第十五話 二匹目の幻獣
第十五話 二匹目の幻獣
私は緋夜・グレイヴン、十五歳。冒険者ギルド公認の最弱存在、「永遠のE級」という嘆かわしい異名を持つ。
今、私は一つの悩みに直面している。
―――
「とりあえずラファエルとミカエルは先に帰してもらった」小屋の冷たい床に仰向けになり、つぶやく。目は隅に積まれた、小さくなったがまだ輝きを放つ魔石の山へと向く。
「一人でゆっくり考えたかったんだ、今度はどんな幻獣を呼び出すべきか…」奇跡のエネルギーを秘めた石を見つめながら、思考はさまよう。
「これだけ魔石があれば、キャラメルを何匹も呼べるかもしれない…」荒唐無稽だが強く惹かれる考えが頭をよぎり、口元が思わず狡猾な笑みを浮かべる。
「強力な魔物に遭遇した時、これを使えるかも…」
壮大な想像が広がる。
「行け!連携の力を見せてやれ!」意気揚々と手を振る。
そこにはキャラメルと瓜二つの、ふわふわの可愛い幻獣たちが、巨大な魔物に「にゃー」と鳴きながら黒い波のように押し寄せ、瞬く間に包囲する。
「頑張れ!キャラメル!それにブラウンシュガー、シュガー、チョコ、ストロベリー、ピーナッツ、ゴマ…!」興奮して叫ぶ。背後にはまだまだ尽きることのない名前の猫たちの大軍が控えている。
「ダメだ!ダメだ!」激しく首を振り、壮大(だが非現実的)な幻想から現実に引き戻す。
「それに…」心に柔らかな守護欲が湧き上がる。
「キャラメルを戦わせたくない…」怪我をしたらどうしよう?
ラファエルは治癒術を使えるが、その光景を想像するだけで胸が痛む。
「そもそもキャラメルに戦闘能力なんてないんだ」ギルドの幻獣能力判定では「マスコット」に分類されている。
「一体どんな幻獣がいいんだろう~」床の上で苦悶のあまりごろごろ転がる。薄いシャツ越しに木の冷たさが伝わる。
「ラファエルもミカエルも、好きなものを選べばいいって言うけど…」ラファエルの優しい助言(とミカエルの言葉)が頭の中でこだまする。
「僕が好きなのは…」視線が自然と、傍らで優雅に前足の毛づくろいをするキャラメルへ流れる。その無防備で没頭した様子に心が溶けそうになる。
「強すぎず、弱すぎず…ちょうどいい感じの能力」未来の相棒に向けて、曖昧だが誠実な願いを小さな声で口にする。
―――
「あなたの召喚に従い、大天使ミカエル」
「あなたの召喚に応え、大天使ラファエル」
荘厳で温かな宣言と共に、ミカエルとラファエルの姿が召喚陣を通り、狭い屋内に優雅に降り立つ。
「さ、さっそく出発しよう!」興奮を抑えきれず、二人の天使に向かって弾んだ声で叫ぶ。待ちきれないという輝きが顔に満ちている。
「あ!リュック忘れた、ちょっと待ってて!」言い終わらないうちに、他の部屋へと風のように駆け出す。
「本当に元気ですね」ラファエルは穏やかに微笑み、緑の瞳に一抹の称賛を浮かべる。
「以前、出かけるのに三十分は心の準備が必要だと聞いていたのですが」
ラファエルは天界でミカエルがこぼしていた昔話を思い出す。
「何か特別な良いことでもあったのでしょうか?」ミカエルは傍らに立ち、金色の瞳に疑問をたたえながら興奮しすぎる主人を観察する。
(まさか…ラファエルと一緒に迷宮に行けるだけで、こんなに喜んでいる?)複雑な気持ちになる推測が頭に浮かぶ。
(今回は置いていかれなかっただけでも喜ぶべきか…)微妙な寂しさが静かに湧き上がる。
「にゃ!」馴染みのある鳴き声が床から聞こえ、思考を遮る。
ミカエルは無意識に腰をかがめ、あの黒い毛玉を抱き上げようとする。
「キャラメル様、緋夜様が今日どうして…」言葉が途中で止まる。腕の中の幻獣を見下ろし、動きが固まる。
「あれ…どちら様ですか?」ミカエルの声には困惑が満ちている。振り返ったラファエルと驚きの視線を交わし、二人の目が「見覚えがある」が明らかに異なるこの幻獣に同時に注がれる。
―――
一行は迷宮入口へ続く喧噪の街を歩く。
「すごいだろ!昨日召喚した新しい幻獣の相棒だ!」胸を張り、自慢げな口調で言う。まるで一番の宝物を見せているようだ。
「名前は『ブラウンシュガー』!」得意げに宣言する。
ミカエルとラファエルの視線は、キャラメルより少し小柄な黒猫に向けられる。
「四本尾の猫ですね」ラファエルは鋭く指摘し、ブラウンシュガーの背後でゆらゆら揺れる四本の黒い尾を見つめる。
