迷い星の居場所
真っ暗なヒノキの森の 向こう側低く
昇りたて黄金色の大きな満月
重なり合う枝枝の僅かな隙間から
絹のような月光が
ゆらゆらと揺らめきながら通り抜けてくる
森を刺し通した幾筋もの光の糸が
森の外に焦点を結び 陽炎のように眼前に浮かぶ
それでも今夜の星たちは遠慮がない
大きな月の眩さに負けじと
明るい星も小さな星も
筆から飛び散った絵の具のごとく
大小さまざまな飛沫で豊かに黒いキャンバスを彩る
カシオペア、白鳥、おおぐま、オリオン…
数少ない知っている星座がはっきり数えられるとワクワクする
そんなビロードのキャンバスの中で
星座の仲間に加われない光たちがいる
決まった居場所を持たない星
この地球のきょうだい星たちだ
火星、水星、木星、金星、土星、天王星、海王星
そして最果ての、いまは惑星の枠からは
外れてしまったけど大事な家族 冥王星
迷い星は 天球を埋め尽くす星屑の中で
みんなとはちょっと違った光り方で
違った動きをしてる
月と同じに 太陽光を受け止めて光る
自分自身が熱や光を放出はしないから
キラキラした煌めきが無いし
夜空の中では見つけにくい 少し地味な存在
でも 望遠鏡で捉えた木星の大目玉とか
土星のうすいリングとか
宵や明けの明星の眩い輝きとか
月と向き合った姿の美しさとか
凄く個性的で 不可思議で 魅力がいっぱいだ
自らが大きな熱と光を放ち
太古から遠い未来まで永く永く
結んだ星座の形を変えることなくそこにいてくれる
そういう大きな星たちとは違うけれど
どの惑星も「俺は此処だ!」と謂わんばかりに
瞬かない独特の光で 今日もどこかで夜空を彩る
宙に決まった場所を持たない迷い星たち
かくれんぼしてるみたいに
自由に遊んでいるように見える
型にはまらぬ姿に ちょっと心が躍る
気が遠くなる程 広くて遠い星空のなかに
あっ仲間いた! みたいな喜びで
何だか 嬉しくなる
「そこにいたんだね」
いつも 見ているよ
何処に居たって 探してやるさ