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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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第77話 新種登録

「こんにちは」


 ギルドへと顔を出すと、昨日見た女性職員がいたので声をかける。まだ昼過ぎなのであまり人もおらず、職員の前には誰も並んでいなかったのだ。


「あら、こんにちは。今日も獲ってきたんだ」


 目をぱちくりと瞬かせながら、スノウが咥えている猪に視線がいっている。今日の狩りは午前中だけだったので、成果は一匹だけだ。だけど昨日狩った鹿よりは大きいので高く売れそうではある。


「……それってどこで獲ったの?」


 眉をひそめた職員に聞かれるけど、スノウたちが獲ってきた獲物なので具体的な場所まではわからない。


「スノウに聞いてください」


 ぽつりとつぶやくと職員と一緒になってスノウに目を向ける。


「……一緒に狩りをしてるんじゃないの?」


「あはは……、じゃ、ちょっと買取カウンターに行ってきます」


 正直に答えると怒られそうな空気を察知して、前回も買取をしてもらったカウンターへと歩いていく。


「ほぉ、こりゃまた立派な猪を捕まえたもんだな」


 今日の職員さんは前回と違って年配の方みたいだ。スノウにも怯まずにてきぱきと獲物の検分を済ませると木札を渡してくれる。昨日と同じやり取りをすると、女性職員のもとへと戻って、昨日もらった木札をカウンターに乗せる。背伸びをして見上げると、じっとりとした視線が返ってきた。


「ちゃんと従魔たちに守ってもらいながら狩りをしてるんでしょうね?」


 じっと見つめてくる職員の目を見ていられなくなって、ふとスノウたちへと顔を向ける。


「二人にはがんばってもらってるので大丈夫ですよ」


「……それならいいんだけど」


 しばらく視線を感じていたけど諦めたんだろうか。渡した木札を手に取ると、カウンターの下から革袋を取り出すと上に乗せる。


「はい。昨日の報酬ね」


「ありがとうございます」


 手を伸ばして袋を掴むと中身を確認する。思ったよりずっしりしていると思ったけど、大銀貨が何枚か入っているみたいだ。お肉として全部売ったけど、思ったより高く売れたんじゃないだろうか。


「じゃあ帰ろっか」


 とりあえず用事は終わったのでスノウとトールに声をかけると、狩猟ギルドを後にして宿へと帰った。




「ただいまー」


「あら、おかえりなさい。今日は早かったわね」


 宿に帰ると女将のシルクさんがカウンターで仕事をしていたので声をかける。


「そういえばクレイブがアイリスちゃんのこと探してたわよ」


「え? クレイブさんが?」


「ええ。食堂にいるからあとで声かけてあげて」


「わかりました」


 なんだろうと思いつつもそのまま食堂に顔を出すことにする。部屋に戻ってもお金を数えるくらいしかやることがないし、今日は早めに切り上げたからそんなに疲れてもいない。

 そのまま食堂へと足を踏み入れると、確かにクレイブが両肘をテーブルにつけて頭を抱えていた。


「……どうしたんですか?」


「え? あ……、おお! いいところに!」


 救世主が来たとでも言わんばかりに顔を輝かせるクレイブだったが。


「いやぁ……、新種の魔物登録の用紙を書いてたんだが……」


 歯切れ悪くそう零しながらポリポリと頬を掻く。


「魔物の特徴とか本人がいねぇと書けねぇことが多くてな」


 苦笑いするけれどそれは確かに間違いない。パッと見ただけの印象で特徴とか書けたらすごいね。自分が書いてやると言った手前、私に声をかけづらかったのかもしれない。


「そうなんですね」


 クレイブの隣の椅子によじ登ると、テーブルの上に広げられている用紙を覗き込む。これは確かにスノウやトール本人がいないと書けそうにない。クレイブ自身がはっきりと言わなくても、私が必要なことはすぐに分かった。


「あたしにわかることだったら何でも聞いてください」


「ああ、助かる」


 といっても本来は私が書かないといけない書類のような気がしなくもない。でも私自身が面倒な書類を書くのが嫌なのでやらないというだけの話だけど、よく考えれば別にクレイブに書いてと頼んだわけでもないし、やっぱり気にしないでおこう。

 記載する内容は見た目や大きさに体重ほか、各部位の色や肌触りなど事細かく記載する項目があった。食べ物の嗜好や仕草だったり、ありとあらゆるものが対象のようである。確かにこれは面倒くさい。


「とりあえず見てわかることは先に書いちまうか」


 それだけ呟くと、スノウを観察しながら用紙へとひたすらペンを走らせる。その間にトール用の登録用紙を手に取ると上から順番に眺めてみる。

 うーん……。見た目じゃわからないところは全部聞かれるんだろうなぁ……。うーん……。


 悩みつつも用紙の空欄を埋めていくクレイブへと視線を向ける。


「はぁ」


 大きくため息をつくと、鞄からペンを取り出してトールの用紙へと書き込んでいく。見た目でわかるところは全部クレイブに書いてもらうとして、私だけが知っている特徴は観念して自分で書くことにした。結局クレイブに聞かれて答えるか、自分で書くかの二択なのだ。

 ここまでしてもらっておいて「新種登録はやっぱりいいです」とはとてもではないが言える雰囲気ではなくなっている。


「お、悪いな」


 用紙を書き進める私に気づいたクレイブがそう声をかけてくる。

 面倒なことはやりたくないと言ったのに、こんなことになるなんてまったくもってその通りである。とはいえ書いてくれるんだよねとけしかけたのも自分ではあるので、憮然とした表情のまま無心で手を動かすのであった。

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