第三話 天界へ帰還
第三話 天界へ帰還
天界――それは天使たちが棲む国であり、天使たちの上には神が存在する。
「おかえり、ミカエル」爽やかな声が響き、赤髪の天使が近づいてきた。
大天使――ウリエル、炎を司る天使だ。
「ただいま、ウリエル」ミカエルはかすかに微笑み、淡々と返事をした。
彼らは白く輝く地面をゆっくりと歩き、周囲には壮大な光の柱が立ち並び、空気は清浄そのものだった。
「今回も何か面白いことあった?」ウリエルは生き生きと尋ねた。
「特にないわ」ミカエルの声は冷たかった。
「またそう言う」ウリエルは唇を尖らせ、不満そうだった。
「まずは人界での任務報告をしなければ」ミカエルは淡々と言った。
これは三百年来、天使が初めて人間に召喚された大事件で、天界全体が注目していた。
「人間界の状況はどれほど悪化していると思う?」ウリエルは少し厳しい口調で聞いた。
「楽観できる状況ではないわ」ミカエルの声には重みがあった。
「人間に戦闘力を与えたこと...間違いだったのかしら?」ウリエルは呟くように言った。
人間が力を得ると、往々にして欲望も膨らみ、神の存在すら忘れてしまう。
「正しいも間違いもないわ」ミカエルはゆっくりと口を開いた。
「元々の目的は、人間が自立して生きながらも、神性への畏敬を失わないようにすることだった」
魔界が魔獣を解き放ったのも、この過程の触媒に過ぎない。
「あーあ!私も人間界に行きたーい!」ウリエルは頭を抱えて悔しがった。
「同じ大天使なのに、どうして私じゃないのよ!」
「緋夜様の話では、使用した魔石では大天使クラスの召喚は本来不可能だったそうよ」
ミカエルは冷静に答えた。
「私もかろうじて転送門を通り抜けただけ」
「だって大天使の中で、あなただけが(胸が)平らだからね」ウリエルが突然付け加えた。
ミカエルの額に瞬時に青筋が浮かび、ゆっくりとウリエルを睨みつけた。
「私だって転送門見えたのに!通り抜けられなかっただけよ!」
彼女はがっくりとうなだれ、自身の胸元を恨めしそうに見た。
ガシャン!ミカエルの剣が雷鳴のような音を立てて抜かれた。
「切ってあげましょうか?」不気味に笑うミカエル。
「冗、冗談ですって!落ち着いて!!」ウリエルは慌てて両手を上げ、冷や汗をかいた。
「悪かったわ!ごめんなさい!」
「でも...今回の任務、失敗だったかもしれない」
ミカエルは突然低い声で言い、目を伏せた。
「彼...もう私を召喚してくれないかも」
「相手が男の子だって言ってたじゃない」ウリエルは横目で彼女を見た。
「やっぱり男の子が好きなのは――」再び自身の豊満な胸元を見下ろした。
ドン!大剣が空気を切り裂き、ウリエルの足元の床を叩き割った。
「本当に冗談ですって...」ウリエルは真っ青な顔で、殺気立つミカエルを見つめた。
―――
「一度確立した通路は変更できない」
「緋夜様が早く他の大天使を召喚してくれればいいけど、魔石の回収状況...あまり芳しくない」
冒険者ランク昇格のための消費もあり、今は在庫がほとんどない。
ミカエルは歩きながら呟き、ウリエルは黙って傍らを歩いた。
「無料の素材なのに、人間界では高値で取引されているなんて...」
「魔物を何匹か倒せば手に入るんでしょ?簡単じゃない?」ウリエルは気に留めない様子だった。
「人間は迷宮を私有財産のように運営しているの」ミカエルはため息混じりに答えた。
一般人は立ち入りできず、特別な資格が必要だ。
「緋夜様のランクが低すぎて、高レベル迷宮に入れない」
「それにすぐ落ち込んで、自己否定して、幻獣だけを友達だと思い込んでる!」
彼女は興奮しながら話した。
「随分と世話を焼いてるのね...」ウリエルは感心したように彼女を見た。
「ミカエル、お帰り」優しい声がした。緑の髪をした中性的な雰囲気の天使が近づいてきた。
大天使――ラファエル、癒しを司る天使だ。
「ラファエル...」ミカエルは思わず彼の平坦な胸元を見た。
「任務は順調だった?」ラファエルは微笑んで尋ねた。
(ラファエルは癒しの天使だから、最初に人界に派遣されるはずがない...)
