこと言わないでよ~」レヴィアタンは軽やかに羽ばたき、私の周りを旋回する。

「彼、明らかに魔界に興味あるじゃない」

私をじっくり観察し、体内のエネルギー波動を感じ取る。

「でも……彼の負のエネルギーじゃまだ足りないわ」

「私を召喚するにはね~」


「ちょっと刺激してあげないと……」

そう言うと、再び私の腕の中の幻獣に目をやる。

「キャラメル!」叫びながらしっかりと抱き締める。

彼女は手を上げ、水の柱が私とキャラメルに向かって直撃する。

ミカエルが即座に飛び込み、私たちを庇う。


水柱が彼女の体に激しくぶつかる。

「君がいたこと忘れてたわ、ミカエル~」レヴィアタンは手を引っ込める。

ミカエルは全身ずぶ濡れで、衣服が肌に密着し、体のラインが透けて見える。

「エロいわね……」レヴィアタンがくすくす笑う。

「アスモデウス(色欲の罪)より、私は君の方が好みだよ、ミカエル~」

「アスモデウスのこと考えるとむかつく……」またぶつぶつ言い始める。


「ミ……ミカエル!?」心配そうに見上げる。

「大丈夫です」淡々と顔の水気を拭う。

「彼女に私を殺すことはできません。どうかご安心を」

私に向き直る。

「キャラメルをしっかり抱いていてください。彼女には触れさせません」

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