今、私の肩には大小二匹の黒猫がそれぞれ陣取っている。キャラメルは相変わらずのんびりとした様子で、新しく来たブラウンシュガーはより落ち着いて優雅に見える。
「残りの魔石は全部、こいつを召喚するのに使ったんだ」先頭を歩きながら魔石の行方を説明する。
「どんな幻獣を思い描いていたのですか?」後ろからラファエルの穏やかな問いかけが聞こえる。
私は足を止め、振り返り、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「もっと強いキャラメル!」声は大きく、自身の構想への満足感に溢れている。
ミカエルは瞬間的に凍りつき、金の瞳を見開き、信じがたい答えを聞いたかのようだ。
一方ラファエルは変わらぬ温かい微笑みを保ち、驚いた様子もない。
「結果は…」肩のブラウンシュガーを見て、撫でようとした手を不機嫌に避けられる。
「キャラメルより一本多い尾が生えただけだ」計画通りにはいかなかった無念さが声に滲むが、すぐに愛情に取って代わる。
「でも可愛いから、まあいいか!」
「一本多いってことは、ちょっとだけ強いってことかも?」成果に理屈をつけようとする。
「ねえ、ブラウンシュガー」抱き上げて、深い猫目を見つめる。
「戦える?」期待に胸を膨らませて尋ねる。
ブラウンシュガーは静かに見返すだけ。反応も動きもなく、精巧な黒い彫像のようだ。代わりに反対側の肩のキャラメルが不満げに尾を振り、かすかな唸り声を上げる。
「ダメでもいいさ!」すぐに納得し、何も気にせずブラウンシュガーを肩へ戻す。
戦闘力なんて、元々重要じゃない。
(可愛ければそれでいい!)興奮。
「そうだ!君も人間界の肉串は好きかな~」思考はすぐに楽しい方向へ飛び、目を輝かせて提案する。
「今日の冒険が終わったら買ってあげるよ!」二匹の猫が肉串を嬉しそうに齧る姿を想像し、幸福感が顔から溢れそうだ。
―――
迷宮の薄暗く湿った通路には、埃と魔物特有の匂いが漂っている。
「行け、ブラウンシュガー!」前方の低レベルなスライムを指さし、期待に満ちて肩の新しい相棒に命じる。
しかしブラウンシュガーは軽やかに肩から飛び降り、地面に着地すると…そのまま座り込み、微動だにせず、ただ静かな猫目で私を見つめ返すだけだ。
「やっぱりダメか~」肩をすくめ、反応のないことに怒るどころか、すぐにリュックを探り始める。
「肉干、食べる?」大切にしていた小さな肉干を取り出し、宝物のようにブラウンシュガーに差し出す。
その間も少し離れた場所で、ミカエルが光の剣を振るい、集まってくる魔物を手際よく片付けている。
こちらののんびり(というか無為)な雰囲気と、彼女の力強い戦いの光景は鮮やかな対照をなしている。
「つ、なんというか…」ゴブリンを一閃しながら、ミカエルは小声で呟く。声にはかすかな悔しさがにじむ。
「完全に無視されている気がする…」
「ねえ、ラファエル」相変わらず大人しいブラウンシュガーを抱き、警戒するラファエルのそばに寄る。
「ブラウンシュガー、朝からずっと元気ないんだ…」腕の中で異常に静かな猫を心配そうに見つめ、眉をひそめる。
「病気なんじゃないか!」恐ろしい考えが声を大きくさせる。
「診てみましょう」ラファエルは落ち着いて言い、両手を差し出してブラウンシュガーを慎重に受け取る。
「理論的には、幻獣が病気になることはあまりないようですが…」優しい声で言いながら、ブラウンシュガーを膝の上にそっと置く。
ブラウンシュガーはラファエルの柔らかい衣の上で数歩歩き、一番心地よい場所を探すようにしてから、そのままうつ伏せになり、目を閉じる。異様に従順だが生気がない。
「やっぱり、病気だ!」ますます心配になり、近づいて観察する。
「元気がまったくない!」
「確かに特に目立った外傷は感じられませんね…」ラファエルの長い指がブラウンシュガーの背中や四肢を優しく撫でながら、丁寧に調べる。
「人間界に来たばかりで、ここの環境にまだ慣れていないのかもしれませんね?」妥当な推測を口にする。
その時、大人しくしていたブラウンシュガーが突然、予告なく爪を伸ばし、ラファエルの白い手の甲に「シュッ」と三本の浅い傷を引っかいた。
「ラ、ラファエル!大丈夫か!」驚いて、彼の手を心配そうに見る。
「大丈夫です」ラファエルは変わらず穏やかで、眉一つ動かさない。手の甲の赤い傷跡が目に見える速さで癒え、あっという間に元通りになり、傷ついたことなどなかったかのようだ。
