第二話 孤独な決意
深夜テンションで書きました。
ある朝起きたら、ハゲていた。
鏡の前で茫然自失となった、哀れな大学一年生がそこにいた。
(……ハゲている。ハゲている。昨日は生えていたのに、ハゲている。)
「浪人時代のストレスがここにきて爆発したのか?」
「いや、昨日は生えていた。しっかりしろ、これは夢だケンマ。そうだ。ああ、そうか、夢なんだ。そうだよなぁ?朝起きたハゲてるとか、ハハハ。C級小説でもねえわ〜ハハハ……」
ぐるぐる回る思考。その割に働かない頭。
おそるおそる頬をつねる。イタイ。
おそるおそる頭を触る。ナニモナイ。ツルツルである。スベスベである。
(オレってばこんなに頭の形良かったんだなあ。って違うわ!なんで?なんでなんでなんで??あああああああああああああああッッ!!)
昨日使ったシャンプーをゴミ箱に投げ捨て、虚しく佇むドライヤーを片付け、半狂乱で原因を探るケンマは、今日から大学が始まることを思い出したが、そんなことはもうどうでも良かった。
男の生命線である髪を失ったのだ。
こんなんじゃ友達ができても温泉に行けない。海にもだ!
彼女なんてできないだろうし、オレはハゲバレが怖くて下を向くままだ!きっとそうだ!
そういえば、失ったオレの髪はどこにあるんだろう。枕元にもなかった。
泥棒が俺の髪を剃り残骸を持ってそのまま出ていくところを想像したが、そんなわけあるまい。
「ヤベっ」
ケンマは時計を見た。もう大学へ行かねば遅刻してしまう時間だ。
とにかく着替えて、とっくに冷えた電気ケトルの中身を捨てる。
注目されてハゲだと揶揄されるのは絶対に嫌なのである。
とにかくまだ肌寒い時期だし、ニット帽は不自然じゃないだろう。ケンマはニット帽を深く被り、
「ああー!クソッ!」
と吐き捨てて大学へと向かった。
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オリエンテーションはつつがなく終わり、午後の予定は何もないことに気づいたケンマはダッシュで帰路へついた。
結局大学では友達ができなかった。オリエンテーションも話半分で、履修登録うんぬんかんぬん。
きっと同学科の人達は友人作りに勤しみ昼飯を食っている頃だろう。仕方がない。こちとらそれどころではないのだから。
ケンマは大学についてからずっと、一連の超常現象について考えていた。
まず、なぜ突然に?(これ以上『ハゲ』とは言わないことにした。悲しいのである)
これについては後々病院に行けば光が見える気がしている。遺伝では俺の家系に『薄い人』はいない。
つまりなんらかの病気であるのではないか、と言うことである。
毛根のかけらすら感じられない我が頭皮からはそこはかとなく哀愁が漂っている。やかましいわ。
髪の残骸については、これこそが超常現象であると考える。
昨日風呂に入ったあとしっかりとドライヤーをした。なくなるタイミングもなければ、痛みも何もなかったのだ。
これについては完全に謎である。オカルトクラブにでも持ち込みたいところである。いやそれはダメだ。バレるからな。
そして最後、これが一番重要なこと。それは、対策である。
オレはそこそこイケメンだ。今は亡きおばあちゃんはイギリス人とのクォーターだったらしく、血は薄れているが鼻は高く少し色素が薄い。目は少し細く顔を顰めれば少し強面である。背丈は175cmである。
そんなそこそこイケメンとして生きてきたのに、髪がなければ周囲からの評価は、言いたくはないがハゲである。
どんなイケメンも、ハゲには勝てない。チャームポイントの全てが禿げの引き立てとなってしまうのである。
これは由々しき問題である。しかしそこに一筋の光が差し込んだ。
『かつら』である。そう、あの『かつら』である!
『かつら』とは人の頭部にかぶせて、元々ある頭髪を補ったり別の髪型に見せたりするために使う、人毛もしくは人工的な髪のこと(Wiki)である。
オレは今まで丸わかりなヅラを見て笑ってきた人生を恥じた。
彼らは決死の思いで頭に着ける、人生を共に歩む仲間なのだ。
マ○オでいうところの帽子、のび○くんでいうドラ○もんである。
教頭先生に手を合わせた。微笑んでくれている気がしている。とある教頭はくしゃみをした。
オレは調べた。中には何十万円もする高級品や、すぐ手の届く安物まで幅広くある。
考えていたことをまとめていると、家に着いてしまった。
この事を親に話してみようか、と思ったがそれはやめた。
どうやって説明すればいいのか分からなかったし、息子の毛がなくなっただなんて聞けば、きっと悲しむだろう。
親にも言えないのだから、友達になんか話せない。今は離れ離れの友人に話したりすれば、きっと笑われる。耐えられず殴ってしまいそうだ。
俺は孤独な闘いに身を投じることになるかもしれない。
幸い今日は金曜日。明日にでもオレはなけなしのお年玉を貯めた貯金でカツラを買いに行くことにした。
千と千○のハゲ隠し?上等だよ。かかってこいやオラァ!!オレは今とんでもなくアドレナリンが出ている。
ふと考える。この超常現象が病気でなければ外的要素、つまり原因がある。それが対話可能な何かであるならば、オレは何があっても許さない。
あるかも知れない未来をオレからことごとく奪ったのだ。何があっても復讐してやる。
ボツ案
とりあえず、親に連絡してみることにした。
「もしもし、父さん?」
「ああ、ケンマ?どうかしたかい」
「今、時間大丈夫かな」
「ああ、今昼休みだし——」
〜説明中〜
「父さん、オ、オレ、髪が、がみがァ!!」
「……泣くんじゃない、ケンマ。金なら、お前のためならいくらでも出してやるからな。ああ、そうだ。明日にでも帰ってきたらいい。」
かくしてオレはとりあえず親に事情を説明して、頭にフィットしたカツラを買うことにした。大学生活2日目にして、明日帰省する予定だ。
いっぱい書いたつもりでも、案外短いもんですね。
書き溜めとかしとらんので、ゆっくり更新していくことになりそうです。