第五話 ストロント町
ここまでの〜あらすじ〜
ランク測定からの帰り、突如として家に雷が落ち、炎上。弟のコールは家と共に燃えた。弟を生き返らせるため、父親を見つけ出すためリックは幼馴染たちと共に旅立つ。そして、グラン王国南部最大の町であるストロント町を目指すのだった。
旅を始めて6日、やっとストロント町にたどり着いた。
「この町は花火作りが盛んらしいわよ」
ヴィクトリアは物知りだなぁ。この町に滞在している間に花火が見られるといいんだけど。
ストロント町の入り口前に旅人の馬を預かってくれる業者の人がいたので馬を預けることにした。
代金を払って周囲を見渡すと、なにやらこっちをみてひそひそとなにかを話している人がいた。
ストロント町はサンタリアに比べ、建物が木造ではなく、しっかりとした造りになっていた。
「うわー、すっげぇー!」
ボルトは町の入り口周辺の出店をみて騒いでいた。
「ねぇ、みんな見て!クリームの乗ったパンケーキよ!」
ヘレナはクリームの乗ったすごく甘そうなパンケーキをみて騒いでいた。
「うわ〜、おしいそう〜。ねぇリックこのパンケーキ買ってくれない?」
そう言いながらヘレナは、パンケーキに目が釘付けだった。
「まぁ、いいけど。じゃあ、ボルト以外の分は買おうか。お前はいらないだろ、ボルト」
「あぁ、俺は甘いやつは嫌いだからな」
ボルトは腕を組みながらそう答えた。
いや、甘いのが嫌いなんじゃなくてクリームが食べられないんだろ。
「すみませーん。あの、このクリーム乗せパンケーキを4つ下さい」
「はいよ。クリーム乗せパンケーキ4つね。きみぃー、ここに来たの初めてだろ。ただであげるよ。ほら、クリーム乗せパンケーキ4つだよ」
「ありがとうございます!」
「いいってことよ」
その時、パンケーキのお店のおじさんが僕の肩を掴んで引っ張ってきた。
「坊主、気をつけろよ」
そう僕の耳元でつぶやいた。
「あぁー、はい、わかりました…」
一体なんだったんだ、あのおじさん…
とにかく僕はパンケーキ4つをただでもらった。
「はい、ヴィクトリア、ヘレナ、ロイド」
「うわぁ〜、甘〜い。口の中でとろける〜」
ヘレナは頬を抑えながらそう言った。
うん、確かに甘くておいしいな。
パンケーキを食べ終わった後、まずはここで何日か情報収集をするために宿を探すことになった。
「リック、宿を探すために…」
「わかってる、宿場がどこにあるか聞き込みをするんだろう?」
「えぇ、そうよ」
その時、後ろから誰かが話しかけてきた。
「宿をお探しかい?」
「えっ、あ、はい、そうなんです」
話しかけてきたのは70代くらいの老人だった。
「それなら、わしについて来てください。良い宿を紹介しますよ」
「それはありがとうございます」
「じゃあみんな、この人の紹介する宿に行ってみようか」
ヴィクトリアが少し不安そうな顔をして言った。
「なんか怪しくない? このおじいさん、タイミングが良すぎないかしら」
「大丈夫だって宿を探す手間も省けるし、別にいいだろ」
「まぁ、確かに宿を探す手間は省けるけど……」
「いいだろ、不満があったら別の宿を探せばいいじゃないか」
「そうね、わかったわ。行きましょう」
ヴィクトリアはまだ少し不安そうだったが、一旦その人の紹介する宿に案内してもらうことになった。
僕は特に危険なことはないだろうと思ったが、ヴィクトリアが不安そうだったので一応警戒しておいた。
十数分ほど商店街のようなところを歩くと木造の3階建ての建物にたどり着いた。
「特に危険なことはなかったな」
そう言う、僕の言葉におじいさんが反応した。
「このような老人を怪しいと思うのは当然のことです。この町では相手を怪しまないと生きていけんからのぉー。ちなみにこの宿はわしが運営しておりまして安くして差し上げますよ」
「ここにしようかな。この宿一泊おいくらですか?」
「7グランじゃよ」
ヴィクトリアが僕を引き寄せて小さな声で言った。
「リック、やっぱり怪しいんじゃない、さすがに安すぎるわよ」
「安すぎるからって怪しむ必要はないだろ」
僕はおじいさんの方に近づいて言った。
「それが、メソス通貨じゃなくて金貨しか持ってないんだけど両替ってできますか?」
「そうか……」
