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そして俺は死んだ

唐突だがこれを見ている君は生活していて辛くなったことはないだろうか?


仕事をしてお金を稼がなければならない。お金を稼ぐ為に怒られたり無理をしなければならない。好きでもない人間に媚を売らなければならない。相手の事を考えて行動して自分の事をないがしろにしてしまう。


大好きな人の死。自分が推していたアイドルの引退。突然仕事がなくなる。


上げていけばキリがないだろう。だが、生きるためにはどうしても向き合っていかなければならないことである。そういう俺も辛いことが多くすぐに生きているのが嫌になってしまう。


そんな世の中を生きてきた俺だが一つだけ生きる目標、活力を見出したものがある。


それがかわいい生き物に貢ぐということだ。


恋人も友人もいない俺は休みの旅に動物カフェにおもむきかわいい生き物にお金をかけてきた。


猫カフェ、フクロウカフェ、犬カフェ、ウサギカフェ。可愛い生き物に出会える場所にはすべて行ったといっても過言ではない。


もちろんふれあい広場などにも足を運んだ。可愛い生き物というのは人間と違い裏切らないのだ。


いや、裏切ることもあるがその場合はむしろご褒美ですらあるだろう。


自分で飼うことも考えたが仕事柄いつ休みになるかもわからないし、帰りも遅くなってしまうためにあきらめた。泣く泣く諦めた。


そんな生き物をめでる生活を送っていた俺がいつものように動物カフェを堪能し帰ろうとしていた時だった。


人が多い交差点で信号が青になったことを確認しわたっていた時である。


突如として交差点に響き渡るキィィというタイヤが地面と擦れる音。音の方向を見ると一台の白い車が蛇行しながらこちらに猛スピードで突っ込んできていた。


車との距離もあったため慌ててその場を離れようとしたがふと自分の前を見ると大型犬を連れた小さな子供を見つけた。


「ばう!ばうっ!」


(犬種はゴールデンレトリーバーだろうか?いや、そんなことよりもこのままじゃ!)


少女はへたり込んでしまい犬は少女を守ろうと車に向かって吠えている。しかしこのままでは白い車により小さな命が散ってしまう。


そう思った時には体が動いており、俺は走り出していた。


少女と犬を抱きかかえそのまま投げた。後の怪我などは正直許してもらいたい、こんな状況じゃ俺ができる精一杯の救助だったのだ。


目を横に向けると白い車はすぐそこまで迫っており、中に乗っている高齢の男性の驚愕に満ちた顔が見えた。


(あぁ、これが最近話題の踏み間違い事故か。というか世界がスローモーションに見えるな)


そんなことを考えた瞬間体にとんでもない衝撃が走ると体が宙に浮きフロントガラスに頭を強打した。


ブチブチ!と嫌な音が聞こえたのは髪の毛が抜ける音だろうか。体には回転が加わり世界がぐるぐると回った。


そんな刹那に見えた地面を最後に俺は意識を失った。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「はーい、次の人ー」


「順番にご案内いたしますのでお待ちくださーい」


意識が戻りあたりが明るくなるとそんな言葉が聞こえ俺は目を擦った。


次第に焦点が合い周りの状況が分かると辺りには背中から翼の生えた白い髪の女性たちが白い服を着て何かを言っているのが見えた。そんな場所で俺は煙った地面の上に胡坐をかいて座っていた。


辺りを見渡すと男女関係なく子供から老人まで様々な年齢の人がその白い女性に手を引かれどこかに連れていかれていた。子供が手を引かれているさまは保育所だし、高齢の人が手を引かれているのは老人ホームみたいだ。


(だとしてもここはどこだろう。お土産に買ったゲンタ君のプロマイドとかないし)


ゲンタ君というのは今日俺が行っていた動物カフェにいる俺の推しだ。大型犬で捨てられていたのを保護されたかわいそうな子なんだが、茶色の短い毛並みがなんとも可愛らしいのだ。


俺と同じようにここがどこなのかわからない人が数多くいるらしくきょろきょろと見渡している人が多い。地面は雲のようで煙に包まれているし、部屋のように四方が四角く仕切られているが屋根はなく青空が広がっている。


(とりあえず、死んだみたいだな。現実ではこんなところないだろうし)


