第四話 ストロントへの旅路
村を出てから1日経った。まだ森から出ない。
「なぁ、ヴィクトリア〜、ストロントまであとどれくらい掛かるんだ?」
「そうね、今のペースなら1週間前後っていったところかしら」
数時間後
日が暮れてきた。ヴィクトリアが言うにはあと1日ほどで森を出るという。
「なぁ、そろそろこの辺りでテントを張って休もう」
「そうね、この辺りで今日は休みましょう」
馬を木に繋げて、テントを立て始めたその時、茂みの中からガサっと枝が揺れる音がした。
茂みの中に何かがいる。
「グオオオォォ!」
荒々しく、低く唸るような響き声とともに魔物が飛び出してきた。ぱっと見は右手に棍棒を持っていて肌は赤色で牙があった。
「ゴブリンか!」
「違うわリック! これはオークよ」
「オークか、どちらにせよ僕にやらせてくれ」
「俺がやりたかったんだがいいぞ。お前に譲ってやるよ」
「火炎球」
手のひらから火の球が飛び、オークに直撃し、オークは後方に飛ばされた。
「下級魔術で倒せた……」
僕はそっと額を撫で下ろした。その時、煙の匂いがしたが火属性魔術を使ったので別に普通のことだと思ったが、よく見ると火が木に燃え移っていた。
「やばい! やばい! どうしたらいいんだ」
「リック、落ち着くがいい。私の水属性魔術で助けてやろう。本当に私がいないとお前はダメなんだから」
「いや、いつも助けてるのは僕の方なんだが」
「水の精霊よ、我が呼び声に応え、
炎の前に立ち、消え去れ。
水消術」
水の精霊が現れ、消火した。
「ヘレナ、ありがとう」
「いいってことよ」
「そういえば。なぁ、ヴィクトリア、オークってランクどれくらいだっけ」
「そうね、オークは大体D−ランク相当だと聞いたことがあるけど」
「D−ランクか…ん、待てよ。オークってほんとに倒せてるのか」
僕はオークが倒れたところに向かった。すると、案の定オークは起き上がってきた。
その時、オークは唸り声とともに、持っていた石の剣を僕に向かって振り下ろした。
しまった! 近づき過ぎた。…なんつってな。
「火炎球二連」
手のひらから放った火の球がオークに二連続で直撃し、オークは後方数メートル飛び、木にぶつかって倒れた。確認するとオークは黒く焼けていた。
「今日の晩飯、こいつにするか」
「えっ、オークって食べられるのかしら」
ヴィクトリアが不安そうな表情でそう言った。
「大丈夫だろ、毒持ってるわけじゃないし」
オークを食べることになり、ロイドがオークを捌き、ヘレナが味付けなどをした。その間、僕とボルト、ヴィクトリアは周辺の落ち葉や枝を集めて焚き火を焚いた。これがまさしく敵を料理すると言うやつなのだろうか。それにしてもヘレナが調味料を持ってきているとは、ヘレナは料理が得意でヴィクトリアは苦手だと言うから、この中で一番料理が得意そうな、彼女に任せておけば大丈夫だろう。
そして、とうとう料理が出来上がった。
「……なぁ、ヘレナ一体なんなんだ、これは……」
「オイスターソースのオーク焼きよ」
ヘレナが料理として出してきたのは、この世ならざらぬ物だった。
……その夜、僕たちはヘレナを除き全員腹を壊した。
翌日
「なぁ、ヘレナ。お前って本当に料理が得意なのか?」
「そうよ、お父さんとお母さんは上手だって褒めてくれたんだから」
僕はヘレナの言葉を聞いてなんとなく、我慢して食べながらおいしいと言っているヘレナの両親が思い浮かんだ。
十数時間後
ついに森から抜け出すことができた。途中でゴブリンが出たが、強力な魔物は出てこなかった。最近、森は危険だって聞いてたけど大したことはなかったな。
「暗くなってきたし、今日はここでテントを張ろう」
「そうね、そうしましょう」
今回は事前に枝や落ち葉を集めておいたのですぐに焚き火を焚いた。夕食は味付けなしで鹿を焼いて食べることにした。もちろんロイドが鹿を捌いてくれた。刃物があれば僕にもできるんだが。ロイドは闘気を纏うことで木の枝でもそこらの包丁のように使っている。ロイドが言うにはそれだけではないようだが。
