第三話 旅の始まり
「そうね、行きましょうか。あっ…」
その時、さっきまで大粒の雨を降らせていた黒い雲が消え、綺麗な青空になった…僕はヴィクトリアの方を見るとヴィクトリアが輝いているように見えた。
「天気も晴れたし、私たちも張り切っていきましょう」
「うん、そうだな」
僕たちはヴィクトリアの家にたどり着いた。
「地下室にたくさん埃を被った本があるからついて来て」
僕はヴィクトリアについていき、地下室へ降りた。
その後、ヴィクトリアの家の地下室から本を集めて、一階の暖炉の近くの机に置いた。
「それじゃ、まずはこの"魔聖暦の始まり"っていう本から見るか」
本の内容は魔聖暦0年にあった悪魔と天使の戦争についてだった。魔物は悪魔側につき、人間は天使側についていたらしく、どうやらこの本によると悪魔の神である魔神ヴィステネブリスと大天使セレストリオンの残骸から誕生したのが五大秘石だと言う。だが、これだけでは本当に蘇りの秘石で人を生き返らせられることができるかわからない。
「もう一つの本も見てみましょ」
次の本は"二代目・豪炎の帝級魔術師"について書いてあった。二代目の豪炎の帝級魔術師は魔聖暦370年代前後に活躍した人物で370年にあった"第二次魔大戦"で死んだ人間を蘇りの秘石で生き返らせたそうだ。蘇りの秘石についてはヴィクトリアに本を見せてもらうまで知らなかったが、豪炎の帝級魔術師は父さんからよく聞いたことがあった。その頃は僕もこの魔術師みたいになりたいと思ってから人助けをするようになった。……その後、他の本も見てみたが特にこれと言った記述はなかった。
「まぁ、生き返らせた実例があるし、信じることにしてどうやって蘇りの秘石を探す?」
「そうね、村にいてもこれ以上情報は得られないでしょうから南部で一番大きい町のストロント町に行ってみましょうか」
「そうだな、それじゃあみんなに一緒にきてくれるか聞いてみよう」
その時、扉の開く音がした。
「みんなでいくに決まってるじゃない」
扉の方を見るとヘレナとボルト、ロイドがいた。
「コールを生き返らせるためなら、私たちも行くに決まってるでしょ。それに、もともといつか全員で旅に出る予定だったんだから、それが少し早まっただけじゃない」
「ありがとう……でもなんで知ってるんだ?」
「それは……扉越しに話を聞いてたからだよ」
ロイドがここまでの流れを説明してくれた。
「なるほど、そうだったのか。それで、これからどうする?」
「私とヘレナは杖がいるわね。ボルトはいつもハンマーを使って見たいって言ってたから、武器はハンマーにするとして、ロイドは短剣二本とリックは片手剣でいいわね」
「俺は、それがいいハンマーは使い勝手が良さそうだからな」
「僕もそれでいいよ。あっ、でも……」
「リック。どうかした?」
ヴィクトリアが少し不安そうな顔で聞いてきた。
「……いや、なんでもない。…それでロイドは短剣二本でいいのか?」
ロイドは縦にうなづいた。
「……さっきヴィクトリアいるって言ってたやつってなんなんだ?」
「あぁ、杖のこと?」
「そう! その杖って一体なんなんだ」
ヴィクトリアがやっぱりかと呆れ顔をしながら言った。
「まさか、あの時のことは本当だったのね。先生に話を聞いてないって言われたのは。まぁ、いいわ。杖って言うのはね魔術を100%の威力と精度で扱うために必要で杖がなければ60%の威力と精度でしか魔術を扱えないのよ。難点は杖を持っていると片手が塞がってしまう事なのよね。でも100%って言っても杖のレベルによって違って70%だったり110%だったりするのよ。杖もそれぞれの属性にあった杖があって自分の属性に合ってなかったらすると全く効果がないのよ」
「じゃあ、杖は僕にはいらないな。剣を振るときに邪魔になるし」
「まぁ、とにかく私たちみんなで行くわけだし村の人たちに話して、明日の9時ごろに出発しましょう」
