第十四話 ミカエル召喚の想い
第十四話 ミカエル召喚の想い
「ミカエルを召喚した時、何を考えていましたか?」
優美な緑の長髪、男女の区別がつかない精緻な顔立ちの大天使ラファエルが静かに立ち、穏やかな口調で問いかける。その傍らでは、眩いほどの金のショートヘアに絶世の美貌を持つ大天使ミカエルが微かに首を傾げ、答えを待っている。
召喚主である私――緋夜・グレイヴン、十五歳。召喚魔法はこの世で珍しいものではないが、三百年もの間、誰一人として天使のような存在を召喚した者はいなかった。
天使は最早、人々の手が届かず召喚不可能な伝説となっていた。だが私はその常識を打ち破り、天使を召喚しただけでなく、一度に二人も呼び出してしまったのだ!
―――
今、私は自宅で、自らが呼び出した二人の大天使を慎ましやかに見つめている。
「ミカエルの時か……」深く息を吸い、数日前に思いを馳せる。
あの瞬間のために、私は長い五年の歳月を費やした。
日々節約し、他の冒険者たちが見向きもしない小さな魔石を拾い集めた。ひたすら貯め続け、決して諦めなかった。
ついに、部屋の隅に積み上げた苦労の結晶は、背の低い私の身長に迫るほどになっていた。
「頑張れば僕にもできる……!」微かに光る魔石の山を見つめ、胸に言い知れぬ興奮が湧き上がる。
いつも静かに傍にいる幻獣――最初の召喚獣、キャラメルを見る。
「キャラメル、もう少し待って。すぐに君の相棒を呼べるから」弾んだ声でキャラメルに、そして自分自身に約束し、再び魔石の山へ熱い視線を注ぐ。
しかし、一抹の不安が心をよぎる。
「でも……キャラメルと全然違う見た目だったらどうしよう……」思わず呟き、考え込む。
「幻獣召喚って、姿形を指定できるんだっけ?」キャラメルを初めて召喚した時のことを思い出そうとする。
「あの時は……『可愛い幻獣がいいな』って願っただけだった気がする」窓の外を見やりながら。
「だって街中で見かける召喚獣は、見た目が千差万別で、中には……うん、『可愛い』とは言い難いのもいるし」
視線を魔石の山に戻す。そのきらめきが無限の可能性を秘めているように思えた。
「でも!」拳を握り、自分に喝を入れる。
「せっかくこれだけ集めたんだから……」初めての召喚のように見た目ばかり気にしている場合じゃない。
「とにかく、今回の目標は――」顔を上げ、熱い想いが込み上げてくる。声は自然と大きくなった。
「『強い』やつ!強ければ強いほどいい!」
(そうだ!強くて、想像を絶するほど強くて、全てを変えられる力がほしい!)
息を詰め、五年の努力の結晶である魔石の山に手のひらをかざす。
「見た目は気にしない!」自分に言い聞かせる。
「どんな姿でも構わない!」
唯一の願いは――とてつもなく強いこと!
