第六話 アーチボルド酒場
〜あらすじ〜
ストロント町にたどり着いたリック達。翌日リックはヴィクトリアとともに情報収集をしていたところ暴行を受けている少年ビルを発見した。リックはビルに暴行をしていた男たちを撃退し、ビルからビルの両親が人攫いに攫われたと聞く。リックとヴィクトリアはビルに必ず両親を連れ戻すことを約束するのであった。
アーチボルド酒場
男4人と腕や口を縄で縛られた女がいた。
「どうします?この女」
「ガキには言ったが、兄妹全員でこの酒場に顔を見せりゃあお前の母さんを解放してやるってな」
「ブランドンさんもひでぇこと言いますねぇ。そんなこと言ってあのガキと連れてきた兄妹もこの女も一緒に売り払うんでしょ」
「あぁ、そりゃあろうだろ。ガキは高値で売れるからなぁ。それにボスの計画を達成するために大金が必要だ。そろそろ誘拐するペースを上げてたくさん売り払わなねぇと」
「そいえば、昨日、女2人、男3人のガキ5人組がこの町に来たらしいですよ」
「ほーう、ガキ5人か。大金が稼げそうだな」
「ん、んーん!」
「なんだ?めぇさましたのか」
ブランドンという男はその女に近づいて口を縛っていた縄を解いた。
「私はどうなってもいいから子供たちだけは!」
「子どもたちは助けてくれだぁ、子どものほうが最近は高値で売れるんだよ。こんな子どもが一気に3人も手に入る機会を逃すわけねぇだろうが」
「有金は全部渡すから、子供達の命だけは!」
「おい、いい加減だまらねぇと生かしてやった檻の中にぶち込んだてめぇの夫を殺すぞ」
コンコンッと誰かがノックをした。
「ノックの音がしたな。ガキどもか。おい、そこのお前ドアを開けろ」
ドアの一番近くにいた男がドアを開けようとした瞬間…
ドォーンという音とともに、ドアをなにかがぶち破った。
なにかではなく、ドアをぶち破ったのはまだ10歳ほどの子供だった。
「誰だ、てめぇは」
「僕の…いや、俺の名前はリック・オズウェルド。ビルの母さんを返してもらおうか」
1時間前 路地裏
「わかった、ビル。君のお母さんはお兄ちゃんたちが連れ戻してあげるからなにが起きたのか教えてくれるかい?」
「わかった」
ビルは目の周りの涙を拭ったあと、話し始めた。
「それが、お母さんが知らない男の人たちに連れて行かれたんだ。その男の人が『お母さんを返して欲しければ残りの家族全員でアーチボルドって名前の酒場に来い』って言って、もう僕どうしたらいいかわからなくて…」
「警備の人には言ったのかい?」
「言ったんだけど、誰も『子供の嘘に付き合ってる暇はないんだよ帰んな坊ちゃん』って笑って信じてくれないんだ!」
「じゃあ、お父さんは?」
「お父さんは…あの男の人たちがお母さんをつれさるときにお母さんを助けようとして何回も武器で殴られたあと紐で縛られて、お父さんは警備の人たちのところに連れて行かれて、なにもしてないのに牢屋に入れられちゃたんだ」
「でも、お父さんがなんだ警備の人たちのところに連れていたかわかるんだ?」
「それは、さっき言った警備の人に相談に行こうとしたら見ちゃったんだ」
その話を聞いたヴィクトリアは真剣な眼差しであった。
「なんてかわいそうに、リック。私たちでこの子のお母さんを連れ戻してお父さんも探し出してあげましょう」
「あぁ、小さな子どもの前で父親を殴りつけてさらには母親を連れ去るなんて許せない!絶対にこの子の母親を連れ戻してやろう!」
「お兄ちゃんたち、助けてくれるの?」
「あぁ、もちろんだ」
「ありがとう!お兄ちゃんたちの名前を聞いてもいい?」
「あぁ、そういえば名乗るの忘れてた。僕はリック・オズウェルド」
「私はヴィクトリア・ライトよ。よろしくね」
「よろしく、リックお兄ちゃん、ヴィクトリアお姉ちゃん」
「別にヴィクトリア、リックでいいわよ。ね!リック」
「うん、それでいい」
「じゃあ、僕のことはビルって呼んでよ」
「わかった、ビル」
ビルは何か思い出したかのように言った。
「あっ!早く家に帰らないと弟と妹を待たせてるんだ」
「じゃあ、行くか」
僕とヴィクトリアはビルに連れられてビルの家に向かうことになった。