老人は顎に指を当て、考える動作をした。
「それならただでいいぞ」
「ほんとうですか!」
「あぁ、それではこれがお主らの部屋の鍵じゃ。部屋は203号室じゃ。それじゃ、わしは買い物に行くんでな。部屋でゆっくりと団らんしているといい」
そう言うと、おじいさんはどこかへ歩いていった。
「じゃあ、今日は部屋で1日ゆっくり休もうか」
「そうだな」
ボルトやみんなが賛成したので部屋でゆっくり休むことになった。
中に入ると右手に階段があり、すぐ前には奥へと続く廊下があった。
中は予想以上にしっかりした造りになっていた。
「そう、悪くなさそうだな」
「えぇ、そうね。案外良さそう」
ヴィクトリアは周囲を見渡しながらそう言った。
「えーと、203号室はどこだ?」
みんなで宿の中を歩き回った。
しばらく経った後、ヴィクトリアが
「2階も見てみましょう」と言った。
2階に上がって扉の横に書いてある番号を見ると、201号室と書いてあった。
その後、もう少し奥へ進むと203号室と書いてある部屋があった。
「おっ、あった」
部屋の中に入ってみると、扉で二部屋に分かれていた。部屋の中央には丸型の机があり、それを囲むようにソファーが置いてあった。
「じゃあ、左手奥の部屋はわたしとヴィクトリアが使うわ! あなたたちはこの部屋を使いなさいよ!」
「あぁ、わかった」
ヘレナはその後、さっさと部屋へと入っていった。
「じゃあ,わたしも…」
「あっ、ちょっと待ってヴィクトリア。1階に風呂場があったから、風呂に入りたかったら、ヘレナと一緒に入るといいよ」
「えぇ、わかったわリック」
そう言うと、ヴィクトリアは部屋へと入っていった。
「じゃあ、僕らはどうしようか」
僕はふたりの方を見て言った。
「ん、俺はちょっと町の外に魔物を倒しに行ってくる」
「おい! 一人じゃ危険だろ」
「なに言ってんだ、リック。せいぜいこの辺りの魔物は俺たちよりランクは下だぞ」
ボルトは少し不機嫌そうな顔をして言った。
「だとしても、大勢の魔物に囲まれたらどうする」
「リック。俺の実力を信用できないのか?」
「いや、確かにお前は強いけど…」
「コールのこともあったから心配している気持ちはわかるが、信用しろ。俺は絶対に帰ってくるから」
「……わかった、ボルトお前を信じるよ。日暮までには帰ってこいよ」
「わかった、じゃあ、行ってくる」
そう言ってボルトは魔物と戦いに部屋を出て行った。
僕はロイドをみた。
「…えーと、ロイドはどうする?」
「僕はリックとここにいるよ」
「わかった、じゃあ、僕は寝るけどロイドも寝るか?」
「いや、僕は起きて一応見張っとこうかな」
「そうか」
僕はそう言うとソファーに寝転がって目を閉じた。
次に目を開けると夜になっていた。
「おっ、リック、おまえ寝てたのか」
その時ちょうどボルトが帰ってきた。
「あぁ、さっきまで寝てたからな夕食を買ってないんだ」
「夕食についてなら安心しろ。俺が買ってきた」
ボルトは買ってきた夕食の入った袋を開けた。
「うわぁ〜、おいしそうなにおいがするわねぇ」
そう言いながらヘレナとヴィクトリアが部屋から出てきた。
団らんをしながら食事をした後、僕はアリシアさんに向けて手紙を書いた。
内容は以下の通りだ。
「アリシアさんお元気ですか。2年前まであなたに魔術を教えてもらっていた。リック・オズウェルドです。僕は最近いろいろとあり、サンタリアから旅立ちました。最近ランク測定があったのですが、結果はCランクでした。アリシアさんにはまだまだ程遠いですが、いつか必ず追い抜くので覚悟してください。アリシアさんといつかまた会える日を心待ちにしています。先生の愛弟子リック・オズウェルドより」
これでよし、きっとアリシアさんも喜んで涙を流すに違いない。
「なんだ? リック、恋文でも書いてんのか」
ボルトが突然声をかけてきたので少しびっくりした。
「いや、師匠、先生? まぁ、アリシアさんに手紙を書いてたんだよ」
「あぁ、あの人かぁー。強かったよなぁ、まぁ俺に比べりゃ雑魚だけど」
それを聞いて僕は少し腹が立った。
「おい、アリシアさんのことを馬鹿にすんのか」
「いやいや、冗談だよ。お前だって知ってるだろ、俺がアリシアさんに挑んで負けたの」
