リスタート
私、藤田美幸は今日から高校一年生。そう、みんなが言う花の女子高生。そして、今日は入学式。時刻は7時50分。入学式が始まるのは8時20分。だけど、私は布団でスマホをいじっている。今から準備しても入学式にはどうせ間に合わない。まぁ、学校に行く気もないから、時間を気にしたところで何の意味もない。
私は小学生の時、クラスのリーダー的存在だった。勉強も運動も、そこそこできた。友達も男女問わずたくさんいた。小学六年生になり、学年代表にも選ばれた。ほとんどの生徒は、私が学年代表選ばれたことを喜んでくれた。だけど、そんな私を嫌う人たちもいた。陰口も言われた。なぜだろう。私は、自慢していない、リーダーぶっていない、人を傷つけることは絶対していない。なのに、なぜ私を嫌う人がいるのだろうか。普通に気になった。だから、先生にお願いをして、学校の朝集会の時間を利用してみんなに聞いた。
「なぜ、人に嫌われるようなことをしていないのに、人に嫌われてしまうのか。」
誰も発言しない。静かな時間だけがどんどん流れていく。すると、私のことを嫌っていた生徒が気まずそうにこう言った。
「ムカつくから。」
「羨ましいから。」
それを聞いた途端、他の生徒は、
「そんなことおかしいじゃないか。」
「努力してから羨ましいって言えよ。」
と、彼らを批判した。また、
「お前らみたいなやつがいるから学校の評判が落ちるんだ。」
と言い出す生徒もいた。
翌日から、私を嫌っていた彼らは来なくなった。たくさんの人から批判されて来ずらくなったのだろう。私には関係のないことだし何も気にしていなかった。彼らの自業自得だとも思っていた。
彼らが学校を休み始めてから1週間。みんなはただのずる休みだと思っていた。しかし、2週間、3週間、1カ月と時が経ち、みんなさすがにおかしいと思ったのか、ほとんどの生徒が彼らを心配するようになった。
彼らが来なくなってから2カ月が経った。
「おはよう。」
いつも通り私は挨拶をして教室に入った。でも、誰も挨拶を返してこない。ずっと集団で固まって話している。その輪に私が入ろうとしたら、
「私たち美幸ともう友達じゃないから。気安く話しかけないで。」
と仲が良かった子に言われた。意味が分からなかった。
「あの日、朝集会で美幸があんなこと言わなければ良かったのに。」
「美幸ちゃんが朝集会で変なことを言うから、みんな来なくなっちゃったんだよ…。」
他の子からも言われた。みんな口々に言い始めた。私はその場から走って逃げた。怖くて怖くて必死で逃げた。誰かに相談するのも怖かった。学校を早退して家に帰って急いで自分の部屋に向かった。
次の日、私は布団の中にいた。昨日、お風呂に入らずに寝てしまったみたいだ。お母さんが、寝ている私を布団の中に入れてくれたのだろう。布団から出て私は冷静に考えた。みんな、彼らが長い間学校に来ないから動揺しているだけだ。こんなことすぐ終わる。こう思うようにした。少し怖かったが私は学校に向かった。教室には誰もいなかった。私の机は『バカ』『死ね』『アホ』『ブス』と彫られていた。悪口でいっぱいだった。黒板にも赤いチョークで同じことが書かれていた。私は1人教室で涙を流した。
次の日、私のロッカーに入っていたものは、ゴミ箱に捨てられていた。下駄箱には画鋲がたくさん入っていた。次の日も、次の日も、私に対しての嫌がらせは続いた。そして、徐々に悪化していった。まるで、マンガやアニメで描かれているようないじめだった。いじめが終わることを願うことしかできなかった。
1ヶ月が経った。仲良くしていた友達も、もうそばにいない。あんなにたくさんの友達がいたのに…。私はあっという間にひとりぼっちになってしまった。それから私は人を信じることができなくなった。
次の日、私は学校に行かなかった。いや、行かなかったんじゃない。行けなかったんだ。私は布団から出られなかった。出ようと思ったけど体が動かなかった。体の上に重い何かが乗っかっているようだった。これが私の不登校の始まりだ。私はそれ以降小学校には行かなかった。小中一貫校だったから中学校にも行かなかった。
中学3年生の一学期の終わり頃だった。私はこのまま不登校でいるのは嫌だと思い、家から電車で二時間もかかる学校を受験した。同じ小学校の子がだれもいない高校に行きたかったからだ。そうすれば、また学校に通えるようになるかもしれないと思ったのだ。そして、私は無事に合格し、希望する学校に通えることになった。
でも、私は今家にいる。今日は高校の入学式なのに…。この高校には同じ小学校の人は誰もいないと心の中では分かっているのに…。制服を着ようとした瞬間、小学校の時に受けた嫌がらせの記憶がフラッシュバックしたのだ。また、同じ目にあったらどうしよう…。そう思うと、どうしても足が動かなかった。そして、そのまま今日は学校に行かず、ずっと布団の中で過ごした。
