第二話 再起
キャラクター紹介
リック・オズウェルド
火属性、4歳の頃から中級魔術が使える天才、何かに夢中になると迷子になり、ヴィクトリアに助けてもらった事がある。常人の2倍の威力と精度で魔術を扱うことができる。
コール・オズウェルド
兄と違い魔術の才能がないことを気にしている。将来は兄と並び大物冒険者になることを夢見ている。兄と同じで常人の2倍の威力と精度で魔術を扱うことができる。
キャロライン・オズウェルド
夫に出て行かれてから精神的に非常に不安定で村医者からもらった安定剤を飲んでいる。
ボルト・ゼラニウム
魔力より筋力の方がランクが高いため主に力技を使う。筋力と物理耐性だけはリックより高く、喧嘩をした時は勝つ事が多いが、魔術を使った戦闘ではリックに一度も勝ったことがない。人をからかう事を楽しんでいる。
ヴィクトリア・ライト
魔術を使わない勝負ではいつも負けているが、攻撃魔力はCランクとそこそこ高い。しっかり者の性格で村の人たちから信頼されている。
ロイド・テクニス
剣を使ったシンプルな戦いにおいては幼馴染5人の中で一番強い。が、自慢することはなく、ほとんど喋らない。
ヘレナ・レイン
ヴィクトリアより身体能力が高い。勝ち気な性格。ロイドをいじめていた時期があったが、ある日の模擬戦でキレたロイドに敗北し、それ以降何かと仲が良い。
燃え始めてからどれほど時間が経っただろうか、水属性魔法で火を消そうとしている人たちがいるけど火の勢いは収まらない。手伝いたかったが、僕の魔術は火属性だから手伝う事ができず、これまでにない無力感にさいなまれ、ただ家が父さんと母さん、コールとの思い出のある家が焼け崩れていくのを見ることしかできなかった。家だったものの焼け残りから右腕のない骨が見つかった。その骨を見て、鳥肌がたってその場に立ちすくみ、突然のことで頭が真白になり、涙も出なかった。
その後、村の人たちが医者を連れてきた。医者によると、右腕のない骨はコールのもので間違いないとのことだった。僕はその言葉を信じられなかった。徐々に涙が溢れてきた。
「……なんで、こんな突然…」
僕は混乱の中、6年前の記憶が蘇ってきた。
コールが生まれた時の父さんはすごい顔をしていた。僕はその時、父さんは二人目の子供が生まれたことが嬉しくてあんな顔をしているのかと思った。でも、それから1週間も経たないうちに家を出て行った。僕は父さんの部屋を調べれば、家を出て行った理由がわかるものがあると思って入ってみた。すると、本が散乱していて机の上に星型の絵が書いてある紙があるだけで特に父さんが家を出て行った理由がわかりそうなものはなかった。
父さんが出て行ってから数週間ほど経った日、誰かがやってきた。どうやら母さんはまともに魔術を学ばなかったため、光属性しか教えられないようで魔術の家庭教師を雇ったらしかった。家庭教師としてやって来たのは緊張しているのか顔を赤らめた、風でさらさらと揺れる青い髪で、ローブを着た若い女の人だった。僕は扉の向こうからその女の人を見た。
「どうも、こんにちは…えっと、おはようございますでしたっけ…まぁ、とにかくリックくんの家庭教師に雇われたアリシア・ベーレントです…よろしく…お願いします…」
アリシアさんは、やはり緊張しているのか髪を触ったりしていた。
「あら、そんなに緊張しなくて良いのよ。こちらこそ息子をお願いします」
緊張しているアリシアさんに母さんはにこやかな表情で言葉を返した。
「…はい、では早速ですがリックくんの実力を見せてもらってもよろしいでしょうか」
「リック、アリシアさんがあなたの実力を見たいって言ってるわよー」
「わかったー。アリシアさんよろしくお願いします」
「よろしくお願いします、リックくん」
「あの、アリシアさん。くんを付けると言いにくいと思うのでリックで良いですよ」
「……そうですか。…わかりました。ではリックも私にさんをつけなくていいですよ」
「いえ、アリシアさんは僕の先生なのでつけさせていただきます」
「わかりました。それでは、リック、実戦形式か測定形式かどっちがいいですか」
「実戦形式でお願いします。その方がアリシアさんの実力もわかるし、僕の実力もわかると思うので」
「わかりました。では、実戦形式でやりましょう」
僕は固唾を飲んだ。アリシアさんは上級魔術師でAランクらしい。本気を出されれば、僕は一瞬でやられるだろう。さすがにお試しの模擬戦みたいなもんだし本気は出さないだろうが。ちなみに参考までに僕はF-ランクだ。
「それでは、村の外れまで移動しましょう」
あっ、そっか、ここでやるわけないよね。
「はい、わかりました」
村の外れの草原まで来た。途中ゴブリンが2匹だけ出たがアリシアさんがレイピアで素早く倒した。
アリシアさんはローブの内ポケットから杖を取り出した。
「それじゃあ、始めましょうか」
「はい!」
僕が返事をした直後、空気が変わった。アリシアさんが魔力を込めている。僕はその魔力に圧倒されてとっさに下級魔術を使った。
「火炎球」
手のひらに火球を発生させ、アリシアさんに向けて放ったが、それをアリシアさんはひらりとかわした。
「深淵の水よ、全てを圧倒せよ!