「あぁ、すごい圧倒的な実力差で負けてたな」
「だろ、俺じゃアリシアさんには勝てないって」
「それもそうだな」
僕とボルトは二人でアリシアさんに挑んだ時のことを思い出して二人で笑った。
「じゃあ、もう寝るぞ」
「わかった」
僕とロイド、ボルトはソファーで眠った。
朝
僕は一番最初に起きた。
僕は外に出てここ最近の日課、ジョギングを始めた。
ジョギングをしていると、郵送機関の建物があった。三階建ての大きい建物だった。その前に赤いボックスがあり、そこに手紙を入れるよう書いてあったので僕はちょうど持っていた昨日アリシアさんに向けて書いた手紙を入れた。
その後、ジョギングを終えて腕立て伏せをした。
「よし、50回終了。次は魔力循環法トレーニングだな」
その後僕は日課を終え、宿に戻った。
宿に戻るとみんなはすでに起きていた。
「あっ、リックおかえりなさい。外に出てなにをしてたの」
ヴィクトリアが僕の方を向いて聞いてきた。
「昨日書いた手紙を出しに行ってたんだよ」
「そう…」
ヴィクトリアはなにか考えたあと、話し始めた。
「リックがいない間にみんなで決めたんだけど、今日は情報収集と装備の購入の二手に分かれて町を探索することにしたんだけど…」
「なるほど、確かにいい考えだな。それでどう分けるんだ?」
「ボルトとロイド、ヘレナは装備の購入で、私とリックは情報収集をすることにしたんだけどいいかしら」
「それでいいよ」
そして、みんなで宿を出た。
「じゃあ、正午までにはここに集合すること。いいわね」
「「OK」」
そしてヘレナたちに金貨を三枚渡して、二手に分かれた。
「あれ、リック。なんでヘレナたちに金貨を全部渡さなかったの?」
ヴィクトリアが僕の方を不安そうに見ながら言った。
「それは後で話すから今は情報収集をどこでするのか、考えよう」
「…そうね…商店街はどうかしら人がたくさんいて情報収集しやすいと思うの」
「たしかにそうだなぁ。じゃあ、商店街に行ってみよう」
近くにいた人に商店街がどこにあるのかたずねた。
商店街は二区あり、小規模商店街が町の入口周辺でこの町のメインとなる商店街中央通りにあるとのことだった。
僕とヴィクトリアは中央通りの商店街に行くことにした。
中央通りの商店街は多くの人だかりで賑わっていた。
「それじゃあ、リック。聞き込みを始めましょ」
「いや、ちょっと待ってくれ。聞き込みを始める前に行きたいところがあるんだ」
ヴィクトリアは少し驚いた表情をした。
「行きたいところって?」
「それは着いてからのお楽しみだ」
それからしばらく歩いて僕はある店の前で立ち止まった。
「えっ、リック。ここって…」
「魔術師のローブを売ってる店だけど。まぁ、とにかく中に入ろう」
僕とヴィクトリアは店の中に入った。
店の中は横幅が4mほどで奥の方は布のようなもので仕切られていた。
「すみませーん。だれかいませんかー」
なんの物音もしない、もしかして誰もいないのか。
そのように考えていると奥から「ガタッ」という何かが落ちるような音がした。
「あぁ、すみません奥の作業場で居眠りをしておりました」
そう言いながら、出てきたのはおそらく60代くらいの初老の男性だった。
「ここに置いてあるローブは全部あなたが作ったんですか?」
「あぁ、材料は他から仕入れて自分で作ったが…それで君はいったい誰かね」
「僕はリック・オズウェルドでこっちは…」
「ヴィクトリア・ライトです」
「私はサイラス・ブレッシントンです。君たちはローブが欲しくてここに来たんだろう?」
「僕がローブが欲しくてここに来ました。ここにはどのようなローブを置いているんですか?」
「ローブを探しに来たってことはローブが魔力耐性を上昇させる効果があるのは知っているだろう」
「はい」
「ここでは赤や黄、青、白、灰、紺、茶の7色のローブなら取り扱っている」
「リック、あなたは何色にするつもりなの?」
「一応、色によって属性ごとに魔力が上昇する。もちろん上昇しない色もあるが、青の場合は水属性の魔力が上昇する。赤なら火、黄なら光とまぁ、こんな感じだ」
「じゃあ、紺色にします。僕は紺色が好きなので」
「まぁ、色の好みで決めてもいいが本当に紺色でいいのか?」