あんな事故に巻き込まれたのだから助かるわけもない。むしろ死んだということになんだが納得した。


不思議と取り乱すようなことはなく落ち着いている自分になんとなく呆れながら立ち上がり尻を叩いた。


焦ってもしょうがないしとりあえず歩くことにした。手を引かれている子供が俺の顔をじっと見つめてきたので何となく手を振っておいた。


「はーい次の方ー!」


遠くでそんな声が聞こえるところを見ると、どうやらしばらくすれば呼ばれるのだろう。


(俺の番が来た時に戻ればいいか)


部屋をプラプラと歩き、周りの動きを見るとみんな同じ扉に手を引かれて連れていかれていた。どうやらあの扉の先に行けば何かが始まるのだろうということが分かった。


しかしそんな事務的な動きを見つめていると一人の男の番で白い女性の動きが止まった。


「あー、あなただめですね。こちらです」


そう言うと指を鳴らした。する遠くからシェパードのような顔に男性の顔がついた生き物が別の扉から現れた。


「ご案内いたします」


そういうと男性の手を取り出てきた扉へと連れて行った。


男も特に抵抗せずされるがままにその謎の生き物について行った。


(いいなー!何あの可愛い生き物!)


説明をすると俺は動物の顔がついた生き物なら何でもいい節がある。さっき男性を連れて行った生き物もエジプトの神話に出てくるアヌビスそっくりで可愛らしくみえる。


俺ははやる気持ちを抑えられず小走りで入っていった扉へと向かった。


「あれ?次の人ー?」


扉を開けると同じように白い壁でできた長い廊下があり、俺は恐る恐る歩いた。


(かってに来ちゃったけどいいよな?ちょっとあの可愛い生き物を見たいだけだし)


そろそろと進むと奥に扉が見えた。扉が閉まっていくのを見るとおそらくあの扉の先に可愛らしい生き物がいるのだろう。


子供の頃山へ入って探検した時のようなドキドキを抑えながらドアへと近づく。すると入ろうとしていたドアの横に別のドアがあることに気が付いた。


(お、こっちもそうなのかな?さっきの人の邪魔しちゃいけないしこっちから入ってみるか)


謎の気遣いを発揮しつつドアを開けた。すると中は黒い空間となっていた。比喩表現ではなく真っ黒だった。


以前ネットニュースで見た世界で一番黒い黒みたいな真っ黒だった。光も何もなくただの闇だった。


恐る恐る足を踏み入れあたりをきょろきょろと見渡すが扉以外の光源が見えることはなく、ただひたすらに闇が広がっていた。


するとバタン!という音がして部屋の扉が閉まった。


(やばい、閉じ込めらる!)


慌てて入ってきたドアを目指して走り出したが壁にたどり着くことはなかった。


(待て、扉はもっと近かっただろう!)


十メートルほどしか歩いていなかったのに、今は走り出して一分以上はたっているためこれはおかしいと察した。だがただの闇の中にいるのは怖く、俺は明かりを求めてひたすらに走り続けた。


すると五分ほど走った時にぴちゃんと水の落ちる音が聞こえた。俺は闇の中にいる恐怖から逃れるためその音を目指して走った。


だんだんと音が近くなっていき、あと少しで水の音の場所につくとなった時、目の前に明かりが見えた。


あかりと言っても月明かりほどのぼんやりとしたものだが、俺はその明かりと水の音を信じて走り抜けた。


そして外が見えた。


(よし!これで出られる!)


勢いよく外へ飛び出すとそこは海外などの観光名所で見るような広い草原だった。


「…は?」


先ほどまでいた白い空間の部屋ではなく、緑に囲まれた草原だった。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「あれー?次の方ー?」


「お前何してんだよ」


「あ、先輩!次の死者の方がいないんですよぉ」


「なに?もしかして意識がはっきりしている奴だったのか?」


「えー、そんな人いるんですかぁ?」


「たまーにな。そうなると大体特別扱いで異世界に転生させて生活させるんだが」


「あ、聞いたことあります!異世界転生ってやつですよね!」


「それなら洗礼受けさせなきゃならんからしっかり探してこい。どこかにいるだろ」


「はーい!」

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