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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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80/82

第80話 採用

本日2話目の投稿です。

「侍従見習い……? ですか?」


 何を言われたのか一瞬わからなくて首をかしげる。

 見習いというのは問題ない。今の私はどう見ても子どもだし、なんならスノウ目当てで私自身に役職のようなものは付かない可能性まで考えていたくらいだ。

 それが侍従だなんて……。単なる召使いの従僕あたりでも上等だと考えていたけど、それほど私のことを買ってくれているのだろうか。


「はは、コヴィルさん直属ですか。大出世だな」


 後半は私に向けた言葉のようで、クレイブが頭をくしゃくしゃに撫でてくる。


「もう、何するんですか」


 乱れた髪を適当に手櫛で整えながら文句を言うと、改めてさっきの『才能』という言葉について考えてみる。直接役に立つのはスノウとトールくらいのものではないんだろうか。もちろん私がいて初めて成立するのかもしれないが、それがテイマーとしての才能なんだろうか。


「何か問題があるなら言ってくれたまえ」


 コヴィルが私たちのやり取りを見て少しだけ表情を緩める。


「いえ、スノウたちはともかく、あたし自身が侍従という役割をこなせる自信がないというか……」


 いざ定職にありつけるかもしれないという段階になって初めて、かつて自分が無能と呼ばれていた事実が重くのしかかってくる。

 街の外で狩猟をしていたときはうまくいっていたけど、あれは失敗しても他人にそこまで迷惑はかからない。しかし侍従ともなれば責任重大ではないだろうか。

 いや、因子として様々なスキルを注入された今となっては、むしろそれなりにできるようになっている可能性のほうが高い。こうして誘ってくれたことは嬉しいけれど、過去に言われ続けたことが重しとなって、『できる』という気持ちが一切湧いてこなかった。


「何言ってんだ。見習いなんだから子どもが細けぇこと気にすんじゃねぇよ」


 沈んだ気分のまま俯いていると、またも大きな手で頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。


「そうだとも。やってみてダメだったときに考えればいい」


「大丈夫よアイリスちゃん。あなたにはちゃんと才能があるんだから、自信持って」


 次々と励ましの言葉をもらっているうちに、ダメだと思ってるのは自分だけなのかと勘違いしそうになる。でもせっかく国を離れてやり直してるんだから、何事にも挑戦するべきじゃないのかと気持ちを入れ替えて顔を上げた。


「ほう、決心が付いたかね」


 そんな私の表情を見てコヴィルが口元をニヤリと笑みの形に変える。


「はい。せっかくなので、自分がどこまでできるのか試してみたいと思います」


「ははは、固いねぇ。そんなにかしこまらなくても、気楽に受けてくれてかまわないんだよ」


「さっきまで口に物入ながらしゃべってただろうが。急に真面目にしなくていいんだよ」


 私としてはいつも真面目なつもりだから、そう言われるのは不本意である。またもやくしゃくしゃにされた髪と相まって不満に思っていると、スノウが近づいてきてぺろぺろと顔を舐められた。


「ちょっ、くすぐったいよ」


 スノウと戯れていると、その様子を見たトールも近づいてきて足に顔をこすりつけてきた。


「愛されてるわねぇ」


 マリンのしみじみとした呟きを聞いて、自分は一人じゃないということにも改めて気づかされた。スノウたちもいるし、なんだかんだフォレストテイルのみんなも気にかけてくれている。ちょっとだけ気分が上向いた気がした。


「よし、そうと決まればさっそく手続きをしてしまおう。アイリスくんは今宿を拠点にしているんだったか」


「はい、そうです」


「うむ。ならばこの屋敷に部屋を用意させるので、そこを拠点として生活するがよかろう」


「へっ?」


 コヴィルに言われた言葉に思わず目が点になる。引っ越すことなんてまったく考えていなかったけど、よく考えればありえない話ではない。


「従魔のことも心配しなくてよいぞ。ある程度広い部屋を用意しておくのでな」


 それから次々と私が侍従見習いになる上での雇用契約内容が決定していく。

 まず給金は月に一万ゼル、銀貨一枚だ。見習いは基本的にお小遣い程度の給金しか出ないが、住み込みであれば衣食住はすべて雇用主が提供することになっているとのこと。

 見習いなので、午前中に侍従やメイドに勉強や訓練を見てもらうのが主な毎日になるということだった。


「一週間のうち一日だけ休みはあるが、午後は基本的に自由にしてもらって構わん」


「え? 午後は自由時間なんですか?」


 聞き間違いかと思って尋ねてみれば、首を縦に振る答えが返ってきた。ラルターク皇国で王子をやっていた時は、朝から晩までみっちりと訓練をしていた気がする。


「何を驚いておる。四歳の子どもに朝から夕方まで予定を詰めるわけがなかろう。子どもには遊ぶことも大事なのだよ」


「あ、はい、わかりました。ありがとうございます」


 そういえばそうだ。大人ならば一日しっかりと仕事をするんだろうけど、今の私は四歳の子どもだった。


「明日のお昼から部屋は使えるようにしておくので、そのころにまたここに来るといい。屋敷の者には連絡をしておくから誰かに伝えれば部屋まで案内させよう」


「はい!」


 こうして代官様との面接の結果、晴れて侍従見習いとして屋敷で働くことが決まったのであった。

 これで第二章が完となります。

 お読みいただきありがとうございました。

 面白い、続きが気になる、と少しでも思っていただけたのであれば嬉しく思います。さらに作品をブクマ、★をつけていただけると大変励みになります。

 第三章は『アンファンの街の侍従見習い』編を予定していますので、今しばらくお待ちください。

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