見えざる波動よ、敵を飲み込め!
水圧の力よ、今こそ解き放て!」
とてつもない魔力がアリシアに集まった。
「水圧崩壊!」
「火炎球二連」
僕は咄嗟に威力をできる限り抑えるため火炎球を放った。だが、ほとんど水の勢いは変わらず、僕に直撃し気を失った。
「……リック、大丈夫ですか?」
アリシアさんの声がかすかに聞こえ、僕は目を覚ました。どうやら数時間ほど気絶していたようだ。
「アリシアさん、ひどいじゃないですか。本気を出してくるなんて」
「それは、あなたが詠唱短縮どころか詠唱を飛ばして火炎球を放ってくるからですよ。…あとそれに本気は出してません」
「…(えっ、あれで手抜きなのかよ)それで、さっきの魔術はなんだったんですか?」
「さっきのは水属性の上級魔法ですよ」
アリシアさんは平然とした表情でそう言った。
「どおりで僕の下級魔法が通用しないわけだ」
アリシアさんと会話しながら家へ帰った。家へ帰ると母さんは走り出てきた。
「リック!おかえりなさい」
「母さん、ただいま」
母さんは僕を抱きしめたあと、アリシアさんの方に近づいていった。
「あのー、リックはどうでしたか?」
「とても強くて、今冒険者になっても周りに比べて見劣りしないと思いますし、私でも今のリックくんの歳の頃はまだ下級魔術も使えませんでしたし、これからの伸びしろはトップクラスだと思いますよ」
「そうですか、それはよかったです」
「あのー、アリシアさんっていくつなんですか」
「あっ、私ですか。えーと、……肉体年齢は19歳で実年齢は38歳です」
「えっ!ほんとは38歳なんですか」
「はい、一応魔族とのハーフで普通の人よりは寿命がだいぶ長いはずです」
「そうなんですか。それで、上級魔術を使えるようになったのっていつ頃なんですか」
「私の場合は6年前からですね。でも、リックなら10歳前後くらいには使えるようになると思いますよ」
「そうですか!これからよろしくお願いします!アリシアさん」
「では、これからアリシアちゃんの歓迎パーティをしましょうか」
「確かにさんはつけないでいいって言いましたが、さすがにちゃん付は照れますね…。それに歓迎パーティを開いてもらうのはあまり無いのでうれしいです」
「じゃあ、決まりね。私は料理するからリックはアリシアちゃんと話でもしながら待っててちょうだい」
「うん、わかった」
僕はアリシアさんと客間で話をすることになった。
「アリシアさんはうちに来るまで一体どういうことをしてたんですか?」
「ここに来る5年ほど冒険者として活動していました………」
アリシアさんは僕にこの家に来るまでのことを少し話してくれた。
アリシアさんは8年ほど前、国立グラン冒険者学校に入学し、5年前にトップの成績で卒業したらしい。アリシアさんにとってこのことはとても自慢なことのようだ。なんせ、得意げな表情でこっちを見て話しているのだから………。
「リック〜、ご飯できたわよ〜」
「はーい。アリシアさん、行きましょう」
「そうですね。冷めないうちに早く行きましょう。おそらく匂いからしてシチューですかね」
僕とアリシアさんはダイニングへ向かった。机の上には中央に鍋が置いてあり、鍋の両サイドには蝋燭がいつもより多めに置いてあった。
僕の正面に母さん、横にアリシアさんが座った。
目の前に置いてある皿を見るとシチューが入っていた…
「ゲッ! きのこ入ってる」
「あれ、リックってもしかしてきのこが苦手なんですか?」
「そうですけど、そう言うアリシアさんはどうなんですか」
「私はきのこ好きですよ。それに、きのこを食べないと大きくなれないんですよ」
「それ、どっかのおとぎ話ですか」
「私の故郷ではきのこを食べないと大きくならないと昔、私の故郷にやってきた偉大な魔術師が言ったそうです。ですからリックはきのこを食べないと大きくて偉大な魔術師になれないですよ」
「それなら、僕はきのこを食べなくても大きくなれるって証明してやりますよ。見ていてください、アリシアさんより大きくなってやりますから」
「そうですね、じゃあリックが大きく成長した姿を見せてくださいね」
