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無才王子は国を離れてスローライフを満喫したい  作者: m-kawa
第二章 始まりの街アンファン

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第66話 魚が食べたい

「魚が食べたい」


 ふと思い立ったあるお昼時。魚を焼こうと宿の庭までやってきた。森から出るときに川で手に入れた魚が鞄の中にある程度入ったままなのだ。


『煙で洗濯物ににおいが移りそうだな』


 見回せば確かに洗濯物がぶら下がっている。建物近くの物干しにかけられているけど、恐らく宿泊客の洗濯物だろう。


「むぅ……。どこで魚を焼けば……」


 さすがに煙の匂いが移れば怒られそうなことは容易に想像がつく。


『女将に聞いてみたらどうだ』


「そうしよう」


 終焉の森の魔物が平原で目撃された影響で、探索者はともかく私は街の外に出るなと釘を刺されている。

 ひとまず宿の女将さんであるシルクさんに、自炊できそうな広場が街中にないか聞いてみることにした。庭から宿の中へと戻ってくるとちょうどフォレストテイルの四人とばったりと会った。


「お、アイリスじゃねぇか」


「こんにちは」


「ああ、お前もこれから昼飯か?」


「うん」


「そりゃいい。んじゃたまには外に食いに行くか。何か食いたいもんでもあるか?」


 四人もちょうどお昼時だったようで誘われたが、食べたいものなどすでに決まっている。


「お魚が食べたい」


「魚かよ……」


 反射気味に答えたんだけど、クレイブが顔をしかめている。

 なんか変なこと言っただろうか。


「また高いものを……」


「え? 魚って高いの?」


 ぽつりと聞こえてきた言葉に思わず反応するが、森から流れてくる川があるんだしそこそここの街でも食べられると思っていた。


「仮にも終焉の森の近くの川だからな。ある程度できるやつじゃないと取りに行くのは危険だ。それに今は森の魔物が草原で目撃されてるしな」


「そうなんだ」


 街の料理屋さんで調理された魚が食べられるかもとちょっと期待したけど、どうやらそうでもなさそうだ。

 鞄から魚を取り出すのはさすがにやめたほうがいいだろうか。もう森を出て数日は経っているし、生ものは腐り始める時期かもしれない。


 ……いや、まだギリギリいけるか?


 しかしすでに魚を食べたい気分になっていて今から違う食べ物にいけそうにない。肉は熟成させると美味しくなるみたいだし、もしかすれば魚も同じなのでは。おいしい魚が食べたいです。


「魚ならあるよ?」


 気が付けば私の口からそんな言葉が漏れていた。


「は? どこに?」


「鞄の中」


「……え?」


 背中の鞄を下ろして口を開けると、手を突っ込んで確認する。よかった。鞄より小さい魚はいくつかありそうだ。

 ちょっとだけ安心して小ぶりの魚を引っ掴むと、そのまま取り出した。


「おいおい、その魚いつ獲ったんだよ」


「……森にいるとき?」


 首をかしげて答えるけど、そうとしか言えない。


「スノウが川面に衝撃波を叩き込んだら、魚がいっぱい浮いてきたからそのまま獲った」


 当時の様子を思い出しながら語ると、クレイブたちフォレストテイルの面々が呆れた表情になっている。


「そりゃなんとも豪胆な魚の獲り方で……」


「日は経ってるだろうけど、まだ食べられそうね?」


 マリンが確かめるようにして魚に顔を近づけて匂いを嗅いで判断してくれる。ほぼ時間経過しない鞄なので、本当はとれたて新鮮なはずだけど、そこまではわからないらしい。


「ひとまず魚があるのはわかったから、とりあえず今は仕舞っとけ」


「うん」


 いそいそと鞄に魚をしまっていると、クレイブが腕を組んで何かを考えている。鞄を背負いなおしたところで、組んでいた腕をほどいて外を指さした。


「しゃーねぇな。外で魚焼くか?」


「外?」


「ああ、街の外だ。調理場だけ貸してくれるようなところは知らねぇし、ましてや高級品の魚を見せびらかす真似もしたくねぇ」


 そこまで魚は高級品なのか。ただの食材と思ってたけど、クレイブの口ぶりからすると宝石並みなのかもしれない。

 それとは別に聞き逃せない言葉も出てきた。


「あたしも外に出ていいの?」


 森の魔物が草原に現れたおかげで街の外に出られなくなったのだ。もともと一人では出るのも苦労するところだったのに、これで完全に出られなくなってしまった。


「俺たちが一緒なら大丈夫だろ」


「やったぁ!」


「んだよ、そんなに外に出るのが嬉しいのか」


 嬉しいことには違いはないけれど、そうじゃない。


「ううん、魚が食べられるからね」


「そっちかよ」


 今は街の外に出ることよりも魚が食べられることのほうが優先だ。すでに魚を食べる気分になっているのだから仕方がない。


「んじゃ市場で適当に他の食材も買って行くか」


「んふふ」


 他にも食材を揃えてから行くと聞いて嬉しくなる。市場で個人的に気になる野菜は買っていたけど、鞄に入っているだけでまだ食べていなかったりする。

 それにフォレストテイルの皆と外でご飯というだけでなんだか嬉しい。食堂で一緒に食べることはあったけど、魚が食べたいだけの自分にわざわざ付き合ってくれるというのが本当に嬉しかった。


「なんだよ気持ち悪ぃな」


『本当にな』


 どうやら気持ちが言葉に出ていたようだ。時折聞こえるキースの声も気にならない。

 市場で気になった食材を片っ端からクレイブに買ってもらったあと、お昼ご飯にすべくみんなで街の外へと向かった。

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