その週末、私はふらふらと近所を歩いていた。色々なことを考えながら歩いていたら、突然歓声が聞こえてきた。なんだろうと思って、歓声の聞こえてくるほうに歩いていくと、そこではミニライブが開催されていた。ライブに来ている人のほとんどは、十代から二十代の若い女性達だった。ステージに立っているのは中学生か高校生くらいの五人組の男の子達だった。近くにいた優しそうな女の子に
「彼らは誰ですか?」
と聞くと、
「彼らは高校生で今話題の五人グループ『YCF』よ。」
と言った。私はびっくりした。
「えっ…高校生?YCF?」
すると彼女は
「YCFってね、You Can Fly 君なら翔べる!大丈夫!という意味なんだよ。」
と教えてくれた。そして、
「彼らは最高だから。あなたも彼らのパフォーマンスを見て行った方が絶対いいよ。」
と彼女は言った。私はあまり興味がなかったけど気晴らしになるかと思い、少しだけ彼らのことを見てから家に帰ろうと思った。私は少し見たら帰るつもりだったのに、いつの間にかライブは終わっていた。私は彼らの歌に感動した。私は彼らの歌にとても元気づけられた。家に帰ってスマホで彼らのことを調べてみた。今日私は彼らのパフォーマンスに夢中だった。彼らの歌が、私の背中を押してくれているような気がした。
『君なら翔べる!大丈夫!』そう言われている気がした。彼らのおかげで、私は明日から高校に行こうと思えた。
翌日、私はちゃんと起きて、家を五時に出て学校に向かった。学校に向かっている途中も、耳にイヤホンをはめ、彼らの歌をずっと聞いていた。そうしていると、前向きな気持ちになれるのだ。人間不信の私も、きっと人を信じることができるはずだと思えるのだ。彼らの歌はまるで魔法のようだ。学校に行き教室に入ると、たくさんの人が話しかけてきてくれた。気が合う友達もできた。学校に行って、本当に良かったと思えた。それも彼ら『YCF』のおかげだ。
放課後、新しくできた友達の瑠奈ちゃんと昇降口に向かっていたら、見かけたことのある人がいた。彼のそばに近づくと『YCF』の中心メンバーの悠斗君だった。本当に驚いた。彼と同じ学校だったなんて。
「ねぇ、あの人って悠斗君だよね?」
私は、瑠奈ちゃんに聞いた。
「そうだよ。彼のことを知ってるの。私ね、『YCF』大好きなんだ。近くでライブがあると必ず行くんだよね。彼らの歌を聞くとすごく元気が出るんだよ。私も入学式に彼らを廊下で見かけて本当にびっくりしたんだ。彼らは三年生で私達の先輩なんだよ。」
と言った。
「私も『YCF』が好きなんだ。実は彼らに出会ったのは昨日なんだ。彼らのおかげで、今日私は学校に来ることができたんだ。」
と言って、私が今まで不登校だったことを詳しく瑠奈ちゃんに話した。
「そんなことがあったんだね。辛かったね。全部話してくれてありがとう。でも、本当にすごいよ。今日、学校に来ることができたんだから。『YCF』が美幸ちゃんの背中を押してくれたんだね。彼らは凄いね。私は美幸ちゃんと出会えて本当に嬉しいよ。『YCF』に感謝しなきゃ。」
私は瑠奈ちゃんがこう言ってくれたので、とても驚いた。
「私のこと嫌いにならないの。」
と聞いたら、
「なんで嫌いになるの。美幸ちゃんのこと、もっともっと好きになったよ。」
と笑顔で言ってくれた。
私は家に帰って、彼らの歌を聞きながら思った。学校に行って本当に良かった。瑠奈ちゃんと出会えて本当に良かった。『YCF』に出会えて本当に良かった。次に彼らのライブがある時は、瑠奈ちゃんを誘って、一緒に行こう。そして、窓を開けて、夜空を見上げた。とても、きれいな星空だった。
「私は翔べる!大丈夫!今度こそ楽しい学校生活を送るんだ!きっと大丈夫!」
私は小さくつぶやいた。
翌朝、
「行ってきます!」
と母に大きく手を振り、私は走り出した。
初めて書いたこの作品『リスタート』に読んでいただき、誠にありがとうございます。
私にとってこれは初の小説執筆であり、これまでの経験や感情を込めて描いた物語です。
この物語は、小学校時代のいじめや不登校、そして高校での音楽との出会いが交錯する、主人公・藤田美幸の成長を描いた作品です。
心の奥底に秘めた痛みや葛藤に向き合い、新しい一歩を踏み出す姿を通じて、読者の皆さんに勇気や希望を感じていただければ幸いです。
執筆する中で、登場人物たちが自分の内面に投影され、物語を通じて自らに問いかける時間がありました。また、初めての挑戦ということで、様々な試行錯誤がありましたが、それも成長の一環と受け止め、取り入れていくことができました。
この小説が、読者の皆さんにとって少しでも感動や共感を呼び起こし、新しい視点や気づきを与えるきっかけとなれば嬉しい限りです。最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
これからも精進し、新たな作品でお会いできることを願っています。