アリシアさんはうちに泊まり込みで魔術を教えることになり、暇なときにはいろいろ雑談したり、家事の手伝いなどをしてくれた。
……それから、4年ほど経った。コールは1歳からアリシアさんに魔術を習い始め、今では4歳になって下級魔術が扱えるようになった。どうやらコールは氷属性のようだ。アリシアさんは僕に魔術を教えながら彼女自身も訓練し、S-ランクとなった。そして、僕は無詠唱で上級魔術まで扱えるようになった。
「もうこれ以上私がリックに教えられることは無いですね」
「そんなことないですアリシアさん。まだここに居て僕とコールに魔術を教えてください」
「そうですアリシアさん。残って僕たちに魔術を教えてください」
「私もここに残りたい気持ちは山々ですが、自分の力を過信していて、この4年間のリックを見ていると私もまだまだだと気付かされたので、旅をしながら魔術の訓練をしたいと思いまして、それに冒険者として森の調査などの依頼もきていて…。それに魔術は私よりリックの方が教えられると思います」
「……わかりました。アリシアさんの人生もありますし、無理にここに居てもらう訳にはいきませんね。アリシアさん頑張ってください。いつか僕もアリシアさんみたいな立派な冒険者になります」
「リック、あなたはもう十分立派ですよ。そんなに張り切って頑張られると私なんてすぐに追い抜かされてしまいます。でも、今以上に強くなりたかったら国立グラン冒険者学校に入学するといいですよ。…それでは、リック、コールさようなら。またどこかで会いましょう。最後にリック、これをあなたにあげます」
そういうと、アリシアさんは僕に首飾りのようなものを渡してきた。
「アリシアさん、この首飾りは何ですか?」
「これは、私の故郷に伝わるお守りでピンチのときに助けてくれると言われています」
「お守りなら、アリシアさんが持っててください。これから冒険に出るんでしょ」
「いえ、いいんです。これはリックが持っててください。きっといつか役に立つはずです」
「アリシアさんがそこまで言うなら。…わかりました。この首飾り、大切にします」
僕は首飾りをつけた。
「息子たちが大変お世話になりました。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。いろいろと教えていただいたので助かりましたそれでは改めてさようなら」
そう言ってアリシアさんはうちをあとにした。
「「さようなら」」
僕とコールがアリシアさんに手を振りながら別れを告げるとアリシアさんは振り向いて笑顔で手を振ってくれた。アリシアさんは顔を赤らめてすこし目元が濡れていた。アリシアさんと4人で過ごした4年間は僕にとって大切な思い出になった。
それから2年間、僕はコールにたまに魔術を教えながら、少し体を動かしたり魔術の調整をしたりしてのんびりと過ごした。たぶん、僕のこれまでの10年間の人生で一番成長が著しかったのはアリシアさんが居たときだ。アリシアさんは僕にいろいろなものをくれた。ありがとうアリシアさん。……なんかアリシアさんが死んだような流れだけど、ピンピンしてます。死んでないです。手紙でたまにやりとりしてます。コールにこんな話をしたら「アリシアさん死んじゃったの?」て涙目になって言われました。勘違いするような言い方してごめんなさい。
現在
……コールの葬儀は雨の中、ロイドやヴィクトリア、ヘレナ、ボルトたちや村中の人が集まって執り行われた。だが、そこには母さんの姿はなかった。コールの葬儀が終わり、村の人たちにあいさつをした後、母さんを探しに家があった場所へ向かった。まだ、焼けた匂いが残っており、そこには母さんが膝をついて座っていた。僕は母さんを慰めようと話しかけた。
「母さん……」
その時母さんの顔を見て確信した。とうとう母さんは壊れてしまったと。母さんは小さな声でずっとコールの名前を呼んでいた。そしてたまに幻覚でも見たのか涙を流しながら、なにかに抱きついていた。僕はもう一度母さんに声をかけた。
「…母さん」