十数分後 クライド一家の家にて
ビルの家は二階建てで一階にダイニングやリビング、客間と両親ふたりの寝室。二階にはビルとアンディ、エイミーの寝室に書斎があった。
「へぇー、ここがビルの家かぁ。いい家だな」
「ありがとう。それでこっちが僕の弟のアンディ、そして妹のエイミーです」
ヴィクトリアは優しい笑顔を浮かべてふたりに挨拶をした。
「こんにちは。アンディ、エイミー」
「「こんにちは」」
ヴィクトリアに応えるようにふたりも笑顔で挨拶をした。
「僕はリック・オズウェルド。よろしく」
「「こちらこそよろしく」」
「あっ、そういえば私、名乗ってなかったわね。私はヴィクトリア・ライトよ。実は…」
ヴィクトリアは僕の耳元でこう言った。
「ねぇ、リック。今私あのふたりにお母さんとお父さんのこと、話そうか迷ってるんだけどリックはどう思う?」
アンディとエイミーが首をかしげてこっちを見ていた。
「そうだなぁ…」
「ねぇ、アンディ、エイミー」
その時、喋り始めたのはビルだった。
「実はお母さんとお父さんが悪い人に連れていかれちゃったんだ」
「えっ、もしかして何ヶ月か前にあった人さらい?」
「たぶんそうだと思うんだ。それでこのリック、ヴィクトリアのふたりが助けるって言ってくれたんだ。だから、今からアーチボルドっていう酒場に行くんだけどアンディとエイミーも来てくれないか」
「ダメだ」
僕はビルの考えを否定した。
「なんで?」
「アーチボルドっていう酒場に何人敵がいるかわからないし、お母さんがいるっていう保証はない。それなのにビルやアンディ、エイミーまで来たら僕らじゃ守りきれなくて人質にされるかもしれない。そうなるとお母さんを助けられなくなる。だから、お母さんは僕だけで助けに行く」
「えっ!リックそれはダメ!」
今度は僕の考えにヴィクトリアが猛烈に反対してきた。
「相手の強さも人数もわからないのに一人で行くなんて危険すぎる。私も行く」
ヴィクトリアは僕のことを本気で心配してれているらしい。
「大丈夫、たとえ、相手が僕より上の魔術が扱えたとしても使われる前に僕が魔術で攻撃すればいい。だって今まで詠唱なしで魔術を使うやつを見たことないだろ」
「でも…」
僕はヴィクトリアの言うことを無視してビルの家を飛び出した。
「あっ!まって!リック!」
酒場があるならおそらく商店街にあるはずだ。
数十分後
あっ!あった。
やっと見つけたぞ、アーチボルド酒場。
アーチボルド酒場は古びた木で出来た建物だった。
そして僕はドアをノックして、中の状況をドアに空いていた隙間から確認した。
中に男4人と…あれはもしかしてビルのお母さんか!
僕はビルのお母さんがいるのを確認した直後、ドアを蹴り破って中に入った。
「誰だ、てめぇは」
奥にいるビルのお母さんの近くに立っている20代後半くらいの金髪の男がそう聞いてきた。
「僕の…いや、俺の名前はリック・オズウェルド。ビルの母さんを返してもらおうか」
「返すわけねぇだろうが。お前みたいなガキに何ができるってんだ、お前らそのガキを殺さねぇ程度に痛めつけろ」
奥にいた男がそう言うと、手前にいた3人が僕に向かってきた。
「火炎球三連」
放った火球はそれぞれ敵に当たり、壁に叩きつけた。
「なかなかやるな、リックっていったか。下級魔術を詠唱なしで三連発か。以前の俺ならありえないと思っていただろうが、今は俺も詠唱なしで使えるようになったからなぁ」
えっ、詠唱なしでも使えるだって…
「へっ、そうかおまえ。こいつらのボスだろ」
「いや、あくまで俺はボスの右腕だ。まぁ、ここで名乗っとくか。俺の名前はブランドン・アダムズだ。俺は才能のあるお前のようなガキを殺したくないんだ。だから手を引いてくれないか?あまり暴れられると殺さないといけなくなる」
「なにを言ってるんだ、お前。手を引くわけないだろうが!」
「火炎球二連」
「突き抜けし風の刃」
ブランドンは風を刃状にして、放ってきた。
放った火球はふたつともかき消された。相殺しきれなかった風の刃が僕の方に飛んできた。
あぶね!