(それに天使に性別はないけど、ラファエルの身体は...どちらかと言えば男性寄りかしら)
ミカエルは考え込んだ。
「彼女どうしたの?」ラファエルは首を傾げ、ウリエルを見た。
「人界で疲れたんじゃない?」ウリエルは他人事のように言った。
「でも天使は疲れないんじゃ...?」ラファエルは困惑した。
「心の疲れよ」ウリエルは彼の肩を叩いた。
―――
それからどれほど経っただろう。
「やっぱり...まだ召喚してくれない」
ミカエルは力なく机に突っ伏し、がっかりした様子だった。
「こんなに時間が経ったら、人間界では何日も過ぎてるはずなのに!」悔しそうに叫んだ。
天界と人界では時間の流れが異なる。
「緋夜様には、必要な時はいつでも召喚していいって言ったのに...」
もう...必要とされていないのかしら?
「もう少し待ってあげなさい」向かい側に座った白髪の天使が優しく言った。
大天使ガブリエル、純潔と安寧の象徴だ。
「彼はまだ天使との付き合いに慣れていないのでしょう」ガブリエルは微笑みながら紅茶を口にした。
天界と人界が迷宮で隔てられて以来、天使たちの生活も手持無沙汰になっていた。
(魔界の動向を監視する以外、ほとんどすることがない...)
人界にいれば、せめて魔物と戦えるというのに。
彼女は深くため息をついた。
ガブリエルは手を伸ばし、優しく彼女の髪を撫でた。
「たまにはこうして休むのもいいわ」昔から落ち着きのない子だったから。
突然、ミカエルの傍らに光が輝き、転送陣が現れた。
「あの...ミカエル、今暇かな...?」
少年の声が転送陣から聞こえてきた。
「もちろん、今行きます!」ミカエルの目がぱっと輝き、嬉しそうに跳ね上がった。
転送陣に飛び込む前に、振り返って挨拶した。
「ガブリエル、また後で!」
「ええ、気をつけて」ガブリエルは微笑んで見送った。
―――
主人公の部屋で、彼は手を合わせ、静かに彼女の名を呼んでいた。
強烈な光が閃き、ミカエルの姿が眼前に現れた。
「ご召喚にお応えします、大天使ミカエルでございます」
羽根を広げ、自信に満ちた自己紹介。
「お久しぶりです、緋夜様」優しく微笑んだ。
「う、うん、久しぶり」主人公はどこかぎこちなく、視線を泳がせていた。
「今日も迷宮に行きますか?」
ミカエルが微笑んで尋ねると、さりげなく羽根を畳んだ。
「いや、その...」主人公は言葉に詰まり、何かを考えているようだった。
その時、キャラメルが彼の肩に飛び乗り、勇気を与えるかのようだった。
「僕...ミカエルとデートしたい!」勇気を振り絞って言い切った。
「で...デート?」ミカエルは反射的に繰り返した。
天界にはそんな概念などない。
(断ったら、また落ち込んでしまうに違いない...)頭をフル回転させた。
「いいわよ、デートに行きましょう」優しい笑顔を見せた。
「そ、それじゃ準備してくる!待っててね!」目を輝かせ、声に張りを持たせた。
「行くぞ、キャラメル!」そう言うと、幻獣と共に二階へ駆け上がった。
ミカエルは静かに立ち尽くし、優しい眼差しで待っていた。
(召喚されてからずっと、迷宮で魔物と戦ってばかりだった...)
(今回は、お互いを理解し合う良い機会だわ!)ガブリエル、頑張ります。
心の中で自分に言い聞かせた。