第十話 ミカエルの帰還
第十話 ミカエルの帰還
「ミカエルちゃん!おかえり!」
「会いたかったよ!」
「田舎は合わなかったのかい?」
「とにかく、戻ってきてくれて嬉しい!」
ミカエルの登場に、冒険者たちがすぐに歓迎の声を上げた。
(田舎……?)彼女は少し首を傾げる。
「ありがとうございます、私も戻れて嬉しいです」
優しい笑顔で答えながら、こっそりと主人公を一瞥する。
「キャラメル~キャラメル~」彼は嬉しそうに胸元のキャラメルを見つめている。
(私がキャラメルの言葉を"調整して"伝えてからというもの……)
(緋夜様はますますキャラメルに執着するように……)
ミカエルは内心でため息をつく。
(昨夜はキャラメルから延々と愚痴を聞かされました……)
緋夜が再び召喚をやめないか心配で、人間界に泊まることにしたのだ。
「緋夜様、そろそろ出発しましょうか……」
彼の側に寄る。キャラメルが突然ミカエルの肩に飛び乗った。
「ちょ、キャラメル様……」ミカエルは肩の幻獣を見て、ゆっくりと彼の方へ顔を向ける。
「緋、緋夜様……?」
「な、なんでキャラメルがミカエルにベタベタしてるの!?」
信じられないという表情で指をさす。
「昨日の話、もしかして嘘だったのかな……」
「考えてみたら、キャラメルが僕と冒険するのを楽しみにしてるわけないよ!」
瞳が徐々に暗くなり、お決まりの自己嫌悪に陥る。
(緋夜様は気づいていたのか……いや……どうすればいい!?)
「と、とりあえず迷宮に入りましょう」ミカエルは穏やかに言う。
「今日は……やる気が出ないや……」
元気のない声で、意欲を失っている。
「でも緋夜様、キャラメル様の肉を買うお金がないとおっしゃっていましたよね?」
ミカエルは慎重に思い出させる。
「うっ……」
空っぽの財布を取り出し、一瞬で絶望的な表情になる。
「昨日の悪魔レヴィアタンのせいでギルドに罰金を取られて……」
「今じゃ迷宮に入るのにもお金がかかる……」
「無一文だ……」人生の危機に直面している。
「でも……初めてのことじゃない」
「僕とキャラメルは最悪な時期も乗り越えてきた!」
緋夜は拳を握りしめ、再びやる気を取り戻す。
「にゃにゃにゃ!」(肉なしで数日過ごしたことか!)
「にゃにゃにゃにゃ!」(あんな生活はごめんだ!何とかしろ!でないと飼い主変えるぞ!)
キャラメルはミカエルの肩に乗りながら、耳元で延々と文句を言い続ける。
「と、とにかく迷宮に入りましょう……」ミカエルは板挟み状態だ。
―――
D級ダンジョン内
ミカエルは軽々と魔物を斬り倒し、圧倒的な強さを見せる。
一方の緋夜は寂しげにうつむきながら魔石を拾っている。
「そ、その……緋夜様、魔石は私が拾いましょうか?」
ミカエルは気遣うように、落ち込んだ彼の背中を見る。
「いいよ、ミカエルは魔物を倒して……」
「これが僕にできる唯一のことなんだ!」
「全部キャラメルのため……キャラメルキャラメルキャラメル……」
魔石を拾いながらぶつぶつ呟く。
(昨日の出来事で、少しは関係が良くなるかと思ったのに……)
ミカエルはため息をつき、肩のキャラメルを見る。
小声での会話――
「キャラメル様……緋夜様のところに行ってくれませんか?」
「にゃにゃ!」(こっちだって休みたいんだぞ?)
「にゃにゃにゃ!」(幻獣だぞ、癒しのペットじゃない!)
「でも、私の側にいると……緋夜様の心が……」
ミカエルはこっそり彼の方を見る。
彼は魔石を拾いながら、恨めしそうにこっちをじっと見つめている。
(や、やっぱり見てる!!!)
