第53話 王子の料理その2
『……銀行はなかったのか?』
「ぎんこうってなに?」
唸っていたキースの問いかけに即座に反応する。言葉を返してから内容を反芻してみるけど、やっぱりぎんこうというものが何なのかはわからなかった。
『お金を預かって運用する機関だが……』
戸惑いつつも返ってきた言葉の内容を行っている業種を思い浮かべるが。
「……商業ギルドくらいじゃないの?」
『あるんじゃないか』
「でも預けると手数料取られるからね。やっぱり全財産は自分で持ってる人の方が多いんじゃないかな」
『は? 手数料を取られるだと? 利息を払ってもらうの間違いではないのか?』
「え? りそく?」
さっきからキースとの会話がかみ合ってない。
「なんで? お金を預かってもらうんだから、利用料は支払わないとダメでしょ?」
『……現代人はバカなのか? 預かったお金の運用とかあるだろうに』
またもやブツブツと呟きだしたキース。どうやら古代人は高度な経済観念を持っていたんだろうことが推測できる。
とりあえずああなったキースは放置するに限る。残った道具をせっせと回収することにした。
「うーん……、さすがランク6ってところだなぁ」
一ゼルの小銅貨だけが入った革袋、十ゼルの銅貨だけが入った革袋……といった具合に、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨専用の革袋があり、きっちりと分けられていた。宝石もたくさんあって、現金が使えなかったりする場合の備えもあったようだ。あとは調味料の類も多く出てきた。
「これは料理が捗りそうだ」
と料理に思いをはせているとお腹が空いてきた。もうそろそろお昼ご飯かもしれない。ちらりとスノウを見やると、獲物を最後まで食べ尽くして満足そうだった。
「じゃあ私もお昼にしようっと」
さっそく手に入れた道具を使うことにする。お鍋とまな板を取り出すと、森で採れた大根と人参も鞄から取り出す。
「確かこのぴーらーってやつで皮がむけるんだっけ?」
取っ手を握りながら形状を確認していると、なんとなく使い方がわかってきた。大根を左手に持ってピーラーの薄い刃の部分を当ててさっと引く。
「おお、すごいすごい」
なんだかおもしろいように皮がむけていく。楽しくなりすぎて皮をむいた後もしばらくむいてしまった。これはこれで食べられるのでお鍋に放り込んでいく。
壊した鞄から出てきた獲物から肉もナイフで小さく切っていくと、鍋にどんどん入れていく。あとは適当に水を入れたら味付けして火にかけるだけだ。
「とりあえず塩を適量っと……。あとは……」
目の前に並べた調味料を順番に眺めていく。黒い液体、茶色い湿った土のようなもの、赤い粉末、黒い粒粒、黄色いペースト状のものなどなど。まともな料理をしたことがない私にとって、塩以外はよくわからない。
勇気を出して黒い液体を少しだけ指に付けて舐めてみる。
「ッ!?」
塩からい……! けど後からうまみが広がっていく! よし、キミに決めた! もう即答だ。
『醤油に味噌に……、唐辛子に胡椒とマスタードか。各種香辛料まで揃ってるな。醤油ベースでその鍋の量なら、ひと回し掛ければちょうどいい味付けになるんじゃないか』
「うおわあっ!」
急に復活したキースに後ろから話しかけられて、黒い液体の入った容器を取り落としそうになる。
『これだけあればいろいろ作れそうだな。……料理人に腕があればだが』
「うるさいな!」
びっくりした上に鼻で笑われてついつい大きな声が出る。
とりあえず言われるがままに鍋に一周分の、しょうゆと言われた黒い液体を掛けると蓋をして煮えるのを待つことにした。
それにしても聞いたことのない調味料の名前ばかりだ。ラルターク皇国にはきっとなかったものなんだろう。
<料理スキルがレベル1からレベル2に上がりました>
「……上がった」
『塩以外の調味料も駆使できるようになったからじゃないか?』
キースから馬鹿にした言葉が出てくるけど、まさかそんなわけが……、ないよね?
「だから森の中じゃレベル2にはなれなかったってことだね」
負け惜しみとは思いつつも、そういえばステータスを確認できてなかったと思って開いてみる。
=====
ステータス:
名前:アイリス
種族:人族
レベル:22
年齢:4
性別:男
状態:正常
HP:73/73
SP:998/1008
MP:2601/2643
物理スキル:
剣術(2) 短剣術(1) 投擲術(1)
槍術(1) 斧術(1) 格闘術(1)
双剣術(1) 双短剣術(1) 棒術(1)
杖術(1)
魔術スキル:
地(2) 水(2) 火(2) 風(2)
光(2) 闇(2) 無(2) 精霊(5)
補助スキル:
料理(2) 採集(1)
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うん。なんかすっげぇMPが増えてる。多少減ってる分は、ここに来るまでに精霊魔術を使ったからか。相変わらず生命力が低いけど幼児だから仕方がない……と思う。
思えばかなり森で鍛えられたものだ。一般成人男性でも街暮らしならば魔物を倒すこともないため、個人のレベルは5もあればいいほうと言われている。
『吹きこぼれるぞ』
「えっ?」
急に届いたキースの声に振り向けば、鍋が泡を吹いていた。
「え? え? どうしたらいいの!?」
『蓋を開けるか火を消すかすればいいだろうが』
続いて聞こえてくるアホなのかという言葉と共に蓋を開けて火を止めると、吹いていた泡がおさまってきた。
「はぁ……、びっくりした……」
胸をなでおろすといい匂いが漂ってくる。
「おいしそう……」
ゴクリと唾を飲み込むと、鍋の中を覗いてみる。火は通ってるように見えるし、もうそろそろ食べられるかな? というか早く食べたい。
お皿によそってさっそく口に入れる。
「うんまぁ……」
じんわりと沁み込んでくる味が最高に美味しかった。そりゃ料理レベルも2になるよね。