「召喚!」決意に満ちた叫びと共に、溜め込んだ想いと魔力を全て注ぎ込む。
―――
思考が現在に戻る。
「そんな感じだったよ」主人公は軽やかに、後から振り返ったような率直な口調で言う。
「つまり……」ミカエルが口を挟む。精緻な顔に一抹の諦めが浮かび、金色の瞳が伏せられる。
「私は単に『とにかく強ければいい』という想いに引っかかって召喚された……存在(天使)だったわけですね」
「とにかく強ければいい」という言葉を、自嘲気味に強く発音する。
「だ、だって誰も天使が召喚できるなんて教えてくれなかったんだもん!」慌てて弁解し、頬を少し赤らめる。
「確かに……天使を召喚するなんて計画外だった……」髪をかきながら声を潜め、当惑したような気まずさをにじませる。
「そういう意味じゃ……予期せぬ子供みたいなものかな……」人間界の出来事に例えて説明しようとする。
「人間界では天使召喚は一般的ではありませんね」ラファエルの穏やかな声が場を和ませる。緑の瞳に理解の色が浮かぶ。
「ええ、長い歴史の中で前例はありませんでした」微かに首を傾げ、遠い記憶を回想するように、目が遥かを見つめる。
「おそらく悪魔どもの仕業でしょう……」ミカエルは声を潜め、隣のラファエルだけが聞こえるように、口調を重くする。
「多くの重要な歴史が意図的に消されたり歪められたりしているようです」
「今に伝わっているのは、幻獣召喚の技術と魔石の利用法、そして迷宮に関する断片的な情報だけです」眉をひそめ、真剣に分析する。
「そうだったのですか……」ラファエルは彼女を見つめ、静かに返す。
「魔界や悪魔に関する情報はまだ残っているようですが、天使に関する部分は……」ミカエルは思考を続け、無意識に腕を指で軽く叩く。
「名前が記憶に残っているだけで、他はほぼ消え去っています」
「更に悪いことに、『悪魔は召喚できる』という知識だけは逆に伝承されている可能性が……」表情を曇らせて考え込む。周囲の二人の視線には気づいていない。
「さて、ミカエル」ラファエルがそっと肩を叩き、止める合図を送る。
ミカエルが怪訝そうに彼を見ると、ラファエルの長い指がこっそり前方を指している。ミカエルがその方向を見て、胸を締め付けられる。
「うっ……」主人公の緋夜が魔石の陰に縮こまり、警戒心に満ちた目で、明らかな恐れを帯びてこっそりと彼女を盗み見ている。
「緋夜様……?」ミカエルの声には疑問が滲む。
「私のせい?」ミカエルはラファエルに確認を求め、金色の瞳に困惑と一抹の自己疑念を浮かべる。
「ええ」ラファエルは穏やかながらも少し諦め混じりの眼差しで肯定する。
―――
「緋夜様」ラファエルは巧みに話題を変え、親しみを込めた笑みを浮かべて尋ねる。
「次はどんな幻獣を召喚なさいますか?」
「そうだな……」緋夜の気分はすぐに盛り上がり、再び輝きを放つ。足元のキャラメルを見やりながら。
「やっぱりキャラメルみたいなタイプの相棒がいいな……」一人と一天使が和やかに次なる召喚の詳細を語り合う。
一方、ミカエルは一人で落ち込んで部屋の隅にうずくまり、周囲に低気圧を漂わせている。
「そういえば……」独り言をつぶやき、楽しそうに話す二人を暗い目で見つめる。
「緋夜様とラファエルは一日しか経っていないのに、もうこんなに打ち解けている……」
「私の時は……」これまでの様々な場面を思い出し、挫折感が深まる。
「緋夜様が天使という種族を嫌っているのだと思っていました」顔を膝に埋める。
「まさか……問題は私自身にあったのか!?」
「にゃ!」キャラメルがいつしか歩み寄り、ふわふわの体で彼女に擦り寄る。
「キャラメル様……」ミカエルは命綱を得たようにキャラメルを抱き上げ、まん丸な猫目を見つめ、切実で少し悔しそうな口調で問う。
「あなたは私をどう思う?」答えを求めている。
「私はずっと怖い存在だった?緋夜様は……実は心の底で私をとても恐れている?」思わず腕を強めて、答えを探る。
「にゃ……」(はあ、この天使も人間みたいに考え込むようになっちゃったのか…)キャラメルは彼女の腕の中で呆れたように身をよじる。
―――
「幻獣召喚についてですが……」ラファエルは召喚の仕組みを丁寧に説明し続ける。
「通常は、幻獣が自ら召喚主の想いに応え、召喚陣へと踏み入ります」