夕食を食べ終わったあと、魔術はなしというルールでボルトと勝負した。…もちろん、ボルトに投げ飛ばされた。
僕とボルトは木の丸太に座った。
「そういえば、この旅での大きな目的は蘇りの秘石を探し出しつつ、父さんを探すことだけど、みんなの今後の夢って何かあるのか?」
最初はヴィクトリアから話し始めた。
「私の夢は、世界中の病や怪我で苦しんでいる人たちを少しでも多く助けることかしらね」
「俺の夢は…」
次はボルトが少し考えてから話し始めた。
どんなすごい夢があるのだろうか。
「俺の夢は、自分の力を世界をより良くするために使うことだな」
「具体的には?」
「悪もんをこの力でねじ伏せて二度とそんなことが出来ないようにして、この世界から悪事を無くす」
「へぇー、や、やり過ぎないようにね」
思ったよりなんかやばそう。
「私は……」
ヘレナはロイドの方を見て何か考えていたが、数秒も経たないうちに言った。
「何もないわ」
何もないのかヘレナなら何かありそうだと思ったんだけど…
「ロイドはなんかあるのか?」
「ない」
なんかサラッと言われた。まぁいいかないならないでいつか夢は見つかるだろう。
「それじゃあ、寝るか」
「待って、リック。誰かが見張っていないと敵が来た時に対処できないでしょ」
確かに。と僕は思った。
「じゃあ、交代で見張りをしよう。順番はじゃんけんで決めるぞ」
「リック、お前自分で言い出したんだから負けても文句言うなよ」
「言うわけないだろ」
「それじゃ。最初はグー、じゃんけん……」
「……負けた……」
「勝ったー」
その後、勝ち残りでじゃんけんをし、順番が決まった。
「順番はロイド、ヘレナ、ボルト、私、リックで決まりね」
僕はテントに入って眠りについた……
・・・・・・
「…お…兄……お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
コールの呼ぶ声が聞こえた。
「コール! どこだコール!」
僕は周囲を見渡しながらコールの名前を呼んだ。
「お兄ちゃん」
「コール!」
僕はコールの声が聞こえた方を向いた。すると、そこには重度の火傷を負ったコールがいた。
「なんで助けてくれなかったの」
僕は、冷や汗をかいた……
「うわぁー!」
僕は嗚咽するような金切り声をあげた。
「はっ! ……ゆ、夢か……」
「どうしたの、リック?」
声の方を向くと、焚き火の横で、木の丸太に座っているヴィクトリアが驚いた表情で僕を見ていた。僕はヴィクトリアの横に座った。
「コールがなんで助けてくれなかったのって」
僕は落胆するように下を向いた。
「やっぱり、僕が悪かったのかな……」
「いいえ、リック。あなたは悪くない。この前も言ったけど、あなたは精一杯頑張ってた。私から見ればあなたとコールは理想のきょうだいだったわ。だから勇気を出して。立ち止まってられないでしょ、あなたには蘇りの秘石を見つけ出してコールを生き返らせてお父さんも見つけ出して普通の家族のように笑って暮らすっていう目標があるんだから」
「そうだな、コールに失望されないように頑張るって決めたんだから。……ほんとヴィクトリアには励まされてばっかだな。悪い」
「いいえ、別にいいのよ。私はあなたを支えたいから着いてきたんだから」
あれ、ヴィクトリアが珍しく照れてる。
「おーい。ヴィクトリア〜、顔赤いぞー。照れてるんじゃないか〜」
「別に照れてないわよ。あっ、時間だから交代ね、リック。私は寝るわよ。おやすみ!」
ヴィクトリアはそう言うとサッとテントの中に入っていった。
どうしようかな〜、蘇りの秘石を手に入れる旅は強い冒険者ともぶつかるかも知れないし……。そうだ、朝早く起きるようにしてトレーニングをしよう。今までのんびりし過ぎてたからなぁ。さっそく朝から実践してみよう。
朝
まず、今までやってこなかったジョギングから始めて腕立て伏せ、魔力循環法トレーニングをしようかな。
僕は周辺を少しジョギングすることにした。
……
「はぁ、はぁ、よし。ジョギングはこれくらいにしとこうかな。次は腕立て伏せだ。50回くらいにしようかな」