ミカエルは冷や汗をかき、慌てて視線を逸らす。
「お願いです、キャラメル様……緋夜様に敵視されたくないんです!」
「にゃ……」(しょうがないな)
キャラメルはミカエルの肩から降り、優雅に緋夜の方へ歩いていく。
「にゃにゃにゃ!」(ついでに言っとけ、今日は商店街の肉串が食べたいって)
「わ、わかりました……」
ミカエルはキャラメルを見送り、ほっと一息つく。
「キャラメル!」緋夜は嬉しそうに抱き上げる。
「僕のところに来てくれたの!?」感動の声。
「にゃにゃにゃ!」(違う!早く働け!)
肉球で顔をぺちぺち叩く。
「くすぐったい……幸せ……」
恍惚とした表情を浮かべる。
―――
ギルド内
「すごい量の魔石ですね……」
受付嬢はテーブルに並べられた輝く魔石を確認する。
「どれも高品質な魔石ばかり、運がいいですね」
(強い魔物を狙って倒したから……)
ミカエルは心の中で付け加える。
「これ、ミカエルさんが倒したんでしょう?」
「い、いえ……」もごもごと言い訳しようとする。
「あなたの冒険者カードに記入しますので、出してください~」
受付嬢は彼女を見る。ミカエルはきょろきょろと周囲を見回す。
「緋夜様のカードに記入できませんか?」小声で尋ねる。
「あらま、そういうこと~」受付嬢は「わかった」という表情。
「弟さんに功績を譲りたいのね~」
「違う……」ミカエルは困ったように手を振る。
(人間じゃないとは言えないし、天使には不要なのに……)
「ミカエルさん、功績の譲渡はできますけど……」
横でキャラメルをぼんやり見つめる緋夜を一瞥する。
「こんな一目で『嘘』とわかる状況はお勧めしませんよ~」
「それに本人も何も知らないみたいだし」
「ですからあなたのカードを出してください」受付嬢は言う。
「はい……」ミカエルは仕方なくカードを渡す。
―――
街中
「C級になるには実績の蓄積が必要で、B級はギルドの試験に合格して……」
ミカエルは自分のカードを見ながら、冒険者ランク制度を考えている。
(D級昇格時は、魔石を納めるだけで良かった)
本当に実力がある者は、中間を飛ばして直接B級に挑むらしい。
(最高はS級か……でも条件はまだよくわからない)
「キャラメル、行こう~肉串を買いに」
「これが好きなんだね!」緋夜は嬉しそうに言う。
「初めて肉を買ってあげた時も、この店の肉串だった」
「これからもずっと買ってあげるよ」
力強い笑顔を見せる。
―――
家に戻って
キャラメルは肉串を咥え、部屋の隅でじっくり味わっている。
「緋夜様、お願いがあるのですが……」
ミカエルはこれまで以上に慎重な口調で切り出す。
「ここに……泊まらせていただけませんか?」
緋夜は静かに彼女を見つめる。
「天界に帰らないの?」
「実は……頻繁に帰る必要はないのです……」
(特に人界と天界では時間の流れが違うので……)
(何より……緋夜様が再び長期間召喚してくれなくなるのが心配で……)
天使が人間界に足を踏み入れるのは久しぶりのことで、貴重な機会なのだ。
「帰っていいよ」
緋夜は淡々と言う。
ミカエルの瞳が大きく見開かれ、彼の背中を見つめる。
(確かに……今日の魔石で緋夜様もしばらくは暮らせるでしょう……)
私が必要ないのも当然か。
「明日また召喚するよ」
振り向くと、優しい笑顔を見せた。
「ミカエル」
ミカエルは呆然と彼を見つめる。
「僕一人じゃキャラメルを守れないってわかってる」
「弱すぎて、何もできない」
「でもキャラメルに幸せでいてほしい」
「ミカエル、僕を……助けてくれる?」
誠実な眼差しで、力強く微笑む。
「は、はい!緋夜様!」
ミカエルは力強く頷き、笑顔を浮かべて瞳を輝かせた。