表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/82

第72話 従魔の買い食い

「……これからどうしよう?」


『何も考えてなかったのか』


 ルンルン気分で工房の外に出たはいいが、ふとその後の目的がないことに気づいてしまった。馬鹿にした口調はもう慣れてきたが、姿が見えずに聞こえてくる声にはなかなか慣れそうにない。


「お昼までもうちょっと時間あるし、東側をぶらぶらしようかなぁ」


 東門へ向かう大通りへと戻ってくると、そのまま東に向かって歩いていく。西側エリアよりも賑やかな感じがして、人通りも多い。

 こっちを見てびっくりする人が多いけど人が多いからかな。でも探索者みたいに装備をがっちりした人は少ないし、終焉の森から遠い街の反対側だしここらにいるのは一般の住民なのかもしれない。

 露店もちらほらあるので串肉を買ってみた。トールにあげるとしっぽを振り回しながら食べてるところを見るに、魚だけじゃなくてお肉も好きみたいだ。こっちのエリアで美味しいご飯屋さんを探してみるのも悪くない。


「スノウとトールは他に何か食べてみたいものある?」


 と聞いてみると、スノウが鼻をひくひくさせて先頭に立って歩き出す。そういえば街の中でスノウたちの赴くままに歩いたことないなと思いながら、興味深く後をついていくとひとつの露店の前で立ち止まった。


「ひいいぃぃぃ!?」


 スノウを目の前にしてお店のおっちゃんから悲鳴があがるけど、なんとか逃げずに踏みとどまっている。


「あ、ごめんなさい。これが食べたいみたいで……」


 態度に似合わず商魂たくましいといえばいいのか。

 でもスノウってそんなに怖いかな? あ、トールのせい? うーん……。

 スノウたちの首元を順番にもふもふと撫でながら何個くらい食べそうか考える。自分は一個でいいけど、スノウもトールも大きいからね。


「えーっと、とりあえず五個ください」


「はいいぃぃぃ! ただいま!」


 腰が引けながらも焦ることなく確実に作業をこなしていくお店のおっちゃん。ふたを開けると湯気が大量に出てくる籠から取り出されたのは、白いもっちりしたものだった。ひとつが私の小さい握りこぶし五個分くらいの大きさがある。


「ど、どど、どうぞ!」


「ありがとうございます」


 葉っぱに包まれたそれを受け取ると、代金を払って店先から少し移動する。包みを開けるとほかほかと湯気が立ち上り、ほのかに美味しそうな匂いがしてきた。


「熱いね」


 手に持とうと思ったけど熱すぎた。スノウが顔を寄せてくるとふんふんと匂いを嗅いでくる。

 ちょっとだけ精霊さんにお願いすると熱くなくなったので一つ手に取る。ふわふわのパン生地みたいだなぁと眺めていると、私の手ごとスノウが舌で嘗めとって上手に口に入れる。


「あはは、ごめんごめん」


 もう一つあげると一瞬でなくなった。トールにもあげるけどどっちも一口で食べるから中身が見えない。

 最後の一個になったので自分の番だ。一口かじれば中には肉と野菜の餡が入っていてとてもおいしい。


「うまうま」


 熱い肉まんを食べていると、スノウとトールがじーっと見つめてくる。


「自分の分は食べたでしょ」


 しかも二個ずつ。体の大きさを考えると私の十倍は食べそうだけど、そこまでは考えない。だけど肉まんに注がれる視線はまったく外れる気配がない。


「もう……、じゃあ次に何食べたいか考えておいてね」


 と伝えれば、どちらも目を輝かせて鼻をふんふんとさせて周囲の匂いを嗅ぎだした。

 こうしてスノウとトールの赴くままに露店巡りをしていると、お昼になるころにはおなか一杯になっていた。




 気が付けば東門前の広場まで来ていたようだ。西門よりも広い東門が近くに見える。この街道の先はどこにつながってるんだろうか。この街は最西端らしいので、東に進めば王都なんかにも行けるのかもしれない。

 まぁまだやることがあるので行かないけど。


「でも門の外がどうなってるのかはちょっと気になるよね」


 西には終焉の森があって、他に街や村は存在しない。それに森から出てきたっていう危険な魔物はいなくなったし、東は危険な森もないし外に出ても問題ないはずだ。


「よし、行ってみよう」


 というわけで門から出て街道の様子を見てみることにした。

 門番の人もギョッとしながらも通してくれたので、問題なく外に出ることができた。


「おおっ」


 向こう側に広がっていたのは馬車や人が行き交う大きな街道だ。道の両端は草原が広がっているが、西門の外の草原ほどの高さの草は生えていない。遠くまで見渡せばただ水平線が広がっている。

 街へと入るために門に並んでいる人がいくらか見える。西門の外には誰もいなかったけど、普通の街の入り口はこうなってるんだ。

 東に向かって真っすぐ続く街道を歩いていく。しばらく歩いて門が小さくなり、周囲から人がいなくなったころ。


「ちょっと走ってみようかな」


 その場で軽く飛び上がると、腰の短剣の納まり具合を確かめる。多少飛び跳ねても大丈夫そうだ。


「よし、じゃあ行くよ!」


 スノウとトールに声をかけると、街道を勢いよく駆けていく。精霊さんにお願いしてバフもかけまくるとさらに速度が上がる。短剣に付与されている素早さ増加の効果もあって、思ったより早く街道を走ることができるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