火種
『吸血鬼の代表である「ガリオ・ナイトメア」の話を聞くとどうやら彼らは自分たちの領土を追われてこの地に流れ着いたらしい。かなりの高ランク冒険者によって多くの仲間たちを失い庇護を求めているようだった。断る必要もないため受け入れたがパトリックやアーサーは仕草で嫌だと伝えてきた。グウやハレもいい顔をしなかった。だけどガリオ達は俺の言葉が分かり俺の言葉をグウやハレの言葉を俺に通訳できる存在だったこともあり受け入れた』
『しばらくするとガリオが他の魔物達を連れてきた。どうやら以前から交流のある種族であるらしく、今回の件でガリオ達を追いかけてこの地に来たらしい。俺は今後も協力をしてもらいたいため受け入れることにした』
『未だにみんなと直接話すことはできないがガリオのおかげでコミュニケーションをとれるようになったおかげで毎日が少しずつ楽しくなってきた』
『ガリオの建てた仮説に基づいて研究室を作った。研究内容は魔物の存在進化だ。ハレやグウがさらなる進化をすれば吸血鬼などの存在と同じ言葉を話す存在になるのではないかという研究だ。もしそんなことが可能なのであれば恐ろしい存在を作り出してしまうかもしれない。だがそれでも俺ははれやグウたちと話がしたいのだ』
「研究か…。さっきの部屋の事か?」
日記に書かれていることからそう推測ができる。この時代ににつかわない現代科学を感じる部屋は地球からの転生者である彼がいたから作られたものだったのだ。先ほどの違和感の正体が一つ解決した。
『最近少し疲れがたまってきていると相談したら転生前の俺が住んでいた部屋をみんなが作ってくれた。下手くそな絵をかいてみんなに話しただけだというのにみんなが再現してくれた。思わず彼らの前で泣き崩れてしまった。流石に冷蔵庫とか電話は作れなかったみたいだけどそれ以外はほとんど同じだった。強いて言うのであれば遠い昔過ぎて俺自身も自分の部屋以外はちゃんと思い出せなかったこともあり他は少し作りこめなかった。父さんも母さんも元気に過ごしているだろうか』
家、というのはここだろう。物がなかったり違和感が多いのは彼の記憶による再現や再現不可能なものがいくつもあったせいなのか。
『存在進化の研究は少しずつだが進んでいる。ハイゴーレム達が協力して研究を続けている。ドワーフやエルフのみんなも協力してくれたおかげで今は小さな生命体を生み出すことに成功した。これが成長すれば…』
「生命体を作った!?」
冷蔵庫や電話などが知識がなく作れないのは分かるが生命体となれば話が別だ。現代においてもクローン技術や死者の蘇生などはほぼ禁忌とされている。ましてや普通の一般人が踏み出せるところではない。
恐らくは先ほど名前が出てきたガリオやエルフ、ドワーフたちの知識によるものだろうが…。
「進化するのになんで新たな生命体が必要なんだ?」
この日記は恐らくだが毎日記録されたものではなく何かの拍子に思い付きで書いている物なのだろうから時間軸が読みにくいのは分かる。だが肝心の部分に関する記述がまるっと抜けているため話の流れや理由がよくわからないものが多い。
なんとか読み解いていってはいるがあまりにも話が突拍子もない事を書いていると読んでいるこっちもよくわからない。
「もうちょっとちゃんと書いておいてくれよな…」
小学校の頃俺が書いていた日記もこんな感じで毎日書かずとびとびで何があったかよくわからないものだったのを思い出す。
昔の黒歴史をなんとなく思い出し、少し嫌な気分になりながら俺は再び日記に目を落とす。
『王国が攻めてきた。恐らくはガリオやそのほかのメンバーを追ってきたのだろう。返り討ちにしてやった』