「はい、紺色でお願いします」
「紺色のどれにするんだ?」
「Eランクのローブでお願いします」
「わかった。紺色のEランクだな3,600グランだ」
「すみません、金貨と交換してもらえますか」
「あぁ、かまわんよ。ほれお釣りは6,400グランだ」
僕は買ったローブをさっそく身につけた。
Eランクのローブをつけたのでおそらくランクはこのように変動しただろう。
魔力耐性C+ランク→A-ランク
攻撃魔力C+ランク→B-ランク
回復魔力C+ランク→B-ランク
とまぁ、こんなとこだろう。
「じゃあ、僕が欲しかったローブも買ったし情報収集しようか」
僕とヴィクトリアは店を出て情報収集を始めた。
「まずは骨董品店をまわってみましょう」
すぐ近くに骨董品店があったのでまずはそこで聞いてみることにした。
「すみません、蘇りの秘石って聞いたことありませんか?」
「あぁ! 五大秘石伝説の一つのあれか」
「それです、どこにあるのか知りませんか!」
「すまねぇなぁ、坊主。あれは伝説の代物で見つけることはまず普通はできねぇ。悪いことは言わねぇ諦めたほうがいい」
「そうですか…」
その後、他の骨董品店にも聞いてみたが同じような回答だった。
「一旦この町での蘇りの秘石についての情報収集をやめて、僕の父さんについての情報を集めることにした」
近くにした冒険者の男性に声をかけた。
「すみません、オズウェルドという名字に聞き覚えはありませんか」
「オズウェルドねぇ、すまねぇな。俺はこの国の人間じゃねぇからわからねぇ」
僕はその後通り過ぎた老人に話を聞いた。
「すみません、オズウェルドという名字に聞き覚えはありませんか」
「オズウェルドか、すまんな。そんな名字は聞いたことがない」
その後、他にもいろいろな人に聞いたが誰も知らないと答えた。
…その時、僕はいつの間にか道に迷っていることに気づいた。
「リック!」
後ろからヴィクトリアが走ってきた。
「やっぱり、あなたならこうなると思ったわ。あなたは何かに夢中になると迷子になることが多いもの。ちなみにここは商店街の路地裏よ。もう面倒だから今度から迷子にならないでよ」
ヴィクトリアが少し呆れたような顔をして言った。
「はい、以後気をつけます」
ヴィクトリアはため息をつきながら言った。
「まぁ、どうせまた今度迷子になるんでしょうけど…」
その時、路地裏の奥の方から鈍い音が聞こえてきた。
音のした方へ走っていくとそこには、コールと同じくらいの小さな男の子が大人の男4人に殴られていた。
あまり、よくは聞き取れなかったが男の子が
「よくも、母さんを!」
と言っているように聞こえた。
「ねぇ、リック。あの子を助けてあげましょう」
ヴィクトリアは少し怖がりながらも僕の袖を引っ張りながらそう言った。
「もちろん、助ける」
僕はその男たちに大声で言った。
「おい!」
すると、男たちは苛立った表情で僕のほうを睨んで言った。
「なんだぁ、ガキィ。今こっちは取り込み中なんだよ、テメェは関係ねぇからさっさと失せな」
「お前たちを倒してその子を助ける」
「お前になんの関係があるってんだよ」
「目の前で困っている人は守るって決めてんだ」
「へっ! 武器もねぇお前みたいなガキに俺たちを倒せるわけがねぇだろ」
「それはどうかな」
僕は、手のひらをそいつらに向けた。
すると、4人の中でリーダーのような人物が言った。
「なるほど、魔術師か。お前らあいつが詠唱をする前に片付けろ」
その男の言葉を聞いた瞬間に残りの3人が僕に向かって走ってきた。
「火炎球三連」
「うわ!」
僕の放った火炎球で3人は倒した。
「なに! 詠唱無しで魔術を…」
僕はそいつが驚いている隙に近づいて腹に蹴りを入れた。
「クソ! こんなガキに」
そう言って男は倒れた。
僕が4人と戦っている間ヴィクトリアは男の子に治癒魔術を施していた。
「大丈夫か」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
「君の名前を聞いてもいいかい?」
僕はその男の子に名前を聞いた。
「僕の名前はビル・クライド。強いお兄ちゃんたちに頼みがあるんだ、僕のお母さんを助けてほしい!」