【失恋と同じ感覚】
今日も,働いた。
大学を卒業して,三年が経過して二五歳になってもなお,彼氏の一人作らない私を心配して,お見合いをセッティングしようとする両親をのらりくらりとかわすことが,日常になってきている。
お見合いしている暇なんて無い程,今は仕事にプライベートに忙しいので,自由にして欲しいものだと思う。
しかし,二年前までは,仕事漬けのしんどい日々だったが,そこに一つの光が差し込んだ。
きっかけは,偶然見た動画配信サイトでのライブ配信。
そのライブ配信は,結成したてのメンズアイドルのメンバーが,持ち回りで,していたライブ配信。
私は,その日,ライブ配信をしていたアイドルに,惹かれた。その子のライブ配信は,時間や仕事のことをすっかり忘れる程,没頭して,見てします程だった。
試しに,他のメンバーのライブ配信を見てみたが,その子ほど,惹かれなかった。
その子のイメージを一言で,表すと,『白くて不思議な雰囲気の男の子』。
『白くて不思議な雰囲気の男の子』は,ライブ配信でも様々な,表情を見せて視聴者を楽しませてくれるし,彼の笑顔や眼に,見とれている私が居る。
これまで,アイドルにお金を使うのは,無駄遣いと考えていた私が,その子の所属する,アイドルグループのデビューライブのチケットを取り,仕事も有給を取って,見に行った。
会場は,キャパが七百五十人程のだが,会場で見た,『白くて不思議な雰囲気の男の子』に,私は更に,惹かれていった。贔屓目かつ素人目では,あるが,その子は,向こう百年…いや,向こう千年は現れないような子だと思った。
そんな,アイドルが国民的に人気になる前に出会えて,推せたのは嬉しいと思った。
その子が,所属するアイドルグループはどんどん人気が出てきて,デビューから一年が経過する頃には,『新規新鋭のアイドルグループ!今,台風の目・・・・!』とメディアがこぞって報道するほど,目まぐるしい躍動を遂げている。
そして,その躍動の中心には『白くて不思議な雰囲気の男の子』が常に,居た。デビュー以来,グループのセンターは,常に彼だった。
『事務所のえこひいき??』
ファンの間から,そんな声は,一切出なかった。このグループは,『白くて不思議な雰囲気の男の子』のグループと言っても過言ではない程,その子はグループ内で圧倒的な人気を誇っているのだ。
私もその中の一人であるのだけども。
そして,デビューから追っているファンにとって,嬉しいニュースが飛び込んできた。
『白くて不思議な雰囲気の男の子』の所属するグループが,ドームライブを行うと発表された。
私は,嬉しくてチケットの詳細を調べてチケットの抽選に参戦するために,上司に頼み込み繁忙期に有給を取得して,チケット争奪戦に参戦した。
最初の頃は,会社の昼休みにチケットを購入出来る程だったが,今では,販売抽選を行う程,チケットの入手が困難となっている。
私の有給は,その子のグループのライブスケジュールと共に,あると言っても過言ではない!!
抽選の結果は……
チケット購入の権利を得られた!しかも,アリーナ席だ!そして,場所的に,その子のポジションの近く!私は、余りの興奮で,その日は同僚から「結婚するの?」と勘違いされる程,浮かれていた。
チケット代金の支払いの期限や方法などをメモして,お金も準備して支払いからのチケットの発券に,向かおうとした時……
衝撃のニュースが,テレビで報道された。
『アイドルグループ・・・・の・体調不良による休養を事務所が発表!開催予定のドームライブも・抜きで実施か中止かを議論,近く発表へ』
『白くて不思議な雰囲気の男の子』の休養が,発表された。
私は,驚きのあまり腰を抜かした。心配だ。デビューからずっと,グループの先頭に立って,引っ張て来たのだ。相当無理をしてきたのだろう。
私は,チケットを購入するかを悩んだ。
ふと,SNSで他のファンの反応が気になり,スマホを開いて確認する。
『嘘やん!・が出ないならライブ行く意味ないやん!抽選当たったけど,購入やめようかな??』
『どうせ,中止だろ??あのグループは,・というスターが居て初めて成立するグループ』
『だよなw・が居ないならなんの魅力も感じないしw』
『チケット買うのやめよ!』
何ともまぁ,凄い荒れていた。確かに,あのグループは,その子というスターが居て成立していたグループ。それは,マネイジメントしていた事務所が痛い程理解しているだろう。
だから今,開催に関して真剣に事務所内で話し合いが,行われているのだろう。
けど,SNSは辛辣だなぁ。芸能界で活動しているとは言え,その子が,所属するグループは,まだメンバー全員が高校生。そのような,投稿が本人を傷付ける可能性なんて,検討していないのあろう。投稿した本人は,『分析した結果』と投稿しただけという認識なんだろう。
翌日,私は落ち込みながら仕事をしていた。上司や後輩に体調を心配され,同期からは『失恋したか?』とイジられる始末。
同期のイジりで言われた事が心に大きく,深く刺さった。
『失恋したか?』
『失恋』という言葉が,しっくりくる。
その子が,体調不良でドームライブに出ない可能性が高まった。
心に大きな穴が,開いたような感覚に襲われた。
そっか,『失恋』したんだ。
私は,知らない内に,その子に惹かれていたのか。
アイドルなんて,雲の上の存在で私が辛い時とかに,隣で『大丈夫だよ!』と声を掛けてくれる存在ではないけど,惹かれていた。
まるで,【 偶像崇拝 】のごとく。