「にゃ…」ブラウンシュガーはかすかに鳴き、ラファエルの膝の上で丸くなり、深い眠りについた。
「疲れたのかしら?そっとしておいた方が良さそうですね」膝の上で眠る猫を見て、ラファエルは静かに提案する。
「緋夜様、一旦幻獣界で休ませてあげてくれませんか?」
「は、はい!」すぐに応え、深く息を吸い込み、目を閉じて両手を強く打ち合わせる。
柔らかな光を放つ転送陣が床に浮かび上がり、ブラウンシュガーの小さな姿が光の中ですりガラスのように薄れ、ついには完全に消えた。
「成功した…?」緊張して片目を開けてこっそり確認し、ブラウンシュガーが無事幻獣界に戻ったのを見届けて、ようやく長く安堵の息をつき、張り詰めた肩の力が抜ける。
「ラファエル!」必死に彼に向き、だらりと垂れた手には不安がにじむ。
「ブラウンシュガー、いったいどうしたんだ!」声には心配が満ちている。
「重いのか?死んじゃったりしないか!」度を越した心配は最悪の方向へと思考を走らせ、声は感情的になる。
「そこまで深刻じゃないですよ…」ラファエルは私の取り乱した様子を見て、少し気まずそうな慰めの笑みを浮かべる。
「さっきの反応は…」ラファエルはブラウンシュガーの行動を思い出し、言葉を選ぶ。
「どうやら…」(「触らないで」という強い意思を伝えていたようだ。)
「触れられるのがあまり好きではないようです」観察結果を優しく伝える。
「え…そうなの?」呆然とし、考え込む。
(昨日はまだ抱けたのに…)
「もちろん、単に人間界に慣れていないだけかもしれません」ラファエルは付け加える。
「何しろ私もここに降り立った時、少し体調が悪いと感じましたから」ラファエルは当時の感覚を思い出しながら言う。
「え!初耳だよ!なんで気分が悪くなるの?」この知らせに再び緊張し、目を大きく見開いて彼を見る。
「主に天使の能力がこの世界で制限されるためです」ラファエルは落ち着いて説明する。
「体が天界にいた時よりも重く感じられ、調整に少し時間が必要になります」
「でもご心配なく」私の心配そうな表情を見て、すぐに微笑んで安心させる。
「大した影響ではありません、ただ次元が下がりすぎて体が少し慣れる必要があるだけです」
「そういえば…」頭の中に閃光が走る。ミカエルが初めて降臨した時の光景を思い出す。
「ミカエルが初めて来た時…」
(記憶が一気に遡る…)
「き、君…どうしたの!」呼び出し陣の光の中から現れた途端に片膝をつき、青ざめたミカエルを慌てふためいて見る。
「す、すみません…」ミカエルは苦しそうに息を切らし、額に脂汗をにじませている。
「体が…少し…慣れなくて…」口を押さえ、気持ち悪さを必死にこらえている。
「それに…吐き気が…」
「うわああ!どうしよう!」当時の私は完全にパニックになり、その場でくるくる回っていた。
「そうだ!医者!早く医者を呼ばなきゃ!」それが当時の私の唯一の解決策だった。
現実に戻る。
「あんなことがあったんだ」ラファエルに当時の大騒ぎの様子を説明する。
「なるほど」ラファエルは静かに言う。
「それなら私の体調不良は、比較的軽い方だったと言えそうですね」変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべる。
「キャラメルが来た時は、特に何もなかったみたい」キャラメルが初めて現れた時の様子を思い返す。
「でもブラウンシュガーは…昨日はあんなに元気だったのに」今日の異常を思い出し、再び心配が頭をもたげる。
「昨日?」ラファエルは私の言葉の中の時間軸を捉え、興味深そうに尋ねる。
「何か特別なことがあったのですか?」
「それがね…」少し照れくさそうに髪をかく。
「可愛くて興奮しちゃって、ずっと抱っこしようとしたんだ」
「そのたびに器用に避けられてさ」手の甲にほとんど見えないかすり傷を差し出す。
「それにあちこち引っかかれたんだよ…」
「でも!」すぐに得意げになり、目を輝かせる。
「一晩中がんばって、ついに抱っこに成功したんだ!」昨夜の「戦果」を興奮して共有する。声には達成感が満ちている。
「あの…」ラファエルは私の話を聞きながら、温かい笑みを崩さないが、碧い瞳の奥にわずかな困惑と理解の色が一瞬走る。何かを悟ったようだ。