「はぁ、45、46、はぁ、47、……50! よし、次は魔力循環法トレーニングだな」
魔力循環法トレーニングとは体内の魔力を意識して循環させることで、魔力の流れをスムーズにし、出力を強化するトレーニングで呼吸に合わせて魔力を動かす。アリシアさんに教えてもらってから久々にやるなぁ。そういえばアリシアさんは今何をしてるんだろう。
アリシアさんは僕の家を出て行ったあと、定期的に手紙を送ってきてくれていた。去年、公級魔術師になったらしい。アリシアさんは確かディスゲント聖王国にいるって言ってたな。どうやってアリシアさんに手紙を送ろうか……
「リック、何してるの」
ヴィクトリアがテントから出てきながら、僕に声をかけてきた。
「あぁ、ヴィクトリアはアリシアさんのこと覚えてるか?」
「アリシアさんって、あのリックの家に泊まり込みで魔術を教えてくれた人?」
「そう、その人」
「へぇ、確か私もアリシアさんにリックと少し魔術を教えてもらってたんだっけ、懐かしいわね。2年前に村から旅立っていったのよね」
「確かに懐かしいよな。…それでアリシアさんがどこの街にいるかはわかっているんだけど、どの宿場に泊まってるかわからないからどうやって手紙を送るか考えてたんだけど、思い付かなくて」
「えっ、リックって手紙とか送ったこと無いの?」
「送ったこと無いけど何か方法があるのか?」
「あるわよ。軌跡追信術って言う宛先不明の人物にも書簡を届けるための国家公認制度で届けるためには対象人物の識別子(ID)が必要で対象者の固有識別子(記録された魔力波長)で宛先が指定されるの」
「その固有識別子っていうのに使う魔力波長なんていつ測定するんだ?」
「ランク測定の時に魔力量とか測るでしょ。そのときのデータを使うのよ」
「なるほど。それで、指定した後はどうやって手紙を送るんだ?」
「それはギルドや郵送機関に所属する[追跡術士]が、識別子をもとに対象者の現在地を探知してその後[転送印文術]により、封筒ごと転移させる。封筒の封印には、受取人の魔力波長が刻まれていて、本人しか開封できない仕組みになってるの」
「へぇー、とういうことはギルドや郵送機関がある村や町まで行かないといけないのかぁ。それじゃあ、早くストロント町に行こう」
「そうね」
「二人でなにしてんだ?」
その時、ボルトが目をこすりながらテントから出てきた。
「まぁ、いいか。じゃあ、二人を起こしてさっさと町に行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
「起きろー! ロイド! ヘレナ!」
ボルトは大声で呼びながらロイドとヘレナを叩き起こした。
「痛いわよ! あんた!」
また、ボルトとヘレナの喧嘩が始まった。まぁ、結果はいつも取っ組み合いになってヘレナが負ける。
「別にいいじゃねぇか。お前が早く起きねぇのが悪いんだろうが」
「…だからってあんなに叩くのはないでしょ!」
その瞬間、ヘレナがボルトに殴りかかった。
「…っ!」
ヘレナは腕を掴まれ、背負い投げをくらった。
「やったわねー!」
ヘレナがそう言いながらすばやく立ち上がった。
このままじゃあ、長引くな。と、僕は思い止めに入ろうとした…
「ヘレナ、ボルト。もうやめて早く出発の準備をするんだ」
ロイドが二人の間に入って言った。
「わかったわ。あなたが言うなら」
「まぁ、元はといえばこいつから始めたからな」
「ロイドが言うから許してあげたんだから!」
その後、テントを片付け、出発の準備を整えた。
「よし! ストロント町に向けてしゅっぱーつ!」
3日後
前方に町が見えた。その町は中央に大きな建物があり、その右側に中央の建物ほどではないが大きな建物があった。
「なぁ、ヴィクトリア、あれってもしかして……」
「えぇ、あれがストロント町よ」
「や、やっとか…」
やっと、ストロント町に着いた。
ついに蘇りの秘石や父さんについての情報が得られるかもしれない。
魔術紹介
火炎球 火の下級魔術
水消術 水の中級魔術