「偶然巻き込まれるケースは、比較的稀です」と補足する。
「時には、召喚の門が開かれても、どの幻獣も入ろうとしないこともあります」
「へえ……そうなんだ」緋夜は興味津々で聞き入る。
「なんで入らないの?」
「召喚主の期待と自身の条件が合わないと感じた場合、踏み入ろうという意志が生まれないからです」ラファエルは優雅に手を動かしながら、
「幻獣は召喚の門を感じると同時に、召喚主の心の内――望まれる大きさや見た目、求められる力など――を明確に受け取るのです」
「加えて、門の規模も重要です。中にはこの街の建物を遥かに超えるほど巨大な幻獣もいます」
「ゆえに……」ラファエルは結論づける。
「召喚主の条件が複雑すぎたり厳しすぎたりすると、応じる幻獣の多くは自発的ではなく、偶然転落してくることになります」
当然、召喚主の当初の期待には沿いにくい。
「でもさっき『偶然巻き込まれる』のは稀だって?」
「ええ、稀ですが、皆無というわけではありません」ラファエルはうなずく。
「特に召喚陣が自発的な幻獣を待ち続けるうちに」
「それは……そうですね、『能動的に捕獲』を始めるのです~」奇妙な現象を説明するような口調で。
「その時は小さな生物たちの大逃走劇が繰り広げられます」
「だから、慎重に召喚条件を設定することが肝心です」ラファエルは真剣に緋夜を見つめる。
「さもないと、召喚陣が『無作為に捕獲』を始め、降臨する幻獣は予想した姿や能力からかけ離れ、むしろ逆のものになる可能性すらあります」
「なるほど……」緋夜は目から鱗が落ちたように大きくうなずく。
「じゃあ、ラファエル」緋夜は好奇心を抑えきれず、目を輝かせて彼を見上げる。
「君は僕の願いを聞いて、自ら応えてくれたの?」期待に満ちて肯定の答えを待つ。
「それが……」ラファエルは少し気まずそうな優しい笑みを浮かべる。
「今回の私は、むしろ偶然召喚された側に近いですね」
「天使の場合、一般の幻獣とは少し事情が異なります」と説明する。
「私たちは天界にいる間、自由に自身の外見を変える能力を持っているのです」碧緑の長髪をそっと撫でながら。
「しかし召喚に応じて人間界に降臨すると、その能力は一時的に封じられ、姿は固定されます」
「今回の召喚陣はあまりにも突然すぎて」ラファエルは肩をすくめ、変わらぬ穏やかな笑顔を見せる。
「不意を突かれてしまいました~」避けられなかった。
「君は来たくなかったのか!」緋夜は愕然とし、何か認識を覆すようなことを聞いたかのように、目を大きく見開いて彼を見る。
まさか……自分が選んだ側ではなく、選ばれた側だったのか?!
「天使の派遣については、本来ならより戦闘力に長けた同胞があなたの傍に立つべきでした」ラファエルは率直に語り、口調は落ち着いている。
「何しろ戦闘能力に関して言えば、私は天使の中でも最も非力なのですから」自身の不足を微笑みながら認める。
「でも、僕はラファエルのことが好きだよ!」緋夜は思わず熱意を込めて叫ぶ。心からの率直で熱い口調だ。
「ありがとうございます、緋夜様」ラファエルの笑みが深まり、緑の瞳に真心の温もりが宿る。
「あなたが望むなら、いつでも私はお呼びにお応えします」静かに約束する。
「必ず呼ぶよ、ラファエル!」緋夜は嬉しそうに応え、純粋な喜びを顔に浮かべる。
何かを思いついたように目を輝かせ、近づいて声を潜め、小さな興奮を帯びて提案する。
「ミカエルがいない時に、こっそり二人でD級迷宮に行こう!」
「あそこの魔物はレベルが低いから、ラファエルの実力にも合ってると思うんだ!」
「お気遣いありがとうございます、緋夜様」ラファエルはその親切心を微笑んで受け入れる。
二人の楽しい会話は、隅の様子とは全く対照的だった。
隅でうずくまるミカエルは、その「密談」をはっきりと聞き取っていた。
「ねえ、キャラメル様……」暖かい毛の中に顔を埋め、声はこもり、深い落胆と悔しさに満ちている。
「これって……また緋夜様に完全に見捨てられたってこと?」捨てられた小動物のような口調だ。
「にゃ!」(本当に面倒な天使だ…)キャラメルは彼女の腕の中で尾を振り、世事(主にこの召喚主と召喚獣の関係)を見透かしたような呆れ顔を見せる。