母さんは僕の声に気づいたようで僕の方を向いた。
「あなたなんて生まれなきゃよかったんだ! あんたがいたせいでコールは死んだのよ! この人殺しが! あんたが死ねばよかったのよ!」
母さんから出た言葉は慰めの言葉でもなくコールを弔う言葉でもなかった……。
俺は雨に打たれながら村から逃げるようにして森に向かって走った。
「クソ! 俺はダメだ! 自分で決めたことも守れない!」
俺は自分の無力さを実感すると同時に自分に怒りを感じた。俺はその怒りを目の前の木にぶつけた。何出来なかった自分の無力さに涙が溢れてきた。
母さんの言うとおりだった。俺はこの世界のことを何も理解してはいなかった。
「なんで、コールが死ななきゃいけなかったんだ! きっと俺はコールに恨まれているに違いない! 俺の実力不足のせいでコールを死なせた! それに、弟すら守れない俺に父さんを探すなんて絶対に無理だ。せめてコール一人にはしないために俺も死のう」
そうだ。きっとこれが俺にできる唯一のことだ。きっと母さんも俺のことを恨んでいるに違いない。ここで死んだ方がみんなにとってきっと幸せなことだ。俺は生きる価値のない人間なんだ。その時、誰かが森の中を走ってくる音が聞こえた。
「リック! ここにいたのね」
走ってきたのはヴィクトリアだった。俺は自分への怒りに震えながら言った。
「ヴィクトリア、俺に何の用があるんだ。俺は弟すら守れない無能だぞ。なのに、冒険者になって父親を探し出して、ただ普通に笑って暮らすなんて、できるはずのかいバカな夢を見てた、生きる価値のない人間なんだ……」
「リック、あなたは無能なんかじゃない。私と初めて会った時のことを覚えてる? 私が村の年上の子にいじめられてたのをあなたが魔術で追い払ってくれたじゃない。それにあなたは村の農作業の手伝いとか家の修理の手伝いとか困っている人を助けて村の人たちから信頼されて、必要とされてる」
「必要とされてるからなんだってんだよ! 俺はコールを助けられなかった。親も二人ともいて、妹もいて、家族が誰も死んでないお前に何がわかるって言うんだよ! ……クソっ! ……なんか言い返したらどうなんだよ! 俺は今お前に八つ当たりしてるし、守るって約束して、父さんを連れ戻すことも約束したのにどっちも守れなかった……こんな俺にきっとコールは失望して恨んでるに違いない」
「……そうね、たしかに今のあなたをもしコールが見たら失望するでしょうね。でも失望するのは約束を守れなかったことじゃなくて、自分のことで責めて、諦めて前に進もうとせず、死のうとしている今のあなたをでしょうね。だから自分のことを無能だとか必要とされてないとか生きる価値がないなんて責めないで! あなたには小さい頃からの目標があるんだから」
「……」
……たしかにコールなら俺のことになったら諦めないで目標を目指して前に進めって言いそうだな。ほんとにコールは俺よりしっかりしてるな…。コールならこんな事になっても立ち止まってないで前へ進んだだろう。
「……ありがとう、ヴィクトリア。そうだよな、諦めちゃダメだよな、コールに失望されないように頑張らないと!」
僕は自分の頬を叩いた。
「それで、何か用があるみたいだったけど一体なんなんだ?」
「あぁ、そうそうこの本なんだけどね」
そう言ってヴィクトリアは古びた本を見せてきた。その表紙には五大秘石と書いてあった。
「なんだ、"五大秘石"って」
ヴィクトリアが本を開きながら説明し始めた。
「五大秘石って言うのは"魔力の秘石"、"力の秘石"、"技術の秘石"そして"蘇りの秘石"の4つのことを言うんだけど、特に注意してほしいのは蘇りの秘石なんだけど、これを使えばコールを生き返らせられるんじゃないかしら」
「そうか、でも本当に存在するのか」
「私の家にまだ見てない本が地下室にたくさんあるから探してみましょう」
「そうだな。行こう」
もし、本当に蘇りの秘石が存在しているなら、コールを生き返らせられるかもしれない。今度こそ普通にみんなで笑って暮らす夢を叶えるんだ。
次回は明日投稿予定です。