さすがヴィクトリア。計画を立てるとなると頼りになるな。それ以外も頼りになるけど。
「じゃあ、また明日な…」
「あっ! リック」
「急になんだよヴィクトリア」
「リック、あなた今日の夜に着る寝巻はどうするの」
「あっ、確かに寝巻燃えちゃって無いな」
「私のお父さんに頼んで貸してもらいましょうか?」
「じゃあ、ぜひそうしてもらうと助かる…」
僕はヴィクトリアのお父さんから寝巻を貸してもらうつもりだったが、挙げると言うのでありがたくもらった。
その後、僕はヴィクトリアたちにあいさつをしてヘンリーさんの家に向かった。僕と母さんはヘンリーさんの家に泊めてもらうことになった。
「リック。少し狭いかもしれないが、奥の部屋を使ってくれ」
「わかりました。泊めていただきありがとうございます」
「当たり前だろ。お前たちは俺にとって⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だからな」
ヘンリーさんがなんと言ったのか僕にはわからなかった。
「なんて言いましたか?」
「いや、いいんだ。どうせお前に言ってもわからないだろうからな……それも、俺が不甲斐ないせいで……」
ヘンリーさんは険しい表情でそう言った。
その後は少し不自然だったが、ヘンリーさんはいつも通り接してくれた。夕食を食べ終わったあとヘンリーさんが僕に母さんに魔術を使っていいか許可を求めてきた。
「リック。お前の母さん、…キャロラインに精神系回復魔法を使ってもいいか?」
僕は戸惑いながら答えた。
「まぁ、母さんの状態が少しでも良くなるなら…」
僕の返事を聞くとヘンリーさんは母さんに近づいて見たこともない魔術を使った。
「安魂の息」
ヘンリーさんは詠唱なしで魔術を使った。
「まぁ、これで精神状態が少しはマシになるはずだ」
「ヘンリーさん、今の魔術は一体なんなんですか?」
「あぁ、今のか。さっきも言った通り精神系回復魔法だ。…とにかくお前は明日旅立つんだから早く寝ろ」
「それもそうですね。ヘンリーさん、おやすみなさい」
「おやすみリック」
あっ、家と一緒に服も燃えちゃったけど、明日の服どうしよう……
・・・・・・翌日
「…リック…リック……」
僕は名前を呼ぶヘンリーさんの声で目覚めた。
僕は目をこすりながら返事をした。
「なんですか、ヘンリーさん」
「ヴィクトリアちゃんがきてるぞ。リックが遅いって」
僕は時計を確認した。
まずい! 10時だ。1時間も過ぎてる!
僕は急いで服を着ようとしたが肝心の服は昨日から来ている服しかない。まぁ、仕方ないか…と思っていたところヘンリさんが部屋に入ってきた。
「リック、この服を着ろ」
ヘンリーさんはそう言うと僕に子供用の服を渡してきた。ヘンリーさんに渡された服を着てみるとサイズはピッタリだった。
「ヘンリーさん。なんで子供服があるんですか。しかも僕にちょうどいいサイズの」
「こんなこともあろうかと念のため用意してたんだ」
「そうだったんですか……まぁ、とにかくこの服、ありがとうございます」
「いいんだよ。ほら、ヴィクトリアが待ってるんだからさっさといけよ」
「待たせてごめん、ヴィクトリア」
「別にいいわよ」
やばい、なんかやばい。気にしてないふりしてるけどたぶん怒ってる。というかなんか顔が怒ってる。
そういえば、ローブってどこにあったっけ。
「リック、何探してるの?」
「あぁ、えっと、ローブを探してたんだ。でもローブは燃えちゃっただろ…」
「えっ? ローブ?」
そういえば、ローブを持ってたのみんなに言ってなかったっけ。やばい、変な空気になった。話題を変えないと。
「そういえばみんなは?」
「えっと、みんなは丘の木の下で待ってるわよ」
「じゃあ、行くか」
「えぇ、そうね」
僕とヴィクトリアは丘に向かった。
丘へ着くと白いマントをつけたボルトとロイドやヘレナがいた。
「おーい、遅かったじゃねぇかリック」
「仕方ないだろ。昨日はいろいろあって大変だったんだから」
「そうだな。とにかくこれでやっと旅に出られるな」
「それにしても、その白いマントは一体なんなんだ?」
「あぁ、これか特になんの効果もないけど白色が好きだって前に言わなかったか?」
「いや、初耳だけど」
「じゃあ、たった今から初耳じゃないな」
僕がボルトと話しているとヴィクトリアが言った。
「村長が馬を村の門の近くで待たせてあるみたいだから早く行きましょ」
どうやらヴィクトリアは今日の早朝、村長に馬を貸してもらえるか頼んでいたらしい。
早朝
「ヴィクトリア、馬はお前たちにあげるよ。だって貸してもいつ返しにくるかわからないからな」
「それもそうですね。それならありがたくいただきます」
「馬は村の門の近くで待たせておるから、準備ができたら乗っていくといい」
現在
村長は馬5頭と村の門の近くで待っていた。ちなみに村長の名前はティオ・ボーデンだ。
「それじゃあ、お前たち達者でな。気をつけて行くんだぞ。帰りたいと思ったらいつでも帰ってきていいんだからな」
「ありがとうございます。ボーデンさん」
「いや、わしは村長として旅立つ若者のために出来る限りの事をしたまでだ。あぁ、そういえばこれを渡すのを忘れておった」
そういうと、ボーデンさんは布でできた袋を渡してきた。袋を開けてみると金貨が四枚入っていた。金貨は魔聖暦1050年まで通貨として使われていたが現在ではディスゲント聖王国が定めたメソス通貨が五つの国で使われており、グラン王国もそのうちの一国である。金貨四枚はグラン王国のメソス通貨で40,000グランである。これだけあれば5人分のEランク装備が買えるだろう。
「あの、ボーデンさん。こんな大金いいんですか?」
「別にかまわんよ。それはわしが冒険者だった頃に稼いだものだからな。お前たちこの先危険なことが付き纏うだろうが気をつけて行くんだぞ。いつ帰ってきてもわしらはお前たちを歓迎するからな」
「へぇー、それなら一日も経たないで帰ってきたら?」
僕は少しふざけてボーデンさんに聞いてみた。
「あぁ、その時は村の恥としてわしがお前を斬り捨てるまでだな。……冗談じゃよ、冗談。どうだ。わしには冒険者としての才能はあまり無かったが、冗談の才能は中々あるじゃろ」
「あっ、はい。そうですね」
こんな時にこんな恐ろしい冗談を言うなんて……まぁ、僕が最初に冗談を言ったのが悪いんだが。
「みんなはあいさつ済ませたか?」
「えぇ、あなた起きるの遅かったから私たちはもうみんなにあいさつしたわ」
「そうか…」
「ヘンリーさん」
「ん、なんだ。リック」
「母さんはどこですか」
「あぁ、キャロラインは俺の家で静かに寝てるよ」
「そうですか。それではヘンリーさん、母さんをお願いします」
「わかった。任せろリック、お前の母さんは俺が必ず守る。だから、安心して旅に出ろ」
「はい、それじゃ行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
その時、村の人たちが集まってきた。
村のみんなは僕たちを笑顔で見送りながら手を振ってくれた。
僕たちはストロントに向けて歩き出した。
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
後ろからコールの声が聞こえ、僕はとっさに後ろに振り向いた。
「いってらっしゃい」
そこには笑顔で僕たちを送り出してくれるコールの姿が見えた。
「いってきます」
本物だと思いたいけど、コールはもういない。昨日のように諦めたりはしない。必ず蘇りの秘石を見つけ出してコールを生き返らせてやる。
僕は父を探すことと新たにコールを生き返らせる事を目的に幼馴染4人と共に故郷のサンタリアから旅立った。
次回は明日投稿予定です。
登場人物紹介
ティオ・ボーデン(51歳)
元A級冒険者、十数年前まで冒険者として活動していたが負傷し、引退して故郷であるサンタリアの村長となった。