僕は咄嗟にローリングで回避した。
「どうした?こんなものか?今の攻撃からしてB-くらいか?」
あっ、合ってる。
「俺の攻撃魔力はS-ランク、総合Bランクだ」
総合Bランクだって…
「もう一度だけ言う。諦めろお前のような才能を持ったガキはできれば殺したくない」
だからって諦めるわけにいくかよ
「火炎壁」
僕はビルの母さんが攻撃に巻き込まれないよう、火の壁をはった。
「火炎球五連」
最大の5つならどうだ!
「突き抜けし風の鞭」
ブランドンは大量の風を束ねると掴んで鞭のように振り回した。
全部防がれた…
「おい、久々に強いやつと戦うんだから、もう少し楽しませろよ」
下級魔術がダメなら中級だ。
「火炎槍」
手のひらに槍状の火を発生させ、ブランドンに向けて放った。
「覆う切断風・防」
その瞬間、ブランドンの周囲を風が包んだ。
放った火炎槍はブランドンの周囲の風にぶつかり、かき消された。
衝撃で酒場の屋根が崩れた。
「あーあ、屋根壊しちゃった」
ブランドンは開いた穴を見てそう言った。
さすがに上級魔術に中級で勝てるわけないよな。
あいつは多分、ここまでの流れで中級が限界だと思っていらはずだ油断した時に一気に上級魔術を使って倒す。
「どうした?もうお前の限界か?……そうか、ならこの攻撃で終わりにしてやるよ」
あいつはあんなこと言ってるが、おそらく売り払うために本気で攻撃することは出来ないはずだ。あいつと違いこっちは本気を出せる。
…そのとき、謎の男が現れた。
嘘だろ…もう一人敵が増えた。
「ブランドンそこの女を連れて撤収だ。拠点に戻れ」
ブランドンの雰囲気が変わった。おそらくフードで顔の見えないこの男がボスだ。
「えっ、でも…」
「さっさと、撤収しろ!」
ブランドンはビルのお母さんを抱えた。
「はい、わかりました」
「待て!逃すか!」
謎の男は僕に剣を向けた。
「お前はなかなか強そうだな。どうだ、うちに来ないか?」
「断る!」
「そうか、まぁいいだろう。ここはあの方に免じて見逃してやろう。それにここがこれ以上壊されても困るからな」
あの方だと?こいつより上がいるのか?
「じゃあな」
そして僕は剣の柄頭で殴られ、気を失った。
………
「……り…リ……リック…リック、リック!」
僕は目覚めるとビルの家のベッドの上にいた。
目の前にはヴィクトリアが涙を流しながら僕を呼ぶ姿があった。
そうか、助けられもせず、無様に負けて気を失ってヴィクトリアに助けられたのか。
上半身を起こし、周りを見るとロイドやヘレナ、ボルト、ビルやアンディ、エイミーたちがいた。
「あなた何時間も目を覚まさなかったのよ!」
ヴィクトリアはそう言うと僕に泣きついてきた。
ヴィクトリアの姿を見て自分に対しての怒りが湧いてきた。
僕があいつに勝っていればビルのお母さんも連れ戻せてヴィクトリアも泣かせずに済んだんだ。
僕が弱かったから、またこんなことに…
「リック!」
ボルトが堂々とした姿勢で僕に言った。
「ヴィクトリアから話は聞いた。俺たちでそいつらぶっ倒してビルのお母さんとお父さんを助けるぞ!」
僕はボルトの自信に満ちあふれた顔を見て、自信があふれてきた。
「あぁ、あいつらをぶっ倒してビルのお母さんとお父さんを助け出そう!」
次回は明日の17時または明後日の17時に投稿します。
キャラクター紹介
ビル・クライド (6歳) 総合Gランク
アンディ・クライド (4歳) 総合G-ランク
エイミー・クライド (3